紅茶の種類が変わる頃
「ただいま戻りました。」
ココナの声が飛行艇の中に響きました。それを聴いた風華はすぐに駆けつけ、ランとシルフィ、ココナを出迎えます。
「お疲れ様です。封具は、見つかりましたか?」
風華がランに恐る恐る尋ねると、ランは答えました。
「なかったわ。過去に作られたものでもあればよかったなだけど、ことごとく破壊されてた。」
工房の中の隅々まで探しても使える封具はなかったのです。ココナは封具を探している間、自分用の装飾を買っていたのを風華に知られたくないゆえに、さっと隠します。
「100年前に完全に失われた技術だから残ってても良かったはずと思ったけど完全に外れたわ。華の国製ではどうしても子供用しかない。親の異能の力を込めたもので押さえつけるのが主流だもの。」
ランは風華の用意していた紅茶を手に取りました。そして、カップにゆっくりと口をつけた後に言いました。
「風華、茶葉を変えたのかしら?」
「はい。いつも使っている茶葉がなくなりまして。」
ランはそれを聞くやいなや額に手を当てます。
「ずっと飛行艇にいたなら、そうよね。そろそろ食料も足りなくなってくる。」
しかし、今はどの国でもラン達はお尋ね者であり、指名手配を受けているところがほとんどです。
「猪でも狩るんですか、、、、?」
ココナが心配そうに、そして嫌そうに質問しました。
「流石にそんなことしないわよ。まだ食料は持つはず。ただ、あまり減らしたくはないわね。」
「シルフィなら顔が割れてないので、市場に出向くことができるのでは?」
風華が提案してみます。シルフィは華と洋の混血のため、見た目は洋の者です。さらに、皇家の異能をも凌ぐシルフィは華でもその存在を秘匿されています。そのため、逃亡したとしても皇家直属の騎士団しか捜索にあたることができません。したがってシルフィなら、市場に出ても大丈夫ではないかと風華は提案したのです。
「無理ね。洋は目ざとい人間が多い。警察組織も高水準を保っている。出自の怪しい華の訛りもちなんてすぐにしょっ引かれるわ。」
口が悪いランはこの場の誰よりも立場が上のため、誰もたしなめません。いや、そんなことがどうでもよくなるぐらい、シルフィには他に聞きたいことがありました。
「ラン様、しかし私達の逃避行はいつまでかかるのでしょう?騒動が落ち着くことはないと思われます。もう、和と華と洋のどれか二つが滅びない限り。」
ランはそうよね、と呟きました。もともとこの逃避行はスミレを守るという口実の下、タイハンから飛ばしました。しかし期間も長く、食料も尽きてきたとなると、これからの目的がはっきりしないまま、ずっと空にいるのも不自然です。本来なら後ろ盾を探したり、隠れて暮らす場所を探すなり、何か他に道を探すはずだから。
「、、、、ここではっきりさせるべきかしら。」
風華達が見つめる中、ランは何かを決心したかのように立ち上がりました。女官三人衆も姿勢を正し直します。
「私の目的は伽耶王国の奪取。それから華をも凌ぐ力を持つこと。そのためにスミレさんの力を完全に私のコントロール下におくわ。」
ランにはずっと欲しいものがありました。両親からの期待、王からの関心、母親としての誇り。どれも得られず、残ったのは手駒としての利便性、自分と比べて劣った息子の存在でした。しかし、次は違う。とランは確信していました。この戦争に乗じて伽耶王国を奪取し、拠点とします。さらに異能を持たない和を属国にし、近隣の印や亜を制圧。父である陽怜を討てば華は簡単に崩れます。洋もいくら古代兵器を使ったとて、この前ランが一人で制圧してしまったように、相手にはならないでしょう。
「令瞑は、まぁどこかの交渉材料くらいにはなるでしょう。」
ランは皆に協力するわよね?と言わんばかりの視線を送ります。もちろん、女官は上のものに従うしか道はありません。
「伽耶王国の再建、とかじゃないけど試してみたいの。あの人がやったように世界中を動かすことを。」
ランが赤い唇を釣り上げます。ココナは一瞬、ランが人ではないように見えました。もっと、大きな力の持ち主。ただ、それは禍々しい何かではなく、力が大きいだけの、神と呼べる存在に近いが違うものに。




