父親
気がつけば離宮に入り浸る兄弟達に、父親のアナトールはなんとなくモヤモヤした。別にルーヴルナを害したい訳ではないが、寵妃を失った原因が幸せになるのは面白くない。こちらも子供染みた八つ当たりだった。
アナトールは三人の子供達を呼びつけて離宮にしばらく行くなと言ったが、王としての命令でないなら行くと言われる。王としての命令などこんな私的な用件で出来るわけがない。
アナトールはならばとルーヴルナに会いに行く時自分も連れて行けと言った。三人はルーヴルナを心配したが、会いに行かないなら行かないであの子は傷付く。仕方なく父親も連れて行った。
結果は瞬殺である。
「お父様だ!お父様ー!」
可愛らしい笑顔で、きちんと顔を合わせるのは初めてのはずなのに嬉しそうに走り寄ってくるルーヴルナ。愛する人の生き写しである彼女を、どうして不幸になど出来ようか。
アナトールは一瞬で今までのルーヴルナへの仕打ちを後悔した。
「ルーヴルナ…」
「お父様!抱っこして!ずっと憧れてたの!」
アナトールはルーヴルナを抱き上げる。ルーヴルナは無邪気に喜んだ。
「お父様!だーい好き!」
「…今すぐ本宮に連れて帰る」
「母上に見つかると厄介なのでやめてください」
アレクシは呆れかえってそう言った。
「本宮よりはいっそ離宮の方が安全だよな」
「今の使用人達は信用できるしね」
アナトールは子供達の方が余程冷静だと思いちょっと落ち込んだ。そして、妻との関係をいい加減改善しなければならないと思い立つ。
「…今日、王妃と話してみる」
「何をですか、父上」
「今までのこと全部だ」
「…最悪なことにならないことを祈ります」
「大丈夫かなぁ…」
そして、ルーヴルナと一緒にティータイムを楽しんだ後嵐のように去っていくアナトール。四人はアナトールをただ心配していた。