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眠り姫は夢をみない  作者: 鈴木チセ
和の国編
8/70

特別な姫君

一週間、みっちりと仕込まれた王女の教育。今のスミレは和の国の貴族らしい所作が完璧にできるようになっています。今はスミレのお披露目パーティーの準備中のようです。



「姫さま、今日は失敗なさらぬよう。失敗が許されるのは税を払い、法によって守られる民衆のみ。王族、貴族は税を払いません。民衆に守られる私たちは、法で民衆を守る私たちは他国に脅かされないようにあらねば。」



「わかりました。」



柔らかい微笑みを崩さないスミレ。どこからどう見ても王妃の面影が残る、美しく穏やかな姫です。



ーー王は相変わらず、姫さまに話しかけることはありませんでしたが、、、、。今日、王の意思を確認する時。会話には気を配らねば。



パーティーには皇帝、教皇、小国の大臣も多く招かれます。大国の君主の子供は16歳になると各国にお披露目され、そこから結婚の話につながります。そのため、16歳よりも前に婚約することは余裕のない国がするものとされていました。しかし、20歳までに婚約が決まらなければその国、王家の力は必要ない、とみなされます。しかし、王家の人間であるかも怪しいスミレ。醜聞のある彼女を王妃に望む国はないと言ってもいいでしょう。それでもスミレにだって20歳までに結婚しないといけない風潮は適用されます。姫を養女に出すか、秘密裏に処分するか。何年も前から話し合い続けた議会。その結論は出ず、この時を迎えてしまったのです。



ーー姫さまの結婚は望まない方がいい。力を抑えることに成功したとはいえ、、、、。自分の意思を持たない彼女はやがて別の勢力に担ぎ上げられ、なんらかの混乱の種になるかもしれないというのに。



スミレの今後はアイラの今後にもつながります。スミレの罪はアイラの罪でもあるのです。不安げにスミレの方に目をやると、華の国の皇帝である陽怜に挨拶している様子が見えます。王は最悪の場合、スミレを陽玲の側室にでもしてしまうことを考えているのでしょうか。



「スミレ、こちらは華の国の皇帝、陽怜様だ。」



「初めまして。陛下に会える日を心待ちにしておりました。」



華の国と和の国の伝統が合わさったドレスに身を包み、鮮やかな紅を塗ったスミレはいつもとは違って見えました。皇帝はそんな彼女をみて、思わず呟きました。



「まるで月家の姫だ。」



華の国には陽家、それから4つの領地をそれぞれまとめる土家、焔家、流家、風家が存在します。土家は土を操る異能を、焔家は火を操る異能を、流家は水を操る異能を、風家は風を操る異能をそれぞれ持っています。そして、陽家は彼らが異能を使い、暴走した時にはそれらの異能を消す力を持っているのです。しかし月家というのは謎に包まれており、彼らはとても美しく、この世のものでない存在に見えるらしい、という噂がたっていました。なので、華の国の人々はこの世の美しさを超えた人のことを月家の何々、と例えて称賛するのです。スミレは顔立ちも平凡でしたが、王女としての立ち居振る舞いや、仕立て屋の全身全霊を掛けて作られた衣装に加え、太陽の下に晒されずにいたお陰で保たれた白い肌、そして輝くような銀の髪に、キラキラと光る金の目を持っているため、特別な姫に見えるのです。そんなスミレの皇帝への挨拶は成功したようでした。




パーティーでの大役を安全に終えたスミレは城の女官達に再評価され、部屋から出ていても恐怖を感じられることは無くなりました。



「姫さま、陽怜様から御手紙が。」



それどころか華の国の皇帝から手紙が届くようになったのです。



「文箱に入れておいて。」



しかし、周りから恐怖されなくなっても、世界一高貴な立場にある陽怜からの手紙を受け取っても、眉一つ動かすことはありません。感情がなくなってしまえばそれは心の底からどうでもいいことでした。



「どんな内容でしたか。」



「私の息子と会わないか、というお誘い。」



アイラは予想していなかった事態に困惑しました。皇帝がスミレを側室に望むかも、と誰もが予想した中で、まさかの皇子とスミレを引き合わせようという展開。しかし、皇帝の誘いは絶対です。どんな理由があっても断ることは許されません。



「姫さま、今すぐに返事を書いてください。」



「わかってる。」



スミレはサラサラとペンを滑らせます。文箱もそのペンもアイラの一族が贈った、芸術品とも言える一品です。本来なら使うことさえ躊躇うその品を使っているうちはスミレの心はないまま。そう判断できるため、アイラの一族はその品々を贈りました。



ー姫さまと皇子を引き合わせても大丈夫なのかしら。何故、姫さまに異能が宿ってしまったのだろう。それさえなければなんの心配もせずに華の国へ行くことができたのに。



スミレのペンからはサラサラと文字が出てきます。どれも美しい文字で、その文字で表される言葉も美しいものばかり。ただの招待を受けたと言うだけのことなのに、これほどの文章をつづるスミレ。しかし彼女の虚ろな瞳には何も映ってはいませんでした。

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