職人ジェイクの胸中
4ヶ月更新してなかったらしいです、私。やっべぇ。
二人に追いついたココナはずっと思ってたことを口にします。
「シルフィは転移の魔法使えるから、普通に来ればよかったのでは、、、、。」
「異能を使ったらめざとい能力者に場所を知られることがあるから無理だな。」
シルフィは周りに人がいないからかココナの前では元の口調に戻ってしまうようでした。それをランが嗜めます。
「シルフィ、口調。あとココナ。和にはこんな言葉があるそうね。筋肉は裏切らないって。」
そう言いながら目の前のこぢんまりとした小屋を見つめました。そこは紛れもなく、伽耶を占領するために秘密裏に作られた封具の工房。ランは小屋のドアノブにそっと手をかけます。
「入るわよ、2人とも。」
「はい。」
ランはドアを開け放ちます。
「無断で入っていいんですか、、、、。」
「ノックしても聞こえないわよ、ほら。」
ココナが心配そうに尋ねると、ランはカウンターに向かって一心不乱に何かを書きつけている老人を指差しました。
「それに、ここ一応お店なの。」
全然見えない、と呟くココナにシルフィはドアに書かれている消え掛かった文字を指さします。
「雑貨屋、みたいなものですね。」
「こんな山の中まで来る人いるんですか、、、、。」
失礼なことをいうココナをランもシルフィも無視します。
「ジェイク、久しぶりね。」
そう言ってランはジェイクと呼ばれる老人に声をかけました。するとジェイクは手に持っていたペンを落としてしまいます。そしてそれはそれは嫌そうに顔を歪めて言いました。
「陽蘭、何年振りだ。」
「異能増幅器作ってもらってからざっと8年振り。和の国に嫁いだもの。一応子持ちなのよ。あと私、今は陽蘭ではなくてラン。間違えないで。」
ジェイクはペンを拾いながら深いため息をつきました。
「洋に嫁いでこなくて助かったが、また来たのか。今度は何しにきた。」
8年前にあったという割にそっけない返事にランは嫌な顔ひとつせず答えました。
「ちょっと封具を作ってほしくて。」
するとジェイクが驚いた顔をします。
「まて、色々聞きたいことがある。100年前、洋の国にあった封具は人々の記憶から消滅させられた。封具も破壊されたはずだ。それに、私にアレは作れない。」
ランは澄ました顔で続けます。
「けれど混血のあなたなら作れるでしょう?前約束したじゃない。今度はつくてくれるって。母親は華の者だから洋の者に効いた異能も効かなかったと思うから、残された日記に記録があるって。職人のあなたが封具という未知の道具が気にならないはずはない。」
「作れないんだ。作ろうとしたが作れないんだ。設計図が消滅したから母さんの日記を読んだ。ガラクタを分析した。材料も割り出した。でもできないんだ。確かにあったはずの日記の記述が消えていたんだ。過去の試作品も壊れていた。」
そう言ってジェイクは来い、と言いながら作業場へ歩いて行きました。
「新しく作り直したやつ全て、失敗作だ。おそらくだが、肝心な何かが消えてるんだよ。全世界からな。」
部屋いっぱいの夥しいほどの銀色の装飾品。封具に取り憑かれた男。狂気のようなものを感じた時、ココナは何かを踏みつけてしまいました。
「、、、、!」
床にまで散らばった封具、封具、封具。細やかな模様も、装飾も全てが一流のはずのそれらが異能を抑えられないためにゴミのように捨てられていました。
「相変わらず無駄なことしてるのね。失敗作でも売れば装飾品としての需要があるはずなのに。」
「フン、ただでさえ材料が高価なんだ。ここの客層には買えるわけなかろう。」
確かにこんな山の中じゃあ、とココナは思いました。街にも宝飾店は腐るほどあります。呉服屋の娘という立場上、ココナも数多くの装飾品を見てきました。ジェイクの作品は一流ですが流行ではありません。しかしランはそう思わないようでした。
「華では売れるわよ、こういうの。」
「確かに華の国には流行なんてものほとんどありませんよね。古き良き文化を何年も続けてきていますから。」
しかしジェイクの顔は曇ったままでした。勝手に話を飛躍させた3人に呆れたように言います。
「私は金が欲しいんじゃない。この先人の残した封具を蘇らせたいだけなんだ。」




