A-3 王都グラストン
図書館の後、二人はアルクと合流。なぜかアルク一人でミリィがいない。問うとミリィは待ってもらっていると。それ以外アルクが何も語らずに移動するので、不思議に思いながらも二人は後に続く。そして辿り着いたのは街から少し外れたところに建つ赤い屋根の一軒屋だった。
アルクは玄関ドアを開け家の中へと入る。ユウは中に入る前にちらりとアルクが喜んでいるような横顔が伺えた。
中は洋風なのか靴脱ぎ場も置き場もなかった。
「ここは?」
続いて玄関に入ったユウはアルクに尋ねるが、アルクは質問には答えず「とりあへず入って」、と言って振り向かずに突き進む。
玄関入って真っ直ぐの廊下を進み、左手にドアが。アルクはドアを開け中へと通る。
ドアの向こうはリビングでその向こうはダイニングキッチン。キッチンではミリィがいてカップにコーヒーを注いでいた。
アルクはリビングを越え、ダイニングキッチンで椅子に座り、ユウたちにも座るよう促す。アルクに対面するようにユウが。その隣にセシリアが座る。
「そろそろ答えてよ。この一軒屋は?」
セシリアがアルクに尋ねた。
「さっき購入したんだよ」
アルクがにんまりして言う。
「こ、購入って高かったんでしょ?」
「いえ、それがお安かったのです。相場の二十分の一以下でした」
ミリィがカップを二人の前に置きながら答える。
家なんて買ったことないから相場がどういうものかはわからない。
「それでも高かったでしょ?」
「ここ、ゲームの世界だよ。ここだと家なんて格安だよ。その格安の中で二十分の一だから買っておいて損はないと思ったんだ」
「誰が払ったの? もしくはローンなの?」
アルクは首を振り、
「私とミリィで折半」
「ってことは私とユウは出さなくいいわけね」
「うん。これくらいの人数になったら拠点とか必要かなと思ってさ」
「各々個人部屋もあります」
「まあ、いいけど。いちいち宿屋を取るよりかはましだろうし」
「ユウもそれでいい?」
「ああ、全然構わないよ」
○ ○ ○
「それで何かわかった?」
「ふ、ふーん」
と、セシリアはにやけ顔で端末を操作して2冊の本を取り出しテーブルに置く。1冊は歴史書で、もう一つは伝記小説。
「あれ?」
ユウは驚いた声を出した。
「? どうしたの?」
「てっきり電子書籍かなと思ってたから。実物が出て驚いただけだよ」
「私も最初はびっくりしたわ。それなら他の人は借りれられないのかとも思ったわ。でもこれ他の人も同じものを借りれるのよね」
「それでこれは何?」
アルクはカルガム伝説の本を持ち、適当に捲って中身を確かめる。
「小説よ」
セシリアが胸を張って答える。
「なんで余計な物を」
「タイトルをよく見なさい」
「え? ……あれ? カルガム、どこかで……」
「ストーリーイベントの舞台では?」
ミリィが答える。
「ああ! カルガム山ね!」
「そうよ! きっとここに攻略のヒントがあるに違いないわ」
セシリアが腕を組み自信ありげに答える。
「それでそっちは文化資料館で何かわかったの?」
アルクは目を伏せ首を振る。
「全然。……だけど、ギルドでは面白い話を聞けたよ」
「へぇー、何なに?」
セシリアが期待を持ちテーブルの上に上半身を伸ばす。
「ここ最近北の山ではモンスターが活発で困ってるらしい」
「……で?」
「ギルド依頼が多い」
「何よそれー」
セシリアがテーブルの上でぐてんと上半身を倒す。
「要はギルド依頼が受けて、かつカルガム山を攻略しろってことじゃん」
「まあ、そう不貞腐れないで。カルガム山は周りが山に囲まれていて、その中でカルガム山は突出して高い山なんだから。いきなり攻略は難しいでしょ」
「じゃあギルド依頼から?」
「そういうこと。でも、その前にこの国の歴史について調べよう」
そう言って、アルクは歴史書の表紙を捲る。
○ ○ ○
「う~ん。なんか当たり障りのない歴史よね」
セシリアがつまらなそうに声を上げる。
「小さな島国の歴史ですから」
ミリィはそう言って席を立つ。そして「コーヒーのおかわりは?」、と聞く。
三人はおかわりと手を上げる。
歴史書にはどの年代でどの歴代国王での法案、租税、宗教、領地拡大、流行病、王都グラストンの文化等が記されている。
「カルガム山についても全くないわね」
アルクはもう一度ページを始めから戻す。
「最後はこれだけど」
セシリアがカルガム伝説の本を持つ。
「それじゃあセシリア頼むよ」
「え? 私一人で読むの?」
「それ文庫サイズだし。文字がびっしりでしょ。読むのに時間がかかりそうだし。それに借りたのはセシリアでしょ。私たちは持ち運びはできないしさ」
「ええ~!?」
武器、アイテムの類は持ち主から離れると自動で持ち主の端末に戻る。だからカルガム伝説を読むにはセシリアが近くにいなくてはいけない。
○ ○ ○
夕方、当てられた自室でユウは靴を脱ぎ、ベッドに腕枕をして仰向けになっていた。
自室は2階にあり、玄関側の廊下の奥にある階段とキッチンからドアを開けすぐにある階段の二通りある。2階は部屋の数は6つ。廊下を挟んで三部屋。すべてが自室用の部屋。窓際には机と椅子が。部屋に入って左手にベッドが。
アルクを真ん中に右にセシリアが左、キッチン側にミリィが挟む形になる。ユウの部屋は廊下を挟んでミリィの向かいに。
天井の木目をなんともなしに眺めていたら電子音が頭の中に鳴った。ユウは驚きベッドから跳ね上がった。視界内の端末アイコンに赤い点が灯っている。端末を取り出すとメッセージが一件届いていた。ロザリーからかと思い、中身を確かめるとアルクからであった。メッセージは基本はロザリーからの一方通行でこちらからは他のプレイヤーにすらメッセージを送ることはできないはず。
それが──。
『ダイニングに集合!』
ユウは端末を持ったまま廊下へと出ると、同じタイミングでセシリアも出てきた。
「ユウ! メッセージ見た?」
「うん! どういうことだろう?」
二人は階段を下りてダイニングへと向かった。
ダイニングではアルクとミリィが椅子に座っていた。
ユウは椅子に座り聞いた。
「このメッセージは?」
「すごいでしょ。たぶんアップデートでよ。メッセージ機能が付け加えられたのよ」
アルクは嬉々として答える。
「いきなり鳴ったからびっくりしたよ」
「ごめん。私もさっき見つけたんだよ。どうやらパーティー登録したメンバーとやり取り可能らしいよ。ただ連絡範囲は王都限定だけどね」
「外では無理ってこと?」
「うん。残念ながら外では送受信はできないらしい」
「ま、ないよりかはましね。音量調整とかできるの? カルガム伝説読んでたら急に大音量できたんだもん。びっくりしたわ」
「音量調整可能ですよ。ここを……」
ミリィがセシリアにメッセージ機能の操作を教える。
「他になにか新しい機能はある?」
「今はこれだけね。できれば通話機能とかも欲しかったわ」
「そういえばこの家には固定電話とかないの?」
アルクは笑い、
「一応ファンタジー世界だよ。機械はないから」
「あ、そうだった」




