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【黄色の壁】  作者: 石田ヨネ
第二章 東京、Gホテルにて

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14 何だよ? その、ガチの版築って

 気を取り直して、

「まあ、ソユンが言うとおり……、茶室ってのは、普通の木造建築と違って、柱が細いし、その分、壁の厚さも、薄くなるわけだからね。その、薄い中で、何とか荒壁から上塗りまで納めるために、手間や技術が余計にかかるのは、当然だろうね」

「ああ、つまり、めんどくさくなるってことね、ぽよ」

「まあ、ざっくり、悪い言い方をすれば、そういうこと」

 と、ドン・ヨンファは答えつつ、

「しかし、これはこれは……」

「ぽよ」

 と、感嘆の声とともに、つい壁を触ってしまいそうになりながらも、その“表情”を観察した。

 ザラザラとした、壁の表面。

 横方向に、波のように走る、スジ状の模様。

「これは、引き摺り壁――ってヤツ、かな?」

「引き摺り壁、ぽよ?」

「ああ……、その名のごとく、鏝を引き摺ってつけた、スジ状の仕上げだよ。たぶん、端っこが沿って、真ん中が少し丸くなった鏝を用いているみたいだね。まあ、そもそも、昔は、鏝っていってもね? そんなに良質な鏝なんて無かったみたいだからね」

「ああ、引き摺って、それっぽく誤魔化してたってことね、ぽよ。あと、何か、侘びとか、寂びとかっぽい感も出て良いじゃん的な、ぽよ」

「うん。たぶん、昔は、そんなノリだったかもしれないね。まあ、そもそも、こんな荒壁のようで、しかも、大きい藁スサが入っているっていう……、平らに、塗りにくい材料だからね。なおさら、誤魔化すような表情にする理由も、あるんだろうね」

 と、ドン・ヨンファは、そうまとめつつ、

「まあ、実際、どうやって仕上げたのか――? これは、美祢八に会う機会があったら、聞いてみたいなけどな」

 と、くだんの人物、る・美祢八について触れた。


「何、ぽよ? 今回、いろいろ回ってたんじゃないの、ぽよ? アンタの、美術関係のビジネスとかで、ぽよ? その時に、会う機会とか、無かったの、ぽよ?」

「ううん……、今回は、会う機会が無かったんだよな」

「ぽよ」

「それに、彼は、気まぐれというか……、少々、神出鬼没的なところが、あってね」

「ぽよ、」

 と、含みを持たしたように話すドン・ヨンファに、パク・ソユンが若干、トーンだけ変えた『ぽよ』で相づちした。

 そのようにしながら、ふたりは黄色の、二畳ほどの茶の間から出る。

 ふたたび、版築壁を前にして、

「そう言えばさ、版築って、何? ぽよ?」

 と、パク・ソユンが、ドン・ヨンファに率直に聞いた。

「ああ、版築ってのは……、両側から型となる板で挟んでね、土を叩きしめて、壁を築いていく工法だよ」

「両側から型の板って、コンクリートの型枠みたい感じ、ぽよ?」

「まあ、イメージとしては近いかもしれないけど、コンクリート打設みたいに、いっぺんに、高さのある壁をつくるわけにはいかないからね。少しずつ、型の高さを増したり、型を順に、ズラして使ったりしていたみたいだね」

「はぁ、わざわざ、そんなめんどい方法でやったの、ぽよ?」

「まあ、昔は、土とか砂利とか、石灰とか……、そんな自然の材料と、人力を用いるような道具しかなかったから、仕方ないね」

「ぽよ」

 と、パク・ソユンは相づちしながら、

「ちなみに、さ? ぽよ? これは、版築風とかじゃない、ぽよ? ガチの版築じゃなくて、ぽよ」

「何だよ? その、ガチの版築って」

 と、ドン・ヨンファはつっこむ。

 つっこみながらも、

「まあ、“版築風”ってのは、最近、よくあるみたいだけどね」

「ぽよ。だって、薄かろうが厚かろうが、何か層状に仕上げれば、パッと見、そんな違いって、分からなくない? ぽよ?」

「まあ、そうなんだろうけど……、ただ、実際に、厚みをもった版築壁でしか出せない、その……、何って、言うのかな? 重量感や、質感……、存在感みたいなものは、あるだろうからね」

 ドン・ヨンファは答えながら、より近づいて、マジマジと版築壁を見てみる。

 奥行きや、感じる質感、と――

「うーん……、これは、そうする、と……」

 と、ドン・ヨンファが、まるで格付けチェックのように判定しようとした。

 その時、



「――ああ。こいつは、ガチの版築やっちゃ」

 


 と、男の声がして、

「――!?」

 ドン・ヨンファと、

「ぽよ――」

 と、パク・ソユンが反応した。

 版築壁の大広間に、

 ――スッ――

 と、現れた人影。

 作業着の上に、黒のコートを羽織った、謎の雰囲気の男。

 その姿を見て、

「あ、れ……? 美祢八?」

 ドン・ヨンファと、

「ん? ああ、ドン・ヨンファ……、会長さんじゃないけ?」

 と、件の人物本人、る・美祢八は互いに気がついた。

「は? 知り合い、ぽよ?」

「うん。だから、面識はあるって、言ってたじゃないか。彼が、る・美祢八だよ」

「はぁ、い。る・美祢八で、ぇす」

 と、美祢八は、変な、ミーハーなイントネーションで答えた。

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