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眠り姫は夢をみない  作者: 鈴木チセ
国外逃亡編
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無機物はいかが?

飛行艇には当たり前のようにガラス窓が設置されています。上から見下ろす雲というものはなんとも奇妙で、ココナは未だになれることなく、暇さえあればその景色に魅入っていました。



「シフィ、見て!あの雲は綿あめに見えない?」



「なぜあんたが私をシフィと呼ぶ。それからあの雲、じゃなくても私には全部綿あめにしか見えない。」



そういいながらシルフィはココナに大量の洗濯物を手渡します。テーブルクロスにナプキン。それからハンカチにエプロン。ココナはその洗濯物の中に明らかに布とは違う手触りのそれを見つけました。



ーー石?いや、宝石特有の加工があるわ。周りの装飾は、ないみたい。シフィが私にってことかしら。



「ココナはどう思ってるの、伽耶王国の奪取について。」



石のことは口にださずに、シルフィが尋ねます。表向きは全員が賛同している伽耶王国の奪取作戦。ランならやり遂げるとココナも確信していました。陽煌を殺したスミレの無力化に成功したのですから。



「、、、、姫さまの居場所は全世界のどこにもない。今私が守らねば、華で一人で戦っているフタバも、亡くなられたアイラ様も報われないから。だから伽耶王国の奪取には賛同。姫さまの居場所を作ることができるから。」



「じゃあ、その石を呑め。ココナ個人の野望がないなら大丈夫だろう。」



掴んでいた石をココナはまじまじと見つめました。石をのぞき込むと、向こう側までも透き通った青の世界が見え、無機質な美しさしか感じられません。感触は冷たくて硬く、どう考えてもどう見てもそれは宝石でした。飴細工にすら見えません。



「これを呑むの?死なない?のどに詰まりそうで心配なんだけど。説明が足りない。」



「これは私が組織を抜け出す前に、家長に貰った石だ。これを呑めば異能が宿る。宿る異能は青い結晶体を生成できることだな。液状でも操ることができる。使いすぎると喉が渇くと聞いた。」



青い石が急に目の前に現れたときのことを思い出します。兄を置き去りにし、逃げ切ってもアイラの魔の手はせまっていました。組織にいては自分の命が危ない。人ならすでに何人か手にかけています。それでも自分に死が迫れば抗おうとしていました。牢獄と組織の二重生活でしたが、ほとぼりが冷めるまで牢獄のみの活動にしようと計画しました。そして転移しようとしたその時、家長の声と共に青い石と手紙が現れたのです。



「あなたがここを離れるのは許してあげる。それから紹介状を書いたから陽蘭という人物を訪ねなさい。あなたはいうなれば伏兵。この石は最も月の姫君に近いものに。」



離れても家長からは逃れられないと知ったシルフィは諦め、ランの情報屋として過ごしていたのでした。自分にはない純粋さをもつココナにいら立ちや羨望の目を向けることはありました。しかし、スミレが心を許しているのも、またココナだけなのです。



「この石は姫君に最も近い人へ、とのお達しだった。呑んでくれないか?」



ココナが石に手を伸ばしたとき、一瞬青くきらりと光りました。それをたまたま、花瓶の水を入れ替えていた風華が目撃したのです。そして、過去に令瞑が風華から隠そうとした宝石と同じ色の石に反応して凄い速さで飛びつきました。彼女は人を殺す石に覚えがあったのです。



「ココナ、それ硫酸銅じゃない?!猛毒よ!」



令瞑が土瀏から引き継いだという、大きな青い宝石。ふとよぎる、青く反射した水。風華は死因の調査に少しも立ちあわせて貰えなかったこと。令瞑が土瀏の死の第一発見者であること。そして、令瞑がある日突然風華に言った言葉。



「兄上の宝石は風華が所持しているのですか?」



あの宝石は幼いころ、二人で作ったことがありました。しかし風華も硫酸銅の結晶は持っていません。土瀏が保管しているはずでした。だから風華は一つの結論に達しました。土瀏の本当の死因は2人で作った硫酸銅を溶かし、それを服用したことによる服毒死。令瞑は発見した当時、死因だけを偽装したのではないか、と。



ーーだから私は調査に立ち入らせて貰えなかった。



令瞑の上着から出てきたあるものを握りながら、風華は二人に訴えました。



「ココナ、シルフィ。悪いことは言わない。その石は調べた方がいい。何もないならそれでいいから。家長は異能だけしか使わない相手じゃないでしょう?」









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