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眠り姫は夢をみない  作者: 鈴木チセ
和の国編
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眠り姫の夢

塔の中には最低限の家具しかありませんが、本棚にはたくさんの本が詰まっています。スミレはアイラが塔の様子を見に来て、目覚めたことが知られるまで本を読んで過ごすのです。夢も見ず、誰とも触れ合えない。そんな中で本を読むことが生き甲斐になったスミレ。本を読むことでたくさんの知識がつき、自分の力を抑える道具の存在を知りました。しかし、アイラに話そうにも目が覚めていることが知られてしまえばすぐに眠らされてしまいます。スミレが成長すればするほど、眠りにつく期間が短くなってきています。痛覚、味覚、触覚、嗅覚等の異能に直結する感覚は既に奪われましたが、感情だけは何度奪っても復活するようでした。しかしアイラのスミレを眠らせるための言葉も強くなっていき、もはや彼女の言葉は呪いになっていました。スミレ自身も自分の感情がどんどん希薄になっているのを感じていました。



ーー力を抑えるための道具さえあれば。最近はちゃんとものを食べられてない。お風呂も私が眠っている間に済まされている。



目が覚めても本を読むことしかできない。最近のスミレはいつか自分が歩けなくなるのでは、と思い、部屋中を歩き回ることもありました。



ーーいっそのこと、みんなが私を忘れてくれたら良いのに。そうすれば、この塔で静かに暮らす。道具さえくれたら、もう何も望まない。本があれば。ここで普通に暮らしたい。



そんな願いも虚しく、アイラの足音が響きます。自分に対する忠誠などないくせに管理だけはしてくる女官達。希薄になった感情も怒りと羨望だけは失わずに持っていました。



「アイラ !お願い。話を聞いて。」



「落ち着いてください。姫さまは感情が昂るといつも何か起こるのです。」



「今は大丈夫。だからお願い。」



スミレの懇願に耳を貸さないアイラ。さらに彼女は追い討ちをかけます。



「姫さまは私に金色の光で攻撃したではありませんか。」



スミレは衝撃を受けました。それでは、スミレを閉じ込めるだけでは飽き足らず、感覚を奪うアイラはなんなのか。



ーーなぜ、私が願うこと全てが否定されるのかしら。普通に生活することは私が王族である以上、諦めているわ。でも、道具を望むことを話すことさえ私には敵わないと言うの。



「アイラ、自分の力を抑える道具が欲しいの。そうすれば誰も傷つけずに済むの。」



「姫さま。異能を持つ者はこの城にも複数存在します。少なくとも、王はその存在を把握していて、力を抑える道具のことはご存知です。王となれば道具を入手することなど赤子の手を捻るよりも簡単にできます。」



しかしー、とアイラが口にしようとした時、スミレはそれを遮りました。



「お父様は拒んだのですか。私が王族の印である黒い髪と目を持たないから、、、!」

「違います。華の貴族が使うような封具は国家機密ものなのです。和にも洋にもありません。」



アイラのその言葉でスミレは悟ります。



「お父様、いえ、陛下は私よりも御自分の面子が大切なのね。」



アイラは一瞬躊躇います。王はスミレを愛せません。なぜなら自分の子かすらわからない上に、得体のしれない異能もち。したがって、怪物のために折る骨などありません。しかしそれを肯定するわけにもいきません。もっともらしい理由。それが今、アイラには必要でした。



ーー姫さまも馬鹿ではない。外交上のことで納得できるか。



そう思ったアイラは外交に関し、和の立場について伝えることにしました。



「姫さまは和が洋に戦争を仕掛けたのはわかりますね。そして、華を味方につけるために王はあなたの話をされました。姫さまの暗殺未遂。これが大義名分となり、和は堂々と洋に戦争を仕掛け、勝利を収めたのです。ですから、王は姫さまが自分の血を引いていようと、引いていなかろうと、華の国が滅ばぬ限り、姫さまを手元に置いておかなくてはいけないのです。それに、姫さまを国から離してしまうと力を出してしまうかもしれません。王にも国にも姫さまは塔にいらっしゃった方が都合が良いのです。」



ーー都合。そんなもののために私は一生ここにいなくてはいけないの ?



スミレの金の目が光を帯びて、パチンと音がしました。以前、姫の目から出た電気を受けたことがあるアイラはスミレの気持ちを変えようとします。



「でも、そうですね。姫さまが一週間後に眠りから覚めた後に一度外に出ましょう。いつかは外に出ないといけないのですから。」



「本当 ?!私、出られるの ?」



嬉しさのあまり、足元から草が伸び始めています。アイラは満足そうにイヤリングを外しました。



「姫さま。おやすみなさい。一週間後にあいましょう。それまであなたは何も感じません。痛みも、悲しみも、喜びも、何もかも。」



スミレは膝から崩れ落ちます。それを支えるアイラと他の女官達。



「姫さまに何をしたのですか?」



女官の一人がアイラに尋ねます。



「ちょっと試してみたいことがあったの。」



アイラはにっこりと笑いました。



ーー姫さまが何かを感じることで異能が発現するのなら、その感情をなくしてしまえばいい。もう、姫さまもそとにでられるわ。



スミレの感情は奪われていたのです。眠っている時だけでなく、起きている時ですら、スミレはもう夢を見ることができません。

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