ごめん
最近離宮に入り浸る兄たちに、何となく仲間外れにされているようで面白くないのがアマデューだった。
アマデューはこっそりと様子を伺いに離宮に忍び込んだが、割とすぐにルーヴルナに見つかる。
「あ、アマデューお兄様だー!お帰りなさい!」
「あれ?アマデューも来たの?お帰り」
「アマデューお帰り。ほら、お前もケーキ食うか?まだあるぞー」
この和気藹々とした雰囲気にアマデューは驚いた。なんでそんなに当たり前のようにルーヴルナと一緒にいるんだ。おかしいだろう。母上に見つかったらどうなるかわからないのに。
「兄様、ここは危険です。母上に見つかると大変ですよ。帰りましょう」
「大丈夫だよ。普通にもうバレてるだろうし」
「知ってる上で様子見なんじゃねーの?気にすることねえよ。それよりお前も来いって」
アマデューはそのあっけらかんとした様子にキレた。
「なんでそんなにあっけらかんとしてるんですか!」
「アマデュー?どうしたんだい?」
アマデューの必死さにアレクシは驚く。
「だって、もしかしたら王太子位すら奪おうとしてくるかもしれないんですよ!母上はそういう方です!」
「そうだな。それで?」
「そんな子一人のためにそこまでする必要があるんですか!」
「あるよ」
アレクシは即答した。
「だって、この子は私の妹だから」
「今まで興味もなかったくせに!」
「そうだね。でも今は大切な妹だ」
アマデューのあまりの様子にルーヴルナもさすがにオロオロしたが、考えて考えてケーキを差し出した。
「アマデューお兄様も食べて!美味しいよ」
アマデューはその手を振り払う。ルーヴルナの手からケーキが落ちた。
「うるさい!お前なんか大っ嫌いだ!お前とお前の母親さえいなければ母上も普通に僕たちを愛してくれたはずなんだ!」
ルーヴルナは言葉を理解する前に思考が停止する。それがルーヴルナの処世術だ。
「…アマデュー。ルーヴルナに謝れ」
「アロイス兄様だって本当は僕とおんなじ気持ちだったんだろ!」
「アマデュー、謝れ」
「うるさい!」
「うるさいのはお前だ!」
アロイスがアマデューを殴る。アレクシがルーヴルナを連れて離宮の奥に戻ると、殴り合いの喧嘩が始まった。
「いつもカッコつけて王族として王族としてって!普通の人とおんなじじゃダメなのかよ、バカ兄!」
「ダメに決まってんだろ!王族としての振る舞いが出来なきゃ王族としての責務も果たせないだろ!」
「責務なんて考えたくもない!僕は普通に幸せになりたい!」
「それが許されるなら俺だってそうしてるわアホか!」
段々と話題が逸れていく。一周回ってルーヴルナの話に戻る。
「ルーヴルナの母親はともかく、ルーヴルナは悪くないだろ!お前のそれは八つ当たりだ!恥ずかしくないのか!」
「うるさいうるさい!僕は普通に愛されたかったんだ!父親と母親が揃ってるのに愛を貰えない気持ちがわかるか!」
「分かるに決まってるだろ俺だって愛情の一欠片でもいいから欲しかったわ!ばーか!」
「ばかは兄様だばーかばーか!」
段々と幼稚な罵倒に変わっていくが、そこでようやくルーヴルナの意識が戻った。
「…ルーヴルナ、大丈夫かい?」
「お兄様…アマデューお兄様とアロイスお兄様が怪我しちゃう!」
「あの子達は放っておいていいよ」
「だめ!」
「ルーヴルナ!?」
アレクシの手を離れてルーヴルナはアロイスとアマデューの元へ走る。そして、殴り合う二人に向かってダイブした。
「喧嘩しちゃだめー!」
「…っ!?」
「ルーヴルナ!」
アロイスがアマデューを殴る手を離しルーヴルナを受け止める。
「アロイスお兄様もアマデューお兄様も大好きだから、喧嘩しないで」
その言葉に、アマデューが呆然と呟いた。
「…僕はお前に酷いことを言ったんだぞ?大好きってなんだよ…?」
「よくわかんないけど、アマデューお兄様が大好きなんだもん!ねえ、一緒にケーキ食べよー?」
アマデューは今度こそ泣いた。欲しかった〝純粋な愛情〟を、嫌っていた相手から与えられるなんて。なんて情け無い。なんて馬鹿らしい。
そう、結局はただの八つ当たりだった。兄様の言う通りだ。
「ごめん、ルーヴルナ。ごめんなさい…」
「アマデューお兄様、傷が痛いの?よしよし。よしよし。痛いの痛いの飛んでいけー!」
「ごめん、ごめん…っ!ルーヴルナ。僕も愛してる…っ!」
「アマデューお兄様、ルナもだーい好きだよ!」
アマデューとルーヴルナの仲直りを、アレクシとアロイスはただ見守った。