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【黄色の壁】  作者: 石田ヨネ
第二章 東京、Gホテルにて

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12/44

12 ナポレオンが、最後、寝てた部屋とか




          (2)




 パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりは、引き続きGホテルにて、例の【茶室】いわれる場所に足を運んだ。

 板張り床に、灰色の版築壁の大広間――

 真ん中にあるのは、二畳ほどの小上がりで、なおかつ、“まっ黄色の壁”の空間。

 まず、外周のほうの、大広間の版築壁から鑑賞していく。

「ほう、ほう……」

 ドン・ヨンファが感心した様子で、顔を近づけ、観察する。

 綺麗に、水平に、層状になった版築壁。

 土と砂利の、自然にできるムラの織り成す表情。

 そんな版築壁を、見ていく中で、

「これは? 樹脂と、粘土でできた、造花なのかな?」

「ぽよ?」

 と、ドン・ヨンファの目がいったのは、版築の層の継ぎ目――

 そこを中心にとして伸びる、蔓バラを模した、造花だった。

 樹脂と粘土を組み合わせた、石の彫刻と生花を融合させたような、なんともいえぬ質感。

 淡い灰色の粘土と、緑や赤の色が、マーブルのように混じる。

 それは、左官的な要素を持った装飾ともいえる。

 版築の継ぎ目に沿う形で、少しジグザグになりながらも、美しく壁をデコレーションする。


「おっ……?」


 と、また、ドン・ヨンファは気がついた。

 同じく、版築の継ぎ目――

 砂利と隙間の多くなった、コンクリートでいえば、ジャンカにあたる箇所。

 蔓バラのデコレーションと協奏する形で、金色というか黄鉄鉱のような色の、パテのようなものが詰められていた。

 それはさながら、まるで、漆と金箔を用いた茶碗の修復技術、“金継ぎ”を思わせるようだった。

「はぇぇ……、こりゃ、面白いねえ」

 まるで、美の鑑定をするように……、まあ、実際に鑑定めいたことをしているわけだが、ドン・ヨンファが感心した。

 いっぽう、

「そう? ぽよ?」

 と、こちらは関心無さそうに、相変わらず「ぽよ」をつけて反応するパク・ソユンに、

「……」

 と、ドン・ヨンファは、チーン……とした顔で沈黙する。


 そうしながらも、

「いや、その……、見てごらんよ? まるで、金継ぎのようなじゃないか?」

「金継ぎ、って……? ああ? 何か、聞いたことあるぽよ」

 と、パク・ソユンも思い出した。

「最初は、漆を使った、壊れた湯呑や器の、ただの修復技術だったものが、さ? 金箔を用いることで、かえって、新しい面白さや、芸術的な価値を生み出した――」

「……」

「【ヒビ】という、“自然”の造形。金色という、絶対的な色――。また、ワンポイントだけ、別の色や模様を埋め込む面白さ」

「ぽよ」

「ぽよって……、もう少し、感心してくれよ……。ソユンだって、ファッションにも、“そういうの”あるじゃないか? 金継ぎをモチーフにした、衣装なんてのも」

「まあ、あるかもしれないけど……、私、あんまし建築は興味ないのよ、ぽよ」

「はぁ、」

 と、反応の薄いパク・ソユンに、ドン・ヨンファは、半ば諦めの相づちをする。

 まあ、“壁の鑑賞“など、面白がる人間のほうが少ないのだろうが。


 そのようにしつつ、次に、大広間の中心にある【黄色の壁】を観ていく。

「ほぉ……」

 感嘆の声が漏れる、ドン・ヨンファと、

「ぽよ……」

 と、パク・ソユンの、「ぽよ」が続く。

「……」

 ドン・ヨンファが、「また、こいつは……」と、調子を狂わされるような顔をしながらも、版築壁のほうと同じように、壁を鑑賞していく。

 それは、まさに、黄色の壁だった。

「う~ん……、ゴッホの【ひまわり】のように、ただ明るいだけの黄色でなく、どこか“くすんだ”、何か陰鬱めいたとこのある黄色というべき、か――?」

「ぽよ」

「まるで、ね? 中世のヨーロッパで用いられた、ヒ素を含有した緑色の顔料が、得もいわれぬ深みや妖しさを出したように……、何か、感じるんだよね」

「ああ? 何か、そんな緑色、あった、ぽよ。ナポレオンが、最後、寝てた部屋とか、ぽよ」

「何だよ、最後寝てたって……、まあ、寝てたんだろうけど」

 と、思い出して言うパク・ソユンに、ドン・ヨンファはつっこむ。

 また、

「ねぇ? これってさ? 土、ぽよ?」

 と、こんどはパク・ソユンが関心を持ったのか――、壁を指して、ドン・ヨンファに聞いた。

 確かに、単色の黄色の顔料ともに、土と藁スサの、複雑に相まった表情がのぞく。

 その土はというと、田舎の、ヒビと大きな藁の入った荒壁のような無骨さと……、また同時に、茶室の、【聚楽壁】のような繊細さを併せ持っていた。

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