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【黄色の壁】  作者: 石田ヨネ
第二章 東京、Gホテルにて

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11 ビールがオレンジジュース理論

「……」

 ドン・ヨンファは沈黙しつつも、柿スイーツに手をつけながら、

「――で? ポーカーは、どうだったんだい?」

「ああ、まあまあ、走ったんだけどさ――、ぽよ」

「うん」

 と、相づちして、続きを聞く。

【走る】とは、生き残りのトーナメントで、入賞するか否かに関わらず、“けっこう良い順位まで残ってプレイする”――的な意味である。

 まあ、けっこう良い順位でも、入賞しなければ、ドべ――、つまり最下位と変わらないのだが。

 それはさておき、話しに戻ると、

「ちょっと、カチキレかけたことが、あったわ。……ぽよ」

「……」

 と、ちょいちょい「ぽよ」をつけるパク・ソユンに、ドン・ヨンファは虚無の表情になりそうになりながらも、

「カチキレかけたって、また、ティルトでもしかけたのかい?」

 と、聞いてやる。

 なお、【ティルト】とは簡単にいうと、不運が続いたりなどで頭に血が上った的な状態を指すが、

「あら? ティルトを、否定しちゃダメよ――、ぽよ」

 パク・ソユンが、ズバッと刺すようなキメ顔で、柿をドン・ヨンファに向ける。

「はぁ、」

「ティルトを否定しない、ティルトを受け入れ、止揚するべきぽよ」

「何だよ、そりゃ?」

「分かるぽよ? ティルトを乗り超えた先にね、道はあるの――、ぽよ」

「ああ……、ちょっと冷静になって、覚醒にした的な状態ね」

「ぽよ」

 と、パク・ソユンは「そのとおり」だと相づちしながら、

「それに、有名な言葉があるじゃない? 『ポーカーを始めてティルトしたことがないヤツは、情熱が足りない。ポーカーをしててティルトをするヤツは、知性と理性が足りない――』って、ぽよ」

「聞いたことない、っての。何? その? 共産主義にハマったことないヤツは――、的な? てか、結局ダメじゃん、最後の一文で」

 と、ドン・ヨンファはつっこみながら、

「で――? 何に、ティルトしかけたんだい?」

「うん。でっかいポットを、取られた時に、さ? ぽよ。いや、別にポットを取られるのはいいんだけどさ? ぽよ。相手の、目の前の女が、たぶん、彼氏にさ? ぽよ。『やったにょ~』とか、抜かして喜んだもんだからさ? ぽよ。あともうちょいのところで、後ろからふたりとも、寝技をかけようかと思った、ぽよ」

「何だよ、寝技って……。てか? どうやって、ふたり同時にかけるんだよ」

 と、答えたパク・ソユンに、さらにつっこまざるを得ない。


 またドン・ヨンファは、パク・ソユンの、いつも以上に、ジトッ……とした目に気づいて、

「ちなみに、二日酔い気味だろ? ソユン」

「は? 酔ってない、ぽよ。だから、前から、お酒は絶対やめたって言ったじゃん、ぽよ」

「いや、もろに、日本酒の瓶があったじゃないか、部屋に。てか、ごめん。そろそろ、その“ぽよ”、やめてくれないか?」

「何故、ぽよ」

「いや、若干……、いや、若干どころか、けっこうウザい」

 と、「何か、問題が?」の顔するパク・ソユンに、ドン・ヨンファは答えるも、

「てか? 日本酒って、あれは、米系のジュースよ。スポーツドリンクよ、ぽよ」

「あれを飲んで、スポーツなんかできるのかよ? 酔拳かい? もう、いいよ。その、ビールがオレンジジュース理論は」

 と、やれやれと呆れてしまう。


 そのようにしながらも、アフヌンは進みつつ、

「ところで、さ?」

 話題を変えるドン・ヨンファに、

「ぽよ?」

 と、パク・ソユンが、柿のささったフォークを咥えかけたのを止める。

「やっと、落ち着いたからさ……、【例の茶室】でも、見に行かないかい?」

 ドン・ヨンファが提案する。

 なお、例の茶室とは、ホテル内にある、“る・美祢八”の監修した【黄の茶室】のことを指す。

「はぁ、茶室?」

「うん。僕の関わる、美術関係のビジネスも兼ねてね」

「まあ、いいぽよ、よ」

 パク・ソユンは答える。

「……」

 と、ドン・ヨンファは、永延と「ぽよ」をつけてくる目の前のパク・ソユンに、もはや、つっこむ気力も失せてしまったが……

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