13 ああ、カレーと同じね、ぽよ。寝かせると、味に深みが出る的な、ぽよ
「まあ、そうだねぇ……? たぶん、土に、黄色の顔料でも混ぜているんだろうね」
と、間を置いて、ドン・ヨンファが答えた。
「ぽよ」
「まあ、土自体も、赤土だったり黄土だったり……、それ自体で、充分、魅力的な色を持っているものもあるんだけど……、それを、敢えて、顔料と組み合わせた―――。また、顔料単色では出せない、複雑な、深い色味も、土を用いているからこそ、出せているんだろうね」
「はぁ、……それで? これは、藁ぽよ? 稲の?」
と、相槌をしつつ、パク・ソユンが壁を指さした。
発酵し、半ば溶けて細かくなった、いわゆる“寝かせた”藁スサが、土にまんべんなく混ざっている。
また同時に、5から10センチほどの、少々大き目な藁スサが、いかにも「土壁です」と云わんばかりに、存在感を放っていた。
「うん。【藁スサ】ってヤツだね。ヒビを防止して、土壁の結合力を高める働きをしているというか」
「ぽよ」
「寝かせた藁スサは、発酵によって、細かい繊維に分かれたり……、もっと細かく見ると、稲藁に含まれるガラス質が、溶け出すみたいでね……、それが、さながら複合材料として、壁の強度を高めるんだろうね」
「ああ、カレーと同じね、ぽよ。寝かせると、味に深みが出る的な、ぽよ」
「カレー、て……。ま、まあ、そんなもんだと思えば、いいか……」
とここで、カレーに例えるパク・ソユンに、ドン・ヨンファが動揺しつつも同意する。
また続けて、
「しかし、ねえ――」
「ぽよ?」
「これは、5から10センチほどと……、少々、大きいんだよなぁ」
と、ドン・ヨンファは引っかかるように、壁の中の、大きめの藁スサに注目した。
いっぽう、
「はぁ、私には、それが、大きいのか小さいのか……、分からない、ぽよ」
と、パク・ソユンは、ドン・ヨンファと対照的にというか、あまり興味なさそうに反応する。
「……」
ドン・ヨンファが、やはり、チーン……とした顔になる。
まるで、「こいつ、マジでこのまま、『ぽよ』をやめる気がないな……」と、云わんばかりに。
その、『ぽよ』のパク・ソユンが、
「少々大きいって、普通なら、違うの、ぽよ?」
「まあ、いちばん下地の壁の、荒壁なら、あり得るんだろうけどね。もし、中塗り仕上げだとしても、せいぜい3センチくらいの長さのスサだろう。それに、これは、茶室だから、さ? 仕上げの、壁だからね」
「ぽよ。敢えて、その、藁スサを仕上げに生かしたとかは、ぽよ?」
「うん。まあ、実際、そうした仕上げの茶室も、あるらしいだけどね。何庵、だったっけ?」
ドン・ヨンファが、茶室もしくは数寄屋の名を思い出そうとしていると、
「アン、アン、庵……、ぽよ」
と、パク・ソユンが、ジトッ……とした目で、答えた。
「は――?」
「……」
「何、言ってんだよ? ドラえもんじゃないか、それは? というか、『ぽよ』を付け忘れかけたでしょ?」
「ぽよ」
と、ドン・ヨンファはつっこみながらも、
「まあ、たぶん、このスサは……、最初から材料に混ぜたものと、後から入れた――、伏せこんだものが、あるんだろうね」
「ん? 何で、後から入れる、ぽよ?」
「たぶん、塗りにくいから――、じゃないかな?」
「ああ……、さすがに、職人だからって、どんな材料でも塗れると思うなぽよ――、的な、ぽよ」
「何だよ? どんな材料でも塗れると思うなよって……、まあ、実際は、そうなんだろうけど」
「ちなみに、茶室っていわれてもさ、ぽよ? 私には、田舎の、古い家の壁が思い浮かぶんだけど、ぽよ」
と、パク・ソユンが言った。
「田舎の、壁って、」
「だって、田舎の民家の壁だろうが、茶室の壁だろうが、同じ土壁じゃない、ぽよ?」
「まあ、それは、そうだね。それこそ、日本の戦国時代だったかな? いち国家に匹敵するような法外な価値が、ある焼き物についた――なんて話があるらしいけど……、そんなもの、ただの歪んだ茶碗といえば、ただの茶碗だしね」
「つまり、原価や相場を超えた以上の――、時には異常なほどの価値がつくっていうのが、【芸術の境界】――、的な感じ? ぽよ?」
「あっ――? 意外に、いいこと言うじゃないか、ソユン」
「何ぽよ? 意外に、って、ぽよ」
「ちなみに、『超えた以上の』って、『超えた』と『以上』は、くっつかないんじゃないのか? 表現的に」
「ぽよ」
と、『超えた』と『以上』の、どこか数学で習った感のあることを、ドン・ヨンファは思い出しながらも、
「まあ、とはいえ……、茶室の壁ってのは、一見すると、民家の土壁と同じように見えても、相当手間がかかっていたり……、やっぱり、ちゃんと見ると、その違いが、分かるというものだよ」
「というのは、ぽよ? 建物が、ちっちゃいから、とか、ぽよ?」
「うん。たぶん、それも結構あると思う。実際、茶室というか、数寄屋だっけ?」
「ああ、牛丼ね、ぽよ」
「違うよ。てか、知っててボケてるだろ? ソユン」
と、数寄屋とスキヤをかけるパク・ソユンに、ドン・ヨンファはつっこんだ。




