家族みんなで
次の日、アナトールの両頬にはしっかりと紅葉が出来ていた。余程の大喧嘩をしたらしい。というか多分一方的にやられたらしい。三兄弟はそんな父親を見て零す。
「だから言ったのに…」
「兄上、可哀想だから放っておいてやれよ」
「母上も容赦ないけど父上も情け無いなぁ…」
そんな中で、王妃エヴァが第一王女殿下…ルーヴルナを中庭に呼び出したと使用人達が噂した。三人は顔を見合わせて走り出す。中庭に着いた頃にはルーヴルナがにこにこと笑ってエヴァの前の席に座っていて、クリームブリュレを食べて紅茶を飲んでいた。エヴァは何も言わずにただ、微笑むルーヴルナを見つめていた。三人はエヴァがルーヴルナに何かすればすぐに飛び出せる準備をして待機する。
「私は…」
「?」
「貴女の母が憎い。私を裏切りあの人の寵愛を一身に受け、その上であの人の子供を産み幸せなまま死んだ貴女の母親が…憎い」
ルーヴルナには難しくてわからない。ただにこにこと微笑むだけだ。
「けれど、昨日あの人と話して…貴女に八つ当たりするのがバカらしくなりました。悪いのはあの人と貴女の母親…そしてあの人を繋ぎとめられなかった私自身。貴女は何も悪くない。今ならば貴女を受け止められる気がするのです」
「…?」
「離宮を離れて、本宮で暮らしませんか」
ルーヴルナはその言葉の意味を考えない。ただ、〝家族〟みんなで過ごせるのかなと、それだけ。
「うん!みんなで一緒に住む!使用人のみんなも一緒?」
「もちろんです。貴女が望むなら何人でも連れて来なさい。予算はあの人がなんとかするでしょう」
「お義母様、ありがとう!」
おかあさま。その響きにエヴァは、はっとした表情になる。
「そう、ですね。おかあさま、なのですね。私が。今まで、ごめんなさい。貴女も、私の可愛い娘です」
迷うように手を出しては引っ込めて、少ししてようやくルーヴルナを撫でるエヴァ。ルーヴルナは嬉しそうに笑った。