見つけた
わずか6歳で人から引き離されて塔の中に閉じ込められたスミレ。誰かと関わる時はいつもガラス越し。教育を受けるときでさえも、スミレはガラス越しで会話しなければいけませんでした。
ー寂しい。一人は嫌。誰か来て。
そう思ってばかりの姫の周りには冷たい空気が満ちており、塔の中には氷柱が垂れ下がり、地面が凍りました。スミレが塞ぎ込んでばかりいたので、彼女が幽閉されてから1年が経つ頃には塔の外にまで冷たい空気が流れ出します。中央に市民は近づかなくなるという影響も現れたため、スミレは王にもガラス越しで叱責されましたが何もすることができません。
ーどうしろというの ?私にも力の操り方はわからないのに。もう嫌。こんな塔嫌いなのに。壊れちゃえばいいのに。
スミレがそう思っても、さらに寒くなるだけで、氷の柱がはえてきても塔を壊してはくれませんでした。そう思っていた矢先に、アイラが部屋に入って来ます。
「姫さま、ここは今までにない寒波です。こんなことは言いたくありませんが、、、。姫さまの力のせいでここの市民は苦しんでいるんです。」
「じゃあ、どうしろというの ?!」
スミレの金の目が一瞬光ります。すると、バチッと音がしてアイラを襲いました。静電気程度の小さな衝撃でしたが、不意を突いた一撃はただの女性を恐怖に突き落とすには十分すぎました。
「姫さま、、、?」
「違う。違うの。ごめんなさい、わざとじゃない。」
アイラを襲ったのは静電気。しかしアイラはスミレから離れようとします。それが余計にスミレの焦りを招き、起こった風で地味な絹の寝巻がふわりと浮きました。
「怖い。今度は何、、、?」
スミレの足元からゆっくりと出てくる氷の柱。
「私にまで手を出すなんて。姫さまは私を嫌いだったのですか。誠心誠意支えて来たというのに。」
「私じゃない !お願い。信じて。」
アイラの言葉一つ一つがスミレを追い詰めます。足元の氷はどんどん大きくなっていき、天井にまで達しようとしていました。そして、氷が割れ、アイラに向かって欠けらが飛んでいったのです。どうすることもできないスミレは目を瞑ってしまいます。しかしアイラは飛んできたかけらを手で掴みました。そして、一言いいました。
「眠りなさい。深く、深く、戻ってこられないぐらい深く。」
ー本当はもう少し姫さまの能力について試してみたかったけど。どうやら限界のようね。
スミレは大きな力を持つにはあまりにも幼すぎました。そしてその力はどうすれば発動するのか。それはスミレの感情を揺さぶることでした。感情に差があるほど、反動が、影響が大きくなる。アイラがつかめたのはこれぐらいでした。今は眠らせることしか方法はありません。
アイラの力により長い眠りについたスミレ。彼女が起きるたびにアイラはスミレの身支度をさせ、食事させてから、また眠りにつかせます。しかしスミレが眠ったにもかかわらず、ある時に冷たい風が塔を襲ったのです。ベッドで眠るスミレの様子を見にきたアイラと他の女官達は驚きました。
「ありえません。何故、眠っているのに氷の柱が ?」
「眠らせても、どうしようもないということでしょうか。姫さまは一体何者なんですか。」
口々に眠ったままの姫に疑問の言葉をぶつける女官達。
ー眠っているとはいえ、本人の前で言うなんて。彼女は悪くないと言うのに。これでも難関な試験を突破した女官だとは。王妃にしても女官にしても、和は終わりかもしれない。
アイラ自身もスミレを追い詰めたというのに、女官を非難するような目を向けています。彼女自身が言霊を使うため、異能をもつ人間の気持ちはわかるのでしょう。しかしアイラは異能を持って当たり前の一族。スミレに比べて、とても良い環境で自分の力を伸ばすことができたのです。
「目覚めなさい。」
自分の勝手でスミレの目を覚ませるアイラ。目覚めたスミレは女官の皆を見て、嬉しそうに笑いました。
「アイラの他にも誰かいる。私、ここから出られるの ?嬉しい。」
いつもアイラの他に誰かと関わるにはガラス越しでしかできない。そう思っていたスミレの目の前に、いつもは見ない女官が現れました。ガラス越しではなく、本当の人間。それがスミレにはたまらなく嬉しいようでした。そして、スミレの顔が明るくなればなるほど塔に変化が起きました。氷は溶け、スミレの足元の石畳には植物が生え、草原になっていたのです。でも喜びに満ちたスミレを女官は突き放すように言いました。
「あなたはここから出られません。それにしても、です。姫さまは何故眠っておられたのにこんなに冷たい空気を出しておられるのですか。起きても眠っても迷惑だなんて。あなたのような人間が姫だなんて、きっと王も失望されてますよ。」
「私、ずっとこのままでいるの ?」
もしかしたら、など存在しないことに気がついたスミレは今までにないぐらいの冷気を発し始めました。その時にアイラは思いました。
ー強くなってる?
「夢も、もしかしたら。」
アイラはイヤリングを外しました。驚くほど強くなる異能。夢も感情も思いつくものすべてを封じ込めなければスミレは手を付けられないほどの怪物になりかねません。スミレをさらに深い眠りにつかせるために。
「あなたは夢を見ない。何も感じない。」
アイラが言い終わるとスミレは足元からグラリと崩れ落ちました。しかし倒れ込む彼女を支える人間は一人もいませんでした。




