予感
シルフィはスミレが眠る寝室から陶器が割れる音を聞き逃しはしていませんでした。しかし部屋に駆け付けることはできませんでした。ココナが止めたのです。
「最悪の事態に備えて、シフィは操縦室へ!令瞑かスミレ様が目覚めたかもしれない。私が行きます。」
ココナはいつのまにかドレスを脛までの長さに仕立て直したのでしょう、以前よりも早く走り出しました。シルフィも自身にできることをしなくてはいけません。操縦室で待機し、その間、寝室の音を拾います。
「起きたのが令瞑であれば、風華と分かり合えたりするんだろうか。」
しかしそれがただの妄想であることをわずかに聞こえる妙な少女の声で気づかされます。
「和におろしてくれたらいいだけよ。」
その声はスミレに似ていても、シルフィが知る、年齢に見合わない幼い思考を持つ彼女とは違いました。
「華のこともラン様のことも害するつもりはないわ。」
妙に大人びていて、底知れない空気をもつのは彼女が本来持っていた、らしさなのでしょうか。風華はスミレの要求に何も答えません。しかし次の瞬間ココナが言いました。
「アオイ様や陛下はどうされるおつもりですか?」
シルフィはハッとします。和に行きたい、他国を害するつもりはないこと。そして、スミレにこの境遇を背負わせることになった原因は全て和にあったことを。あまりにもランの存在が大きく、シルフィはそれを見失っていました。
「王家の正当な血筋は彼らじゃない。」
スミレの返答にココナが息をのむのが聞こえました。そこでシルフィは初めて風華から発せられる音が消えていることに気が付きました。最悪の憶測が彼女の脳裏に浮かびます。
「行かなきゃ。」
せめて寝ているだけであってくれ。シルフィは操縦室を飛び出します。風華がここで死ねば、誰がランの歯止め役になるでしょう。風華はスミレ以上に世界を救う存在だとシルフィは考えていました。
「頼むから、生きててくれ。」




