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眠り姫は夢をみない  作者: 鈴木チセ
国外逃亡編
40/70

羊を数えて

風華が扉を開いたら、そこには混沌とも言える時間が流れていました。ココナが必死にスミレに話しかけながら、少しでも引火しそうなものや、火を使うランプを遠ざけています。シルフィは冷気に耐えるべく、毛布を寝室から転移させていました。



「スミレ様、羊を数えて下さい!」



「羊が1匹、2匹、、、、。」



「違います!羊が1匹、羊が2匹、と順番に数えるんです!」



「ごめんなさい、、、、。」



「さあ、数えて!」



スミレとココナは羊を数えていて、その間シルフィは狼狽えています。風華はその様子をみて、さっきまでの薄暗い気持ちなど消し飛んでしまいました。シルフィが毛布を転移させ終えたころ、風華は尋ねました。



「あのシルフィ、どういうことですか?」



「あれ、見てください。」



シルフィが青ざめた顔でスミレの手元を指さしました。見えるのは白くて細い手指にはめられた銀の指輪。



「まさか、この部屋が妙に冷たいのは、、、、。」



「そのまさか、です。指輪の石が、、、、。」



スミレの指輪の石が砕け散り、床に散らばっていました。石自体の輝きは失われており、明かりが反射してキラキラと光る、ガラスのようなものに成り下がっていたのです。



「シルフィ、ラン様を呼んできて。今すぐ。」



「わかりました。」



刹那、ランが紅茶のカップを持ったまま転移されてきました。一仕事終えた後、古代兵器の資料を見ていたのでしょう。邪魔にならないよう髪をまとめていました。



「なんで、私たちがいなかっただけでこんなことになっているの?」



髪をほどきながら、ランが呆れ顔でそう言います。



「スミレ様の指輪の石が砕け散りました。感情の昂りを抑えるために、ココナが羊を数えさせているのですけれど。しかし、スミレ様には意味もわからず羊を数えさせられて、少し怖いようで、、、、。」



「氷の柱は立たない程度ね。風華、衣装部屋の防寒具、取ってきて。」



「あの、毛布があるんですけど。」



シルフィは手元にある大量の毛布を指さします。それを見たランは大きなため息をつきました。



「貴族が毛布にくるまってるだなんてそんな醜態、どんな時でも晒されてはいけないの。保つべき体裁は保たないと。あなたも形だけとはいえ、貴族なのだから。」



「心得ておきます。」



そう言って、シルフィは大量にあった毛布を片付け始めます。



「姫さま、羊の色は何色ですか?」



「灰色、、、、?」



「白ではないのですか?」



「写真で見た羊は汚れていたわ。」



羊を数えるだけではスミレも疲れてくると思ったのか、ココナは次々とスミレに話題を振っているようでした。



「本物の羊は柔らかくて、美味しいのですよ。」



「美味しい?」



「はい、それはまるで、、、、。あ、失礼しました。美しいのです。」



ランは呆れ顔で、笑って誤魔化すココナのほうを見つめます。



「一応、彼女も貴族よね?」



「一応、だからあんな感じなのでは?」



商人の娘であるココナがスミレの女官になる試験を受けるにはいくつかの条件が必要です。歴史ある家柄であること、裕福であること、位が高い貴族に推薦される人材であること。和の貴族は松、竹、梅の順番で位が構成されています。ココナは店の常連客である松の貴族からの推薦で試験を受け、合格し、一代限りの梅の位をもったのです。



「トーデン家の噂は聞いた事ある?」



ランがココナの実家についてシルフィに尋ねます。



「タイハンの由緒正しい呉服屋としか。」



「そうよね。ならもう少し落ち着きがあってもいいんだけど。」



ランがため息をつきました。



「寒いわね。これ以上、飛行艇の中が大変なことにならないよう、スミレさんは仮死状態にしたほうがいいかしら?」



「ココナまで仮死状態にしないといけなくなります。」



風華の答えに、ランは大きくため息をついてつぶやきました。



「なぜこうも、和のものは手がかかるのかしらね。」

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