サイドストーリー 廉視点 異能の国の奇術使い
華の貴族にいてはいけないと言われるのは「無能」。単純に能力がない人間と、異能を持たない人間。廉は後者だった。和の王家の印である黒髪と黒目を持った皇子。本来生まれた瞬間に処分されるはずだったが、母親に髪を染められたことで15まで皇子としてなんの不自由もなく暮らしてきた。ただ母親からは自分の髪が本来は黒色であることを伝えられ、異能がないことを隠すために洋の奇術師から廉は奇術を学んだ。皇位を争っている煌と雅、その二人を凌駕するほどの有能さを見せる蘭達とは違い、廉は大した実績をあげなかった。なぜなら母親から強く釘を刺されていたからだ。
「あなたは無能だから、皇帝にはなれない。必要以上の人望を集めてはだめ。奇術はあくまで異能があると周りに知らしめるため。そう簡単に人に見せるのもだめよ。」
廉は15まで言いつけを守ってきた。父親が自分に関心を持ってくれないのも、兄と姉の眼中に入らないことにも、母親からの制約にも、兄姉と比べてくる周りの人間ばかりなことにも耐えてきた。だが、それはまだ人と人の繋がりが限られていたからだ。表舞台に立つことなく、学問所と宮殿だけで過ごしてきた。蘭は辺境の村や華の闇の部分に足を運び、煌は洋や和の研究所を視察、雅は貴族たちと交流して人脈を作る等それぞれがそれぞれの思いで偉大な皇帝となるべく活動している中、何もできない自分に不甲斐なさを覚えることもあった。やがて人々の目に廉が触れられるようになると否が応でも知らなくてはいけなくなる。自身が一人であることと、無能であることを。
「陽煌様よ。この前の視察で洋の研究の欠陥を指摘なさったらしいわ。」
「陽蘭様は女性だが、あの異能は国を統べられるほどだと思う。」
「陽雅様は穏やかそうに見えて芯がお強い。あの会議の空気を変えられたのだから。」
「いやぁ、どなたが時期皇帝になられるのだろう。」
自分は噂にすらならない。
ーーもしも今この宴の場で、奇術を披露すれば、皆私を見てくれるだろうか。
そう思ったが廉にはわかっていた。奇術は異能がない洋と和でしか輝けない。異能を使った芸事などいくつもある。異能さえあれば。廉は孤独だった。感情を表に出せる立場ではない。裏で好き勝手することもない。どれだけ一人でも、表では笑みをたたえて、姿だけでも無能と見抜かれぬよう、華の皇子であるよう振舞ってきた。良くも悪くも何もない自分。挙動に自信が持てない。奇術も間違えればすべてを失う。誰でもいいから話をしたかった。素の自分で、何も作っていない自分で誰かに。誰にも認められない努力を何のためにしているかもわからなくなっていた。




