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【黄色の壁】  作者: 石田ヨネ
第二章 東京、Gホテルにて

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15 出たな、ぽよーん人間

 また、こんどは美祢八が聞く。

「あれ――? そっちの、相方は? 確か、DJやってる、」

「うん。こっちは、パク・ポヨ・ソユン」

「何、ぽよ? その、ミドルネームは、ぽよ」

「いや、君が、ぽよぽよ言うのをやめないからじゃないか」

「【ぽよ】、だって?」

「うん。彼女はね、語尾に【ぽよ】がついてしまうウイルスに、感染していると思われるんだ」

「はぁ、」

 と、美祢八が、気の抜けた相槌をする。

 そんな感じで、パク・ソユンの紹介は、そこそこにして、

「いやぁ……、しかし、こんな偶然も、あるもんだな」

「んあ? 偶然、とは?」

「いや、ちょうど、さっきね? 僕らふたりで、美祢八の話を、していたんだ」

「はぁ、そうけ。まあ、俺のほうも、DJしてるアンタの相方の名前が、東京のイベントにあったからな、もしかしてとは思っていたが」

「ああ、そうだったんだ」

 と、ドン・ヨンファと美祢八は、互いに奇遇だと話しつつ、

「それで、東京に滞在している間、こっちで美術関係のビジネスでいろいろ回っていたけど……、なかなか、美祢八とコンタクトをとれる機会がなくてね」

「あん? そうけ? 俺、都内の現場にいたんやけど」

「え? そうなの?」

「おうよ」

 美祢八は答えつつ、スマホの画面を見せる。


 そこに映るは、このGホテルと同じく、高級ホテルのカフェ・ラウンジと思しき一角。

 そして、この大広間と同じく、版築壁――

 ただ、その版築壁のテイストはというと、少し異なっていた。

 ところどころに小石の混じった凝灰岩の、【さざれ石】を模した層が、少しジグザグになりながら走っていた。

 そして、版築壁の真ん中のほうはというと、まるで遺跡か何かの壊れた壁を思わせるかのように、“ぼっかり”と、【何もない空間】が空けられていた。

 なお、その空虚な空間を埋めるように、活け花が飾られるという。

「これも、版築だよね?」

「まあ、見てのとおりやっちゃ。この、コンクリのカスみたい箇所が、ちょっと、面倒やったんやけどねい」

「コンクリのカス、って……」

「まあ、だって、こんな感じになるやろ? 砂利とかが出た感じが」

 と、軽くつっこもうとするドン・ヨンファに、美祢八は自身の作品を“コンクリのカス”呼ばわりしつつ、

「――で? わざわざ、“こんなもん”見に来たわけけ? アンタたち?」

 と、本題のように、聞いてきた。

「こんなもん、って……」

「まあ、作ったというか、俺がプロデュースしたから、“こんなもん”呼ばわりで沢山よ。たかが壁よ、凝ってようが、凝ってなかろうが」

「はぁ、」

 と、また同じく、このGホテルのプロデュースした壁も“こんなもん”呼ばわりしてみせた。

 こんな感じで、ドン・ヨンファと美祢八のふたりは話す。

 その間、パク・ソユンは暇になったのか? 

 黄色の茶室のなかで、ポ〇モンダンスのようなものをひとり踊っているという、シュールな姿があったが……


「それで? この【黄色の壁】は、この大きな藁スサの壁は……、何か、どこかの茶室や数寄屋でも、参考にしたのかい?」

「はぁ……、どだった、かのう?」

「どうだったか、って……」

 と、ドン・ヨンファが、「適当だな……」とつっこみたくなりかけながらも、

「まあ、どこだっけ? たしか【蓑庵さあん】とか、京都の、何かそんな茶室を、適当に参考にしたっけ?」

「何かそんな茶室って、適当だなぁ」

「だから、適当にって、言ったやねか」

 と、美祢八は答えつつ、

「まあ、その蓑庵とかの茶室の壁にしたって、ぶっちゃけ、どんな風に塗ったのか、よう分からんらしいけどねい。たぶん、下地の荒壁を薄く塗って、ある程度の厚みを持った、荒壁風の中塗り仕上げを塗ったんじゃないか――、って説があっけど」

「荒壁風の、中塗り仕上げねぇ」

「おうよ。短いスサは、そのまま荒壁の材料のようにして、土に混ぜて塗って……、長いスサのほうは、塗ったあとの生乾きの壁に、手か鏝で、おさえて埋め込んだんじゃないか――、って。まあ、この壁も、そのやり方で塗ったんやけど」

「へぇ……」

 と、説明した。

 ここで、


 ――トコ、トコ……


 と、そのまま踊っておけばよいものを、パク・ソユンが戻ってきた。

 まあ、相変わらず、話すのはドン・ヨンファと美祢八のふたりで、

「で? 肝心の質問、なんだけどさ? 美祢八」

「うん?」

「この、【黄色の壁】っていうのは、どこから着想したんだい? モダンな、まっ黄色でいて、その、蓑庵のような、侘び寂を感じさせる壁ってのは」

「あ、あん……? その、黄色の、ひび割れた荒壁風ってのは、のう――」

 美祢八は、天を仰いで思い出そうとする仕草を見せる。

 そんな、意味深な様子で“溜め”を入れつつ、


「ぶっちゃけ、ラブホのエントランスにあった作品を、パクった」

 

「――!?」

 と、次に放った美祢八の回答に、ドン・ヨンファはガクッ――、と崩れそうになる。

「ら、ラブホって……、もうちょい、嘘でもいいから、マシなエピソードとかないのかい?」

「まあ、不器用なもんでねい。嘘はつけんのやっちゃ」

「不器用って、ねぇ、」

 と、ドン・ヨンファは、それ以上、つっこむ気力を失う。

 またここで、

「ところで? せっかく、【黄色の壁】について話したついでだ――。アンタたちも、何か、面白いもんでも求めているとこやろ?」

 と、話題を変えて、美祢八がドン・ヨンファとパク・ソユンのふたりに聞いてきた。

「まあ、そうだね、そういうのを調べる活動――、的なことをしているからね」

「このまま、韓国に帰るだけだと、確かに、少し退屈かもしれない、ぽよ」

「おっ? 出たな、ぽよーん人間」

 とは、美祢八。

「は? 何、それ? ぽよ?」

「だから、君が、【ぽよ】をやめないからじゃないかって」

 と、反応するパク・ソユンに、ドン・ヨンファが言いつつ、

「まあ、内容を話してぽよ」

「壁のことを話した“ついで”に、って言うからには……、何か、壁や建築に、関係あることなのかい?」

 と、美祢八に、本題を話せと促す。

「ああ、俺も、そんなに詳しくは知らなんだけど……、ちょっと、“ある噂”があってな」

「ある噂、だって――?」

「ぽよ?」

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