12 ナポレオンが、最後、寝てた部屋とか
(2)
パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりは、引き続きGホテルにて、例の【茶室】いわれる場所に足を運んだ。
板張り床に、灰色の版築壁の大広間――
真ん中にあるのは、二畳ほどの小上がりで、なおかつ、“まっ黄色の壁”の空間。
まず、外周のほうの、大広間の版築壁から鑑賞していく。
「ほう、ほう……」
ドン・ヨンファが感心した様子で、顔を近づけ、観察する。
綺麗に、水平に、層状になった版築壁。
土と砂利の、自然にできるムラの織り成す表情。
そんな版築壁を、見ていく中で、
「これは? 樹脂と、粘土でできた、造花なのかな?」
「ぽよ?」
と、ドン・ヨンファの目がいったのは、版築の層の継ぎ目――
そこを中心にとして伸びる、蔓バラを模した、造花だった。
樹脂と粘土を組み合わせた、石の彫刻と生花を融合させたような、なんともいえぬ質感。
淡い灰色の粘土と、緑や赤の色が、マーブルのように混じる。
それは、左官的な要素を持った装飾ともいえる。
版築の継ぎ目に沿う形で、少しジグザグになりながらも、美しく壁をデコレーションする。
「おっ……?」
と、また、ドン・ヨンファは気がついた。
同じく、版築の継ぎ目――
砂利と隙間の多くなった、コンクリートでいえば、ジャンカにあたる箇所。
蔓バラのデコレーションと協奏する形で、金色というか黄鉄鉱のような色の、パテのようなものが詰められていた。
それはさながら、まるで、漆と金箔を用いた茶碗の修復技術、“金継ぎ”を思わせるようだった。
「はぇぇ……、こりゃ、面白いねえ」
まるで、美の鑑定をするように……、まあ、実際に鑑定めいたことをしているわけだが、ドン・ヨンファが感心した。
いっぽう、
「そう? ぽよ?」
と、こちらは関心無さそうに、相変わらず「ぽよ」をつけて反応するパク・ソユンに、
「……」
と、ドン・ヨンファは、チーン……とした顔で沈黙する。
そうしながらも、
「いや、その……、見てごらんよ? まるで、金継ぎのようなじゃないか?」
「金継ぎ、って……? ああ? 何か、聞いたことあるぽよ」
と、パク・ソユンも思い出した。
「最初は、漆を使った、壊れた湯呑や器の、ただの修復技術だったものが、さ? 金箔を用いることで、かえって、新しい面白さや、芸術的な価値を生み出した――」
「……」
「【ヒビ】という、“自然”の造形。金色という、絶対的な色――。また、ワンポイントだけ、別の色や模様を埋め込む面白さ」
「ぽよ」
「ぽよって……、もう少し、感心してくれよ……。ソユンだって、ファッションにも、“そういうの”あるじゃないか? 金継ぎをモチーフにした、衣装なんてのも」
「まあ、あるかもしれないけど……、私、あんまし建築は興味ないのよ、ぽよ」
「はぁ、」
と、反応の薄いパク・ソユンに、ドン・ヨンファは、半ば諦めの相づちをする。
まあ、“壁の鑑賞“など、面白がる人間のほうが少ないのだろうが。
そのようにしつつ、次に、大広間の中心にある【黄色の壁】を観ていく。
「ほぉ……」
感嘆の声が漏れる、ドン・ヨンファと、
「ぽよ……」
と、パク・ソユンの、「ぽよ」が続く。
「……」
ドン・ヨンファが、「また、こいつは……」と、調子を狂わされるような顔をしながらも、版築壁のほうと同じように、壁を鑑賞していく。
それは、まさに、黄色の壁だった。
「う~ん……、ゴッホの【ひまわり】のように、ただ明るいだけの黄色でなく、どこか“くすんだ”、何か陰鬱めいたとこのある黄色というべき、か――?」
「ぽよ」
「まるで、ね? 中世のヨーロッパで用いられた、ヒ素を含有した緑色の顔料が、得もいわれぬ深みや妖しさを出したように……、何か、感じるんだよね」
「ああ? 何か、そんな緑色、あった、ぽよ。ナポレオンが、最後、寝てた部屋とか、ぽよ」
「何だよ、最後寝てたって……、まあ、寝てたんだろうけど」
と、思い出して言うパク・ソユンに、ドン・ヨンファはつっこむ。
また、
「ねぇ? これってさ? 土、ぽよ?」
と、こんどはパク・ソユンが関心を持ったのか――、壁を指して、ドン・ヨンファに聞いた。
確かに、単色の黄色の顔料ともに、土と藁スサの、複雑に相まった表情がのぞく。
その土はというと、田舎の、ヒビと大きな藁の入った荒壁のような無骨さと……、また同時に、茶室の、【聚楽壁】のような繊細さを併せ持っていた。




