わたしはお飾りの妻になります
私が「お飾りの妻」になることが決まったのは婚約者のクリスとの初めての顔合わせの時からだった。
クリスは公爵家の嫡男で私は没落寸前の男爵家の生まれで、縁談話が出た時から何かあるのだろうと察してはいた。
「この婚姻は、俺が爵位を継ぐためにどうしても必要な物だ」
「わかっております」
いつだって切り捨てられるような家の娘にそんな事を言ってくれるクリスは誠実だと思う。
それを伝えるのも緊張していたのだろうか表情がこわばっている。
けれど、やはり悲しいものが少しだけある。
吐きたくなるため息を堪えて微笑むと、クリスの強張った表情が少しだけ和らいだ。
「君を裏切るつもりはない。だが、お飾りの妻になってもらう」
裏切るつもりはない。と、言うくせに「お飾りの妻」にするなんてクリスはとても残酷だと思った。
「僕は浮気をしない。君に誠実な夫であり続ける」
クリスは、そう言うと私の髪の毛を一房掴み口付けをした。
まるで、何かを誓うようなクリスの姿を見て胸が苦しくなった。
婚約期間のクリスはとても誠実で優しかった。
会えば会うほどお飾りの妻になることが辛くなっていった。
爵位を継ぐための結婚式なのに、それ自体はとても盛大に執り行われた。
そして、初夜を迎えた。
クリスは来ないだろう。だからこそ、私は持参したパジャマを着用して眠ることにした。
「なんだ!その格好は!」
そこにやってきたのはクリスだ。
なぜか、私の格好を見て怒っている。
「えっと」
「俺は君をお飾りの妻にすると言った!パジャマはズボンインだ!」
クリスは言うなり、パジャマの裾を勢いよくズボンインして持ち上げた。
「女の子はポンポンを冷やしてはいけない!」
クリスは怒りながらなぜかベッドに寝そべり、隣で寝るようにマットレスを叩いている。
私は、ハイウェストになってしまったズボンを気にしながらクリスの隣に横になる。
クリスはそれを見て満足そうに微笑むと、ズボンインしてぽっこりした私のお腹を優しくポンポンと叩き出した。
「明日から、君はお飾りの妻だ」
クリスは優しい声でそう言う。
木魚を叩くようなポンポンのリズムは心地よく、私はいつのまにか眠りについていた。
次の日の朝。
「君は、今日からお飾りの妻だ!そんなしょぼい服なんてやめろ!」
クリスは言うなり侍女に新しいドレスを用意するように指示をした。
用意されたドレスは、上品さがありつつも装飾が多い。
「ああ!こっち見て!首を右斜45°に傾けて!」
言われるままそれをやると、クリスは「か、可愛い!」と、身悶え始めた。
さらに言われるままポーズを取るたびに、クリスは「可愛すぎて死ぬかも……」と何度も悶絶して倒れた。
「そういえば、東洋の国では、ひなまつり。というものがあるらしいな!今度の夜会で十二単を着るんだ!君はお飾りの妻だからね!」
クリスはドヤ顔だ。
私はお飾りの妻とはどういうものなのか、と、逡巡する。
「お飾りの妻……」
「結婚したからには君を好きに飾り付けするよ!」
そういう意味だったのか!私はようやくその言葉の意味を理解した。
そして、社交界では、空前のお飾りの妻ブームが到来した。
読んでからしょうもな!って、思ってもらえれば嬉しいです