思惑と善意
転移も完了して、スミレが目を開けると長椅子、戸棚、そして倒れるシルフィも目に入ります。
「シルフィ?!」
「大丈夫よ。体力を多く使ったから寝てるだけ。」
ランは風華が柔らかい風を起こし、シルフィをどこかに運んでいくのを見つめながら言いました。
「異能は無限なわけじゃない。なんなら華でも庶民の異能は長く使えて3時間がいいところ。使いすぎて倒れる人だっているわ。なのに、、、、。」
そう言いながらランはスミレの方を向きます。
「そもそも異能が使えないはずの混血でありながら、音だけの転移、そしてこの人数で空への転移。どう考えても普通じゃない。」
「牢に囚われていた時に何か人体実験でもしていたのでしょうか。」
「ありえない。お父様の異能無効の力が効かないのよ?下手なことすれば何が起きるかわからない。起きるとしたら牢の外。セーラであった頃から調べないと。」
「シルフィに涼にセーラ。彼女には沢山の名前があるのですね。」
スミレはぼんやりと考えます。同じ異能を使える身でありながら力のコントロールができるラン達。
「ラン様はどのように異能をコントロールできるようになったのですか?」
スミレの質問に答える前にランは彼女が握ったままにしている小鬼をなんとかするように言います。
「適当な瓶にでも入れときなさい。流石に持ったままでは不便でしょう?」
「そうですね。何かちょうどいいものがあるといいのですけど。」
そう言ってスミレは首を傾げ、困った表情を浮かべました。飛行艇の中を自由にココナに歩かせるなどマナー違反もいいところです。こういう時は本来、風華が瓶を持ってこなくてはいけません。しかし、風華はニコニコと二人のやりとりを見ているだけで何もしません。困った顔でココナに助けを求めるスミレ。しかし、ココナにできることはありません。
「スミレさん、まさか小鬼をずっと握ったままにするおつもりかしら?」
何も動かないスミレをランは煽ります。
「いいえ、ちょうどいい瓶がないのです。ラン様こそ、ココナに勝手に飛行艇を歩かせろとおっしゃるのですか?私、そこまで礼儀知らずじゃありませんわ。」
ランの煽るような話し方にスミレは少し苛立ったようでした。しかし、ランはスミレの発言については何も言わずに風華に指示を出します。
「風華、瓶を。」
「わかりました。」
風華が去った後、ランは話し始めます。
「突然で悪かったわね。スミレさんは社交界に出たことはある?」
「16歳のお披露目パーティーが最初で最後です。挨拶しただけで終わりました。」
なるほど、とランは腕を組みます。淑女らしからぬ所作ではありますがランはそんなこと気にしません。
「じゃあ今のが社交界の洗礼、というところね。」
何のことだかスミレはさっぱりわかりません。
「洗礼?社交界?」
「恥のかかせあい。」
身も蓋もない言い方をするラン。
「相手側や女官のミスでも自分が醜態を晒せば自分のミス。一生の汚点になる場合もあるわ。スミレさんはいつも穏やかすぎるから、まさかと思って試してみたけど、、、、。」
ランはため息をつきます。
「アイラはスミレさんを社交界に出す気は微塵もなかったようね。」
「それはどう言う、、、、。」
スミレはその先を聞き出そうとします。そして自分がどのような態度をとってしまったかも。しかし、ランは何も答えませんでした。そして話を元の異能のコントロールの話に戻します。
「本来、強い異能を持つ家系は生まれたばかりの赤子の異能を封じるの。それで7歳になるまで、徹底的に感情をコントロールできるよう教育する。それから封印を解いて、12歳になるまで自分の異能と向き合い鍛錬を続ける。そうすることで感情が暴走しても、ちゃんとコントロールすることができるようになるわ。けれどあなたはその段階を踏んでいない。アイラは異能使いなのだし、あなたにきちんとした華の国式の教育を受けさせることもできたはずよ。なのに一方的に感情を奪った。もしもの時が起きるとは考えないわけがない。読めないわね。」
ランは近くの椅子に腰掛けます。そこでようやくスミレは自分が今どこにいるか気になりました。
「あの、ここはどこですか?」
「飛行艇よ。それも特別製の。なにせ伽耶王国の宝物庫から拝借したものだから。」
ランの回答にキョトンとするスミレ。宝物庫に入る飛行艇も想像できないし、何より、いくら皇族とはいえ宝物庫のものを勝手に使っていいのかもわかりません。
「ラン様、その言い方ではわかりませんよ。私たちの常識を押し付けるのではなくきちんと伝えないと。」
キョトンとするスミレを見てクスリと笑う風華。彼女は今、シルフィの世話をココナと代わり、休息をとっている途中でした。
「スミレ様、この飛行艇は特定の言葉を唱えることにより具現化することができる設計図から出したものです。伽耶王国の王族、月家はこの飛行艇にのって世界中を旅したみたいですよ。」
「そんなものをどうやって、、、、。」
スミレは不安そうに言います。宝物庫の中を無断で持ってきたのなら、それは立派な窃盗。
「ああ、廉から宝物庫の中身、全部買ったの。伽耶王国のものならたとえ紙束でも価値はあるだろうから。」
「そのお金はどこから作ったのですか?」
さらにスミレが質問します。
「まだ陽家の人間だった時、売っても困らないものを片っ端からお金に変えたの。流行遅れのドレスは風華にレース、宝石をはいでもらってから古着屋に流したわ。上質な布地を使ってたからいい値段になった。あとは、そうね。女官を貴族に貸し出したことぐらいかしら。女官の身を守るために女主人が仕切るところのみ、にだけど。結構いい値段になったのよ。正直、身の回りの世話は風華一人いれば事足りたから。」
ランは一人で何でもできるよう教育されていたこともあり、世話係は何人も必要ありませんでした。しかし、皇族である以上体面は保たなくてはいけず、女官や騎士は何人もいたのです。しかしランは風華を除いた女官のほとんどを貸し出し、自由に使えるお金を稼いでいたのです。ランのしたたかさに驚くスミレと、苦笑いする風華。
「宝物庫の中身はラン様以外からみたらガラクタばかりだったのでそこまで高い値段じゃなくてよかったです。実際、ただの文献も多かったし、本当に価値があるものは月家が既に持ち去っていたり、廉様が既に取り出している可能性もありますから。」
「でも、そんなふうにお金を稼がなくても皇女となればいくらでも、、、、。」
「え、だって面白そうじゃない。私にとって国の行く末は大切だけど社交会の評判はどうでもいいの。だって国内で結婚するわけじゃない。それに華の皇女は道楽娘です。だなんて誰が言うの?それに言われても何も問題はないもの。」
紅茶を片手に高笑いするラン。もう慣れました、と言わんばかりの風華は慣れた手つきでスミレのカップにも紅茶を注ぎます。
「ミルクとお砂糖はどうされますか?」
「お砂糖だけお願いします。」




