サイドストーリー ラン視点 私の希望
幼い頃の記憶といえば異能の鍛錬と、歴史や古語。
それから経済などのどこで使うか想像もできなかった学問ばかりやっていたというものが多い。
皇族である以上、仕方のないことだったけれど皇位にもつけないのに、なぜここまで自らを痛めつける必要があるのか理解できなかった。
皇族が周りに手本を示さないといけないのだろうか。
だが、私よりも煌や雅が異能の鍛錬、勉学に励んでいたかと聞かれたらそうでもない。
2人とも、私よりも自由だった。他の貴族に比べれば少ない時間ではあったが。
しかし、私から見れば皇位継承権をもつ2人が羨ましかった。
私が陽家の異能を受け継ぐことができないから仕方がない。
私は国外に嫁ぎ、外から華を発展させねばならない。
使命でもないとやっていられないのだ。
わけもわからず、手本を示せと言われて示せるわけがない。
それに私の異能は赤色のものならなんだって操ることができるのだ。
この異能は最強ともいえる。
鍛錬してこれ以上強くなるのは無意味に思える。
しかし、旧伽耶王国領で過ごしたときに私は知ってしまった。
伽耶王国の王家の血筋でありながら側室の娘だったために王族とすら認められなかったが、華を救った姫のことを。
数々の文献はその姫を批判するものが多く、名前すら伏せられていた。
伽耶を裏切った女だの、頭がお花畑だの。
好き勝手書いてあった。
けれどさすが伽耶の文官たちというべきだろう。
彼女の偉業は消されていなかった。
洋はかつて植民地を次々と支配しつづけていた。
そして100年前に華の国ですら支配しようとした。
異能に正面から太刀打ちできないと考えた洋は封具を作り出し、辺境の村の少数民族たちは次々と異能を無効化させられたという。
洋の封具は装飾品の形をしており、交易という形で村に入り込んだのだ。
着々と華の植民地化の準備が進められた。
しかし、それを姫が異能で阻止し、植民地化が防がれたという。
姫の異能で洋は華に勝てないという暗示がかけられ、世界には平和が戻ったのだ。
しかし、封具は今でも洋の各地で作り方が残されているのではないか。
洋はかつて華の異能を制御する術を手に入れていたのだ。
封具がある以上、異能は必ずしも最強ではない。
だからこそ、鍛錬が必要だ。
異能を思い通りに操るだけでなく、強くならないといけない。
洋全体に暗示をかけることなどどれほどの鍛錬が必要だろう。
この女性は愛という不確かなものに振り回された愚かな人だ。
しかし、信じたもののために力を使い、結果国一つ救っている。
この人に惚れ込んだ大公の息子の見る目は素晴らしい。
だから、私は現和の国王コージ様からの縁談を受けた。
陽の名を簡単に捨てたのは、あの女性の遺したイマガミの名を私も受け継ぐためだ。
しかし、嫁いだものの私は未だにイマガミの名をもらっていない。
そして今はスミレさんと一緒に国外逃亡中だ。
これでは一生イマガミの名をもらえないだろう。
でも最近はそれでもいいとすら思い始めた。
スミレさんを一人にしては必ずうまく利用されてしまうだろう。
今、和で朽ちられるのも、華や洋に利用されるのも避けなければいけない。
私が目指すのは、煌が目指した月家の、伽耶王国の復活。
私はあの人のように他人への愛なんていう空虚なもののために動く気はない。
コージ様に愛されればイマガミの名も得られると思ったけれど結局それも他人からの恩恵に過ぎない。
、、、、アオイには悪いことをした。
まだ母親が恋しいだろうか。
けれど、私にはやらなといけないことがある。
そうだ、今度手紙を書こう。
風華に届けてもらえば足もつかないだろう。
私のしようとしていることが全世界のためになるとは言わない。
私の正義が全世界の正義とも限らないから。
最悪アオイを亡国の王子にしてしまうことや、スミレさんに母国を滅ぼした張本人にしてしまうかもしれない。
けれど、自分だけの犠牲ではなく他人の犠牲も厭わない。
その覚悟がなければ国内すら動かせない。
私が目指すあの人は家族だけではなく、国も捨てた。
愛する人にも国と家族を捨てさせた。
私も進もうではないか。
天国か地獄かわからない道を。




