山の中
「わー、思ったよりも、なんというか自然に満ちた場所ですねー。」
ココナが詰まりながらもなんとか感想を言うこの場所は洋の国の北部です。スミレ専用の封具を作ってもらうためにきたものの、飛行艇が着陸したのは山の中。小屋一つ見えません。風華は何かを察したのか、
「私は令瞑とスミレ様の側についています。3人とも、お気をつけて。」
と言って飛行艇の中に引っ込んでしまったため、この場にはラン、シルフィ、ココナというあまりにも場がもたなさそうな集まりしか残っていませんでした。
「こんなところに本当に封具の工房なんてあるんですか?」
少しでもこのいたたまれない空気をなんとかしようと、ココナが口を開きますがランの答えは素っ気ないものばかり。
「失われた技術、というか失わせた技術だもの。そんな街中にあったら華の国は終わりよ。」
封具は異能を封じるための道具。かつてそれで華の辺境から洋に掌握された過去があります。
「その技術に頼るということは、スミレ様の異能はいろいろ深刻なんですね。」
「そういうこと。」
澄ました顔でランはでこぼこの道を上っていきます。しかし、ココナは一人手間取っていました。
「、、、、あの、2人とも速すぎやしませんか?」
平民上がりの人間とはいえ、ココナも名のある呉服屋の娘。歩きにくい道など歩いたことがありません。しかし、ランとシルフィは止まることなく言いました。
「これぐらい普通よ。」
「これぐらい歩けないと何にもできない。」
せめて、速度を落として、、、、。そう思いながらココナは2人についていきますが、服の裾が邪魔で思うように進めません。あの2人はどうなっているんだ、と前をずんずん歩いていくランとシルフィに目をやります。
「あ、お二人とも裾の丈が!」
ココナが気が付いたのは2人のドレスの丈でした。ココナは足首より下の丈なのに対し、2人は足首よりも少し上の丈で歩きやすい仕様になっています。
「淑女が短いドレスの丈なんて。大丈夫なんですか?」
疑問と呆れ二つの意味でココナが口を開きますがランは無表情で返します。
「こっちの方が歩きやすいもの。それに、華の王族である私が法よ。私が正しいと言ったらそれが正しいし、寝癖を最新の髪型だといえばそれが流行りよ。」
「あぁ、だから洋でも奇抜な流行りが、、、、。」
洋でもかつて奇抜な髪型やドレスが流行りました。それを扇動したのは洋の貴族と王族で、一時期ココナの実家でも洋のドレスを取り扱ったことがあります。流行は誰かの気まぐれで生まれますが、ココナは目の前の流行の最先端である女性が発信するものにあまり好感は持てませんでした。
「着いたわよ。」
ランがその場で立ち止まりました。
「着いたわよ。ここね、封具の工房は。」
「着いたのはお二人じゃないですか!私はまだここなのに!」
ココナはあと少しの距離とはいえ、普段歩かない急ででこぼこな道に疲弊していました。意味のない文句を言いますが、誰もココナの声に応えることはありませんでした。




