私の希望
殺す、殺されるの世界で生きてきたシルフィにとって、貴族の世界はまぶしいものだった。自分たちのような人間に汚れ仕事をさせ、自分たちは日の光の下でのうのうと幸せに生きる存在。そんな貴族たちはシルフィが復讐する対象ではなく、むしろ憧れだった。いつか家長の目的が達成されれば、国のために暗躍した自分たちは必ず報われる。そう伝えられていたし、貴族とはなんと素晴らしいものかと信じ切っていたのだ。しかし、スミレと出会い、ランの女官として正式に取り立てられたことで、その憧れは終わった。
「こんなものになるために、兄さんは死んだのか。」
目の前で倒れている風華とココナを見ながらシルフィは呟く。風華もココナも辛うじて息があるものの、意識はない。スミレの姿はなく、代わりに血が窓まで伝っていた。よく見たら部屋も荒れており、ところどころ蔦が散らばっている。凄惨な場で、令瞑だけが何も変わらず眠りについていた。正しくは仮死状態だが、見た目は眠っているのとそう変わらない。彼は特に外傷はないようだし、そのまま放置しておくことにする。問題は二人だ。シルフィの異能は場所を転移することしかできない。人を殺したことはあっても助けたことなどなかった。二人とも外傷はない。スミレが何をしたのかも見ていない。
「こういう時、あんたならどうするんだよ、、、、」
風華の肩を揺さぶるも、起きるはずもなかった。




