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王子様を魔法少女にする簡単なお仕事〜マスコットキャラを溺愛は変態では!?〜

作者: 片原痛子

「誰か助けて!」


「町が魔獣に!!!」


王国内のとある街で、魔獣が暴れていた。

建物は次々と薙ぎ倒され火の手があがり、人々が逃げ惑う。母親とはぐれた子供が泣き叫び、老人は逃げ遅れ神に祈る。


そんな惨憺たる状況の中で街の兵士たちが盾と剣を手に持ち魔物を取り囲んで攻撃を必死に抑え込んでいた。


「みんな、増援が来るまで持ち堪えるぞ!」


「おう!」


兵士たちは必死に魔物に抗うが自分たちより大きく凶暴な生き物に抵抗も長くは続かず、戦況は苦しかった。


「聖女様……どうか我らをお救いください……」


誰が呟いたかわからないその祈りの言葉に、応える人影があった。


タッ


「みんな!大丈夫?」


「聖女様!!!」


魔獣の前に躍り出たのは、ピンクの長い髪にふわふわのレースがあしらわれたドレスを身にまとい杖を握りしめた少女だった。

先ほどまでは絶望的な雰囲気だったが、聖女と呼ばれる少女の登場で場は一気に活気づく。


「本当に聖女様が来てくれたぞ!これで勝てる!」


「聖女様が来たからにはもう安心だ!」


「あぁ、私が来たからにはもう大丈夫だ」


少女はみんなを安心させるように微笑み、自分より歯を剥き出しにして唸る魔獣を前にしても一切怯むことなく対峙する。


「まずは動きを封じないと、ねっ!」


そう言うと少女は人間にはあり得ないほど高く跳躍し、そのまま勢いよく魔獣へと飛び降りた。


ドンッッッ


『グアアアアアア』


足場にされた魔物は地面に叩きつけられ悶え苦しむ。更にそこに追撃として2、3度蹴りを追加すると、魔獣は弱り動きが鈍くなった。


「聖女様頑張って!悪いやつを倒して!」


子供が叫んだその声に応えるように少女は笑い、杖を構える。


「ノエル、トドメをさすよ」


『任せて〜』


少女が声をかけると何処からか羽の生えた小さな猫が飛んできて、少女の肩に乗った。すると杖に嵌められた水晶がピンクに輝き光が溢れ出す。


「んんっ……女神の導きのままに、【ムーンハートビーム】!」


「アアアアアアア」


奇怪な言葉と共に魔物に向かって杖を振れば、溢れ出した光は一つの線となり魔物を貫く。光に貫かれた魔物は断末魔を上げながら塵となり消え、最後には何も残らなかった。


「やっ、やったぞ!聖女様が魔物を倒した!!!」


「街は救われた!聖女様万歳!」


「聖女様万歳!聖女様万歳!」


魔物の脅威が去り、救われた街の人々は少女に集まり口々に感謝の念を述べる。しかし彼女は驕ることなく「ゲガはない?」と人々を気遣いその言葉がまた、皆の胸を打った。


「【ムーンハートシャワー】!」


少女が今度は空に向けて杖を掲げ何かを唱えると今度は淡い光が街に降り注ぎ人々の傷を癒した。


「おぉ!傷が……」


「もう痛くないよお母さん!」


人々は癒しの奇跡に沸くが、役目は終わったとばかりに少女はその場を去ろうとする。


「では、私はこれで」


「ま、待ってください!お礼を……」


慌てて兵士が引き留めようとするが少女は笑みを残すと足早に去っていってしまった。


「行ってしまわれた……」


「本当に人々を救うだけなんだな」


「あんなに勇敢に魔獣に立ち向かい、人々を救うともう次の場所を救いに向かう。本当に聖女に相応しい素晴らしいお方だ」


「彼女は教会の人間なのか?」


「いや、どうも違うらしい。教会にお礼に訪れたがそんな人間は知らないと言われたとか……」


「じゃ彼女は一体何者なんだ……?」




ーーー街から少し離れた場所で


「おかえりなさいませ聖女様」


「お待たせ。こちらに異常は?」


「こちらは問題ありませんでした」


「いつも通り数人は街に行って被害状況の確認をしてくれ」


「畏まりました」


先ほど魔獣を倒した少女は人目を隠すように森の中に停められた馬車へと乗り込み、慣れたように騎士長に指示を飛ばす。

馬車の中で1人になって漸く、少女は肩の力を抜いて息を吐いた。

そこに先ほどの猫もどきが現れて膝に乗る。


『お疲れ様、ルーカス』


「あぁノエルもお疲れ様。変身を解いてくれ」


『はいは〜い』


猫がぷにっと少女の顔に肉球を押し当てると少女の体から光が溢れ、姿が変わる。

長かった髪は短く。

細い小柄な体は大きく筋肉質に。

ふりふりのレースはマントを纏った正装に。


光が消えるとそこにはどこからどう見ても男にしか見えない美青年が座っていた。


「やっぱり女性の姿は慣れないな」


少女、もとい青年は手を握ったり広げたりしながら身体の感覚を確かめながらポツリと呟いた。

すると猫もどきは申し訳なさそうに小さく鳴いた。


『ごめんねルーカス……』


「あぁ、違うそう言うわけじゃなくて」


青年は慌てて猫もどきを抱き上げて小さな顔に頬擦りをする。


「大丈夫だよノエル。世界のために一緒に頑張ろ」


『うん……』


助けられた人々は想像もできないだろう。

まさか聖女が男で、しかも自国の王太子だとは。



------------



私の名前は猫原ノエル。かつては地球生まれの地球育ちのちょっと不良な女子高生だったけれど、夏休みに海で泳いでいたら足を攣って溺れて死んでしまった。

すると女神様が現れて「ちょっと貴女は善行が足りなくて普通に転生させられないので異世界で善行を積んできてください」と言われて、この世界にやってきた。


何故か人間でなく、猫に似た姿をした聖獣として。

女神様曰く、私は魔物蔓延るこのファンタジー世界で魔法少女アニメのマスコットキャラクターよろしく、相棒と呼ばれるパートナーを1人選び聖力を貸して共に戦い、魔王から世界を救わないといけないらしい。平和ポイントを集めそれがMAXになったとき、私は人間に転生できるらしい。


そしてこの世界に放り出されたわけだけれど、知らない土地で生きるのは簡単ではなくて、誰にも言葉が通じないし珍獣として捕まりそうになるし、雨風にさらされご飯も食べられなくてボロボロになって道端に転がって鳴くしかなかった。

それを拾ってくれたのがルーカスだった。


「かわいそうに。もう大丈夫だよ」


ルーカスは魔物を倒すために各地を回る冒険者で、誰にも優しく公平公正であろうとする誠実な青年だった。困っている人がいたら助けて、魔獣から人々を守る。

それは生身の身体ではとても大変なことだった。出会ったころから傷だらけだったが、一緒に過ごす日々の中でルーカスがどんどんボロボロになって疲労を溜めていく姿に私は胸を痛めた。聖獣なのに何の力もなくて、傷ついていく彼をただ見ていることしかできなかった。

そんな中、


「ワハハハ!我は魔王様の四天王の1人!先ずはこの街から侵略してやる!」


「ぐっ……!」


辺境に魔王の配下が現れ、街は壊滅、仲間の騎士たちも倒されてしまいルーカスは絶体絶命のピンチとなった。


「にゃー!にゃ、にゃにゃにゃ!!」


1人でも敵に立ち向かうルーカスに必死に逃げようと声をかけるけど、彼は優しく私を撫でて微笑む。


「僕は逃げない。守るべき民がいるから。君も早く安全な場所に逃げるんだよ」


彼は死を覚悟している。


嫌だ、彼に死んでほしくない。

彼を助けたい。

彼のために何かしたい。


そう強く願ったとき、私の背中から翼が生え身体中に力が漲って、同時にこの力をどう使えばいいのかも理解した。


『ルーカス!』


「っ!?き、君が喋ったの?それに飛んで……」


『私の力をあげるから、私のパートナーになって世界を救って!』


「一体何を……」


『私を信じて!』


「……分かった。力を貸してくれ」


そして私とルーカスはパートナーになり、変身したルーカスが四天王を倒してくれたんだけど……、



ごめんよごめんよ、まさか女体化させて魔法少女コスプレまでさせるとは思わなかったんだよ〜〜〜!

女神様そこらへん説明してくれなかったから〜〜〜!


しかもルーカスが国の王太子だったなんて1ミリも気づかなくて……なんか育ちが良さそうだし、身なりもちゃんとしてるなって思ったけど!

幸いルーカスは「世界を救うためならどうなっても仕方ない」って言ってくれているけど、王太子が聖女になることがバレては王太子の評判にも関わるし、聖女が王太子であることがバレれば命の危険も更に増える。

そのためこのことは私とルーカス、ルーカスの最側近だけが知る国家機密なのだ。

世界を救った後には不敬罪と口封じに処刑されてもやむを得まい。



「さて、今日もたくさん動いたしお風呂入ろうか」


宿に着くとルーカスは私を抱えたまま風呂場へと向かう。私は抵抗を諦めつつ一応抗議の声を入れておく。


『……あのさぁルーカス。何度も言ってるけど私の中身は16歳の人間の女の子なんだよ?一緒にお風呂はダメだってば』


「でも1人じゃ洗えないだろ?だいじょうぶ大丈夫。責任は取るからさ」


『………』


自分で自分の身体を洗えないのは確かだし、毎度毎度こういうときのルーカスは頑固だから私は折れるしかない。撫でるときもそうだけれどルーカスの私を洗うときの手つきは優しくてなんだか身体の力が抜けてしまう。


「……可愛いなぁ。ずっと一緒に居ようね」


ザブザブとお腹を洗う音に紛れてルーカスが何かを言った気がするけど、心地よく現れていた私にはよく聞き取れなくてそれ以上追及しなかった。



-------------




「【ムーンハート・エクストラビーム】!」


掲げられた杖から一筋の光が満月に向かって放たれ、それは光の柱となり降りてきて魔王を飲み込んだ。


「よもや……ここまで…………」


魔王は光によって浄化され、塵となって消える。

それを見届けて私は小さな体でルーカスに飛びつき尻尾を振って喜んだ。


『やったねルーカス!魔王を倒したから、これでやっと世界に平和が訪れるよ!』


「あぁ、ノエルのおかげだよ」


変身が解けたルーカスは私をぎゅっと抱きしめる。

こんな抱擁も最後かと思うと寂しい。

女神から課された善行ポイントはこの戦いで完全に貯まって、私は人間に生まれ変わることになる。それを示すように私の身体は既に淡く輝き体が透け始めている。


「ノエル、身体が……」


『魔王を倒したようですね』


ルーカスが不安そうに抱きしめたとき、目の前が揺らぎ女性の姿が空に浮かび上がる。


『女神様!』


『よくやりましたね。約束通りに転生させてあげましょう』


『はい。……ルーカス、今までありがとこれでようやく元の世界に、』


「待ってください!」


私がルーカスに別れの言葉をかけようとするのを遮り、ルーカスが女神様に跪いて声を上げた。


「どうか私の話を聞いていただけませんか、愛の女神様」


『勿論です、勇敢なる勇者よ』


「私は女神様の導きによりノエルと共に幾多の苦難に挑みました。故に差し出がましいですが褒美を頂きたく思います」


『私も貴方には褒美を与えようと思っていました。何か欲しいものがあるなら言ってご覧なさい』


「ではノエルの連れていくことはしないで、ノエルを私に下さい」


『えっ!?』


シリアスな雰囲気が漂っていたから黙って成り行きを見守っていたけれど、ルーカスは女神様にとんでもないお願いをし出した。

私は慌てて透けた肉球でルーカスの頬を何度も叩く。


『ルーカス!?私は生まれ変わるために頑張ってるって言ったでしょ?なんで邪魔するの!!!』


『なるほど、分かりました。その願いを叶えましょう』


「女神様ぁ!?』


善行ポイントを貯めたら転生させてくれるって言ったのに、話が違う!


『女神様!私との約束は!?』


『今更せっせと善行ポイントを貯めた貴女と、生まれながら誠実で民のために国をまわり魔王まで倒した彼では積んだ善行が天と地ほど違うから彼の願いが優先されるのは当然でしょう?』


『そ、それは……』


そう言われてしまうと弱い。私が善行ポイントを貯められたのも全てルーカスのおかげだから。


『ルーカスどうして!』


「大丈夫だよノエル。責任をとると言っただろう?これからもずっと一緒にいよう」


ルーカスは発言を撤回するつもりはないようで満足気に笑っている。重い、重いよルーカス。


『女神様、約束を破るのは卑劣です』


『それは分かっているわ。貴方の積んだ善行にも勿論報います。よかった、人間には転生させると約束しましたけれど、どの世界に転生するかまで約束してなくて。貴女はこの世界に転生してもらいます』


ルーカスに抱かれていた私の身体が光り、小さな猫の姿から赤ん坊の姿へと変わる。


「あぅー!?」


『ルーカスくんの善行さに免じて成長もさせてあげましょう』


女神様が指を鳴らすと今度はみるみる身体が大きくなり、あっという間に以前の身体と同じくらい大きくなる。


「待って!展開に追いつけない!!!」


『それでは願いは叶えたので私は帰りますね。貴女たちの行く末が光に満ちていますように』


「待っ……!」


手を伸ばすが女神様は消え去り、私とルーカスは暗闇に戻された。


「………」


「………」


き、気まずい。

ルーカスの謎の行動の数々に、ルーカスに抱えられた状態のこの状況が。


「あの、取り敢えず下ろして……」


「どうして?」


「ど、どうしてって……」


「ネコの時は抱かせてくれてたじゃないか」


「それとこれは状況が違うというか」


猫の時はその方が移動が楽だったし、ルーカスももふもふに癒されていたから抱かれていたが今は完全に絵面がよくない。

降りようと身を捩るが、ルーカスは不服そうな顔をしてより強い力で抱きしめた。


「何も違わないよ」


「えっ」


「何も違わない。君自身も、僕の君への気持ちも」


ルーカスは私を大事そうに抱えなおすと額に口づける。


「好きだよノエル。臆病なのに頑張り屋で、僕を王太子でも勇者でもないただの“ルーカス”として扱ってくれる。僕の理解者、パートナー。人間の女の子になっちゃったのは流石に計算外だけど、それなら結婚しちゃおうか」


「な、え、お、王太子と結婚なんて無理だよ!!!私は身元不明の人間だし異世界人だし教養もないし、そもそもルーカスと結婚なんて考えたことない!」


「これから考えればいいだろ?身元なら君が聖女だったことにすればいい。力の源は君だったのだからあながち嘘でもないし」


名案だと頷くルーカスに私は呆然として言葉が出てこない。


「これからも宜しくね、僕のパートナー」


「な、なんでこんなことになっちゃうの~~~!?」



やがて世界に名が残る国王と聖女である王妃の物語は、実はここから始まったばかりであった。

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