乳母の願い
ルーヴルナの乳母、シズ。
彼女はエヴァの元影武者であり、国王アナトールの寵妃でもあったルシールの侍女であった。
そんなシズは、ルシールを失った日からルーヴルナの乳母を務めるようになった。
そんなシズだが…ルシールのことはもちろん大切で愛おしく大事であったが、ルーヴルナのことも同じように思っている。
「ルシール様…どうか、姫さまをお守りください」
そんなシズは、姫さま…ルーヴルナのことを心配している。
急にみんなから愛されるようになり、また勉強に打ち込むようになったルーヴルナ。
誰からも愛され、尊敬され、尊重されるようになったが…本人に驕りは一切見られない.
そういう意味では色々と安心しているのだが、だからこそ心配だ。
ルーヴルナの存在はこのアルヴィア王国の要となり始めている。
いつか、危ない目には遭いはしないか…暗殺などの危険はないか。
シズは不安で不安で仕方がないのだ。
「ルシール様…どうかどうか、姫さまをよろしくお願いします…」
誰よりも愛らしい、純粋な乙女のようだったルシール様。
身体が弱いルシールは、お腹の子供を産むことが自分の寿命を縮めると悟っていた。
それでもお腹の子供が生まれてくるのを楽しみにして、生まれた時には歓喜して抱きしめていた。
その後すぐ亡くなったが…最後まで幸せそうに笑っていた。
「…ルシール様は、今もきっと姫さまを愛して守っていることでしょう」
あんなにもお腹の子を慈しんでいたルシールなのだから。
…だから、シズはルーヴルナは愛している。
だが、アナトールは別だ。
いくらルシールが愛し、ルシールを愛していた人とはいえ。
そのルシールが愛してお腹を痛めて産んだルーヴルナを、あんなにも邪険に扱ったことを未だに恨んでいる。
「…恨みますよ、国王陛下」
だが、今のアナトールはルーヴルナを溺愛している。
アナトールだけではない。
あれほどルシールとルーヴルナを厭うていた王妃エヴァも。
ルーヴルナに興味を示さなかったアレクシ、アロイス、アマデューも。
みんなあれだけルーヴルナを冷遇していたのに、それを忘れたかのようにルーヴルナを溺愛している。
…シズはそれを許せていない。
ルーヴルナを溺愛してくれるのは正直ありがたい。
だが今までのことを忘れたかのような振る舞いは、まだ許せない。
…….いつか、許せる日が来るのだろうか。
シズにはわからない。
「ルシール様、どうか姫さまをお守りください…」
今日もしつこいくらい、シズはルシールに祈る。
ルシールが天国で苦笑しながら頷いていることには、気付きもせずに。




