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【黄色の壁】  作者: 石田ヨネ
第二章 東京、Gホテルにて

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10 喧しく、激しくも、まるでカタルシスの涙が流れるかのような、聖堂の賛美歌のごとく美しいUKハードコア


 その後ヨーロッパを席巻するわけであるが、時を同じくして遥か東方の日出るニッポンにおいても、華麗で豪壮な彫刻が施された日光東照宮が誕生したことは単なる偶然だったのであろうか。

 日本文化を語る時の決まり文句が、「侘と寂」の世界である。簡素で渋く枯れた精神性だけで私たち日本人は満足してきたのであろうか。否、こってりと過剰で生命力にあふれたバロック精神に、その心地よさを感じた芸術家たちがいた。

 西本願寺唐門や日光東照宮陽明門に見る豪華絢爛な桃山建築、絵画では狩野山楽や長谷川等伯などの金碧画の豪壮で豪胆な趣の桃山絵画にはじまり、伊藤若冲の真骨頂である「動植綵絵」、グロテスクであるが躍動感に富む曾我蕭白の作品群など、アヴァンギャルドな奇想の画家たちが生命力に溢れる世界を展開している。


**『江戸のバロック 日本美術の新しい見かた』(谷川渥)より




          (1)




 後日のこと。

 東京は、目黒にある【Gホテル】。

 安土桃山や元禄にも通ずる、豪華絢爛、かつバロック的でいて、日本の侘びと寂びの要素も融合した、美のシンギュラリティのごとき空間――

 その中の、美しい曲線の銀瓦の屋根と、白壁の無彩色。

 それらとともに、竹や山茶花の緑と赤が彩る、何とも雅な舞台にて、


 ――ドッ!! ドッ!! ドッ、ドッ!!


 などと、ここには場違いだろうか――?

 EDMの大きな音が、喧しくも美しく鳴り響く!!

 DJたちが、繰り広げるパフォーマンス!!

 和装の、セクシーな大和撫子ふうの女DJの、DJワビサビ。

 短髪パーマの、イケメンDJ兼プロデューサーこと、DJオイスター。

 それから、DJ・SAWことパク・ソユン。

 でかでかと目をひく白のパールカチューシャに、ヘソ出しスタイルだが、肩を上品に覆う布――、清楚かつ、上品な社交ドレスにも似た雰囲気を帯びる。

 だがしかし、


 ――ファ、サァァッ……


 と、紅葉が吹雪のように散る中――

 流麗なカメラワークの、まるでプロモーションビデオのように展開しながらDJパフォーマンスは為される!!

 喧しく、激しくも、まるでカタルシスの涙が流れるかのような、聖堂の賛美歌のごとく美しいUKハードコア――

 それから、ジャパニーズ・ハードコアにKポップのリミックスと繰り広げるパク・ソユンであり、その選曲やパフォーマンスは、さすが一流のものである。


 また、相方のドン・ヨンファだが、彼も、ここ日本の東京に来て、何もしていないわけではない。

 せっかくの機会なのでと、様々なビジネスや、社交会……、それから古美術品、盆栽などの、美術分野の事業の商談だったりと、せわしく出かけていた。

 そうして、ひととおりの仕事を終えた午後のこと、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりは、Gホテル内の中の、とあるカフェ・ラウンジにいた。

 存在感のある版築壁に、ここにも、ホテル外部と同じく、シンボリックないぶし銀の瓦屋根。

 その合間を縫って、まるで宮廷のように立つ柱は、黒塗りに、金象嵌の美。

 背景には、滝の、流水を眺めることのできるガラス張りの借景――

 そんな、最高級のインテリアの美に、茶とコーヒー、季節のスイーツの香りが調和する極上のカフェ空間。

 ふたりは、抹茶と柿などの、アフヌン・セットなどを頼んでいた。

 そうして、柿をフォークで口に運びつつ、

 

「はぁ……、チカれた……」


 と、パク・ソユンが、ため息とともに気だるく呟いた。

「……」

 沈黙のドン・ヨンファ。

 すると、


「疲れた、ぽよ」


「ぽよ――!?」

 と、間を置いて言ったパク・ソユンの言葉に、ドン・ヨンファは思わず驚愕した。

「うん……。ぽよ」

「え? 何なの? その、謎の語尾は?」

「ぽよ」

 フォークを咥えながら、パク・ソユンが返事をした。

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