15 出たな、ぽよーん人間
また、こんどは美祢八が聞く。
「あれ――? そっちの、相方は? 確か、DJやってる、」
「うん。こっちは、パク・ポヨ・ソユン」
「何、ぽよ? その、ミドルネームは、ぽよ」
「いや、君が、ぽよぽよ言うのをやめないからじゃないか」
「【ぽよ】、だって?」
「うん。彼女はね、語尾に【ぽよ】がついてしまうウイルスに、感染していると思われるんだ」
「はぁ、」
と、美祢八が、気の抜けた相槌をする。
そんな感じで、パク・ソユンの紹介は、そこそこにして、
「いやぁ……、しかし、こんな偶然も、あるもんだな」
「んあ? 偶然、とは?」
「いや、ちょうど、さっきね? 僕らふたりで、美祢八の話を、していたんだ」
「はぁ、そうけ。まあ、俺のほうも、DJしてるアンタの相方の名前が、東京のイベントにあったからな、もしかしてとは思っていたが」
「ああ、そうだったんだ」
と、ドン・ヨンファと美祢八は、互いに奇遇だと話しつつ、
「それで、東京に滞在している間、こっちで美術関係のビジネスでいろいろ回っていたけど……、なかなか、美祢八とコンタクトをとれる機会がなくてね」
「あん? そうけ? 俺、都内の現場にいたんやけど」
「え? そうなの?」
「おうよ」
美祢八は答えつつ、スマホの画面を見せる。
そこに映るは、このGホテルと同じく、高級ホテルのカフェ・ラウンジと思しき一角。
そして、この大広間と同じく、版築壁――
ただ、その版築壁のテイストはというと、少し異なっていた。
ところどころに小石の混じった凝灰岩の、【さざれ石】を模した層が、少しジグザグになりながら走っていた。
そして、版築壁の真ん中のほうはというと、まるで遺跡か何かの壊れた壁を思わせるかのように、“ぼっかり”と、【何もない空間】が空けられていた。
なお、その空虚な空間を埋めるように、活け花が飾られるという。
「これも、版築だよね?」
「まあ、見てのとおりやっちゃ。この、コンクリのカスみたい箇所が、ちょっと、面倒やったんやけどねい」
「コンクリのカス、って……」
「まあ、だって、こんな感じになるやろ? 砂利とかが出た感じが」
と、軽くつっこもうとするドン・ヨンファに、美祢八は自身の作品を“コンクリのカス”呼ばわりしつつ、
「――で? わざわざ、“こんなもん”見に来たわけけ? アンタたち?」
と、本題のように、聞いてきた。
「こんなもん、って……」
「まあ、作ったというか、俺がプロデュースしたから、“こんなもん”呼ばわりで沢山よ。たかが壁よ、凝ってようが、凝ってなかろうが」
「はぁ、」
と、また同じく、このGホテルのプロデュースした壁も“こんなもん”呼ばわりしてみせた。
こんな感じで、ドン・ヨンファと美祢八のふたりは話す。
その間、パク・ソユンは暇になったのか?
黄色の茶室のなかで、ポ〇モンダンスのようなものをひとり踊っているという、シュールな姿があったが……
「それで? この【黄色の壁】は、この大きな藁スサの壁は……、何か、どこかの茶室や数寄屋でも、参考にしたのかい?」
「はぁ……、どだった、かのう?」
「どうだったか、って……」
と、ドン・ヨンファが、「適当だな……」とつっこみたくなりかけながらも、
「まあ、どこだっけ? たしか【蓑庵】とか、京都の、何かそんな茶室を、適当に参考にしたっけ?」
「何かそんな茶室って、適当だなぁ」
「だから、適当にって、言ったやねか」
と、美祢八は答えつつ、
「まあ、その蓑庵とかの茶室の壁にしたって、ぶっちゃけ、どんな風に塗ったのか、よう分からんらしいけどねい。たぶん、下地の荒壁を薄く塗って、ある程度の厚みを持った、荒壁風の中塗り仕上げを塗ったんじゃないか――、って説があっけど」
「荒壁風の、中塗り仕上げねぇ」
「おうよ。短いスサは、そのまま荒壁の材料のようにして、土に混ぜて塗って……、長いスサのほうは、塗ったあとの生乾きの壁に、手か鏝で、おさえて埋め込んだんじゃないか――、って。まあ、この壁も、そのやり方で塗ったんやけど」
「へぇ……」
と、説明した。
ここで、
――トコ、トコ……
と、そのまま踊っておけばよいものを、パク・ソユンが戻ってきた。
まあ、相変わらず、話すのはドン・ヨンファと美祢八のふたりで、
「で? 肝心の質問、なんだけどさ? 美祢八」
「うん?」
「この、【黄色の壁】っていうのは、どこから着想したんだい? モダンな、まっ黄色でいて、その、蓑庵のような、侘び寂を感じさせる壁ってのは」
「あ、あん……? その、黄色の、ひび割れた荒壁風ってのは、のう――」
美祢八は、天を仰いで思い出そうとする仕草を見せる。
そんな、意味深な様子で“溜め”を入れつつ、
「ぶっちゃけ、ラブホのエントランスにあった作品を、パクった」
「――!?」
と、次に放った美祢八の回答に、ドン・ヨンファはガクッ――、と崩れそうになる。
「ら、ラブホって……、もうちょい、嘘でもいいから、マシなエピソードとかないのかい?」
「まあ、不器用なもんでねい。嘘はつけんのやっちゃ」
「不器用って、ねぇ、」
と、ドン・ヨンファは、それ以上、つっこむ気力を失う。
またここで、
「ところで? せっかく、【黄色の壁】について話したついでだ――。アンタたちも、何か、面白いもんでも求めているとこやろ?」
と、話題を変えて、美祢八がドン・ヨンファとパク・ソユンのふたりに聞いてきた。
「まあ、そうだね、そういうのを調べる活動――、的なことをしているからね」
「このまま、韓国に帰るだけだと、確かに、少し退屈かもしれない、ぽよ」
「おっ? 出たな、ぽよーん人間」
とは、美祢八。
「は? 何、それ? ぽよ?」
「だから、君が、【ぽよ】をやめないからじゃないかって」
と、反応するパク・ソユンに、ドン・ヨンファが言いつつ、
「まあ、内容を話してぽよ」
「壁のことを話した“ついで”に、って言うからには……、何か、壁や建築に、関係あることなのかい?」
と、美祢八に、本題を話せと促す。
「ああ、俺も、そんなに詳しくは知らなんだけど……、ちょっと、“ある噂”があってな」
「ある噂、だって――?」
「ぽよ?」




