魔術
本宮での生活に、初日にしてもう慣れてしまったルーヴルナ。
本宮の使用人たちもルーヴルナを姫として扱うし、離宮からついてきた使用人たちは変わらずルーヴルナを大切にするので居心地もいい。
そして二日目の午後、さっそくルーヴルナは魔術を教えてくれる家庭教師と出会うことになった。
「お初にお目にかかります。姫君に出会えて光栄です。塔の魔術師のディオンです」
「はじめまして!ルーヴルナです、よろしくお願いします!」
「ふふ、可愛らしい姫君だ」
にこにこ笑って挨拶するルーヴルナに、ディオンは微笑む。
ディオンは茶髪に茶色の目の至って普通の色合いだが、絶世の美少年でもある。
が、ディオンの微笑みにもルーヴルナはにこにこするだけ。
ディオンはほんの少しだけ、それに驚いた。
そして、好感をもつ。
「さあ、姫君。さっそく授業のお時間ですよ」
「はい!」
「まずは魔力のコントロールから覚えましょう。手を貸していただけますか?」
「うん!」
ルーヴルナは素直に手を出す。ディオンはその手をそっと掴み、ルーヴルナの魔力を検知してそれをルーヴルナの体内で循環させる。
「わ、わ…」
「これがルーヴルナ様の中の魔力です。ここまではよろしいですか?」
「うん!」
「この魔力の体内での循環をまず覚えましょう」
「うん!やってみる!」
ディオンは、さすがに初見では無理だろうと思いつつもルーヴルナを見守る。
ルーヴルナは体内での魔力の循環を何度も何度もチャレンジする。
そして時は過ぎ、おやつの時間に差し掛かる頃。
「…ディオン先生!できたよ!」
「お見事です!」
ずっとずっと苦戦していたものの、なんとか初日で魔力の体内での循環を覚えたルーヴルナ。
「そろそろおやつの時間ですし、今日の授業はここまでにしておきましょう。ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
そこにちょうど、アロイスがルーヴルナを迎えにきた。
「ルーヴルナ、お疲れさん」
「アロイスお兄様!」
「ごきげんよう、塔の魔術師。ルーヴルナの授業は順調か?」
「王国の若き獅子にご挨拶申し上げます。ルーヴルナ様の授業は、初日にして順調でございます。ルーヴルナ様はこの短時間で、体内での魔力の循環を覚えました」
「お、ルーヴルナやるなぁ!」
兄に褒められて満面の笑みのルーヴルナ。
「えへへ、うん!」
「今日のおやつはチョコクレープだぞ。ご褒美だと思ってたくさん食べていいからな」
「わーい!」
ルーヴルナはアロイスと手を繋いで中庭に向かう。
その背中にディオンは礼をして、見送った。
そしてルーヴルナはアレクシとアマデューの待つ中庭に行き、みんなでゆったりとクレープを食べる。
「ねえねえ、今日ね、魔術の授業をしたの!」
「楽しかったかい?ルーヴルナ」
「うん!魔力の体内での循環を覚えたよ!」
「初日で?すごいね、ルーヴルナ」
「えへへ」
ルーヴルナは褒められてご満悦だ。
また明日も魔術の授業を頑張ろうと誓ったルーヴルナだった。




