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こんな事をしても無くならない婚約

なんとか理由をつけて婚約解消を持ちかけようと構えるが、倫理観は学ばすとも貴族として婚約者に対して最低限やるべきことは知っていたらしい。形だけの手紙と誕生日の贈り物は欠かさず、親睦(笑)を深めるための茶会を週に2回設けられた。

もえないゴミの日なんだから、せめて週に1回でいいだろう、面倒くさい。と弟がぼやいていた。

なぜ使用人でもないのにゴミを捨てる日について詳しいのだ、弟よ。


「おいブタ。むかえに来てやった。早くウチに行くぞ」

「申し訳ございません。(お前の顔を見ると)気分が優れませんので、今回は中止にしてください」

「はあ?むかえに来るたびに言いやがって!ウソだってバレバレなんだよ!ほら、さっさと行くぞ!」


仮病だろうと本当の体調不良だろうと、腕にアザができるまで強く握られ強制連行された。立派な傷害なので、診断書付きで記録している。


「どうだ!ウチの家で飲む紅茶はウマいだろう!ブタの家よりえらいから当たり前だけどな!」


向こうの家に連行されたら、毎回庭園で高い紅茶を飲みながら、奴の戯言を数時間も聞き続けないといけない。侯爵家の使用人の皆さんは優しく、仕事の腕も良い人なので、彼らが丹精こめて手入れした庭園の景色と紅茶に罪は無い。敵地での貴重な癒し要素だ。


「そうだ、手紙!なんだよアレ!」


婚約者としての義務の一つと言われる手紙が送りつけられるが、その頻度が鬱陶しいことこの上ない。毎日だ。奴の自分自慢に始まり、奴と婚約になれたことがいかに誇らしいか、締めは婚約者らしく振る舞えという定型文で構成された長文が毎日届く。

それに対して「今日は良い天気です。」(原文まま)と定型文を返していた。我が家の手が空いた使用人が。ちなみに、書いてくれた者には、きちんとボーナスを支給している。例え定型文だろうと、煩わしい作業を代わりにしてくれたことに感謝をすることは大切だ。


「いっつも同じ文なんていらねーんだよ!俺の手紙の返事を…」

「私からの文は不要でしたか。ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。今後は一切送らないようにいたします」

「いらねーってそういう意味じゃなくて、せめて返事…」

「いえ、文才が無いなりにお返事を考えるのですが、ご満足のいくものを送れず申し訳ございませんでした。私には難しいので、お手を煩わせないように文を送りつけるのは辞めることにいたします」


椅子から立ち上がり、頭を直角に下げる。どさくさに紛れて家に帰ろうと踵を返すと、慌てた奴が私の手首を全力で握りしめてきた。痛いんだよ、力加減くらい覚えろ。


「や、やめるなんて言うなよ!そこまでへそ曲げることないだろ!」

「迷惑な物を送り続けるなんて、無神経なこと私にはできませんので」


お前と違って。


「わかったわかった!今はアレで許してやる!まあ、ブタだし文才がないんだな!ちょっとは俺のを読んでちゃんとした文通できるように勉強しろよ!」

「そうですか。では私はこれで」

「え、もう!?ええと、あ、そうだ!ブタへのプレゼント!今度こそは、つけてこいよ!」


あからさまに嫌がらせ目的の悪趣味な純金の装飾品なんて着けるわけがないだろう。

侯爵家は近年、領地経営が上手くいかず資金が減ってきていると社交界で広まりつつあるが、奴の嫌がらせに金を掛ける様子を見ると、ただの噂に思える。

だが、噂が本当で私の結納金や嫁いだ後の稼ぎを期待されての散財では、婚約解消を余計に拒まれては私も困るので、嫌がらせで送られた物を売った現金を奴の誕生日に返した。嫌がらせの品とは言え、人から贈られた物を換金して懐に入れる真似はしない。そんな金で購入した物は見る度に「でも、これ買った金って奴から送りつけられた気持ち悪い装飾品から作った金だったなぁ」と不快な思い出がセットされてしまうからだ。

最初は店に返品できるよう、そのまま送り返すと真っ赤な顔面に涙と鼻水を備えた奴が「いっしょうけんめいに考えて作らせたんだから返してくるな!!」と怒鳴り込んで来た。その時の奴の顔が傑作だったので繰り返しても良かったのだが、次のゴミの日に侯爵夫人のお小言と敵地での夕食がセットされる。ひと時の笑いに対して代償が大き過ぎるので、今の対応に落ち着いた。


人前だろうと私を蔑ろにする態度について侯爵家に訴えても、照れているの一点張り。侯爵夫婦に、奴からの誹謗中傷で精神的傷害を受けたと訴えても、社交の場で罵られて名誉毀損だと訴えても、大袈裟だと笑い返された。

一度正直に、彼とはどう考えても仲良くなれないので婚約を解消したいと伝えたことがある。すると、うちのムチュコたんの何が気に入らないのかと仇を見るような剣幕で怒鳴られた。親馬鹿キメている人に「全部」だなんて言える訳ないので、謝罪する羽目になった。解せぬ。



奴の家は何故、私を婚約者としたのか。

考えた理由の1つは、遊ぶ金欲しさ。

次に、私に仕事を押し付けて遊ぶためと言ったところだろう。


資金が年々減ってきている浪費癖のある侯爵家に対して、我が家は貴族にしては慎ましく生活して資金が潤っている。

元々この婚約は「もう少し勉強させれば侯爵領の領地経営でも使える」と言って向こうから持ちかけてきた。私に豚と言う奴を叱らずに、ムチュコたん照れている説を私に唱える夫人に疑念があったが、侯爵家にとって私は嫁ではなく、資金を増やすための道具…まさに私腹を肥やすための家畜として見ているのなら納得だ。侯爵夫婦にとってムチュコたんは間違ったことを言っていないのだから。もしかしたら「ムチュコたん、ただちい!」と裏ではヨチヨチまでしているしているかもしれない。


奴自身の目的は、どうだろう。

さすがの私も鈍感ちゃんでは無いので、奴が暴力的な愛情表現が評価されてしまう世界観の物語をバイブルにしてしまった拗らせ男の可能性も考えてはいる。だが、そちらと等しくありえるもう1つの可能性が、私を隠れ蓑にして本命と愛を育むためだ。なにせ、侯爵夫婦はムチュコたん命!で嫁にするつもりの私に金をせびろうとしている。本当に愛する者なら、そんな両親から守ろうと思うのではなかろうか。という発想から見つけた可能性だ。


規模は問わず貴族の集まりがあれば、奴は「婚約者として同行しろ」と家に押しかけ強制連行しては、私を会場の隅に追いやり異性を自慢げに侍らせている。もしかしたら、その群れの中に本命がいるのかもしれない。

結婚前に本命を引き摺り出せれば、侯爵家に婚約解消する交渉のカードをきれるが、いくら張っても老若男女問わず誰かと奴の熱い逢瀬は確認できていない。


間抜けと見せかけて、市場調査を依頼すれば即日で領地と周辺の報告書を提出できる我が家自慢の偵察部隊を掻い潜って逢瀬をしているなら、こちらを欺くその手腕に拍手を送り、悔しいが負けを認めざるを得ないな。


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