何も知らないお姫様
「やぁ、いらっしゃい。美味しい野菜が沢山あるよ!」
「新鮮なお肉、獲りにいくよ!」
セイナリは活気に満ちた声で溢れていました。スミレは初めて見る下町の暮らしに目を輝かせます。
「ここは本当に、荒くれ者の住む町なのですか?」
ココナは何も答えません。ココナは知っていました。野菜の意味も、新鮮なお肉の意味も。しかし、それはスミレに伝えられる内容ではありません。しかしランは躊躇うことなく言いました。
「荒くれ者はつねに荒くれ者ってわけじゃない。なんなら普通に城下町にいるような馬鹿どものほうがましだ。」
「どういうことですか?」
「セイナリの悪党は頭が良いんだ。野菜は麻薬、肉は殺し屋の案件だ。知らない旅人はここに来て薬漬けにされたりもう、取り返しのつかないことになったものもいる。」
スミレの顔は青ざめています。
「姫さまになんてことを言うのですか!姫さまのお耳に入れて良いようなものではありません。慎みなさい!」
ココナはランの名前を呼ぼうとしました。その前に風華が異能を使います。ココナが身につけていたマントがココナの口を覆ったのです。
「慎むのは貴方の方。何も主君を思っているのは貴方だけじゃないわ。それに、唯蘭には唯蘭の考えがあるの。」
「唯蘭?」
スミレが首を傾げた瞬間にランがマントを翻し、スミレの方を向きます。
「なんですか?!」
「貴方に用があるわけじゃない。、、、、調子狂うな。」
ランがスミレに向かって手を伸ばします。
「だめだ。華、頼む。」
今度は風華がスミレに向かって風を放ちます。するとスミレの肩から黒い塊が落ちました。
「これは、小鬼、ですね。」
妙に落ち着くスミレと、小鬼をつまみ上げる風華。
「この小鬼はケイトに伝わる守り神ですね。舞姫達の住む部屋の。」
「和ではこんなちんちくりんの小鬼が守り神なの?龍ではなくて。」
「まあ、そんな感じです。でも、これは守り神ではなさそうですね。」
「そうね。」
2人が話しているところを見たココナは、
「信じられない、、、、。」
敬語を使わない風華にも、それを咎めないスミレにも驚きと不快感が募っているようでした。
「ココナ、ここは下町だ。世間知らずの貴方達は自然体でいいが、騙し、騙されるこの場所で身分は関係ない。私は側室という身分だ。王女のスミレ様よりも下で、屁みたいなもんだが王族というだけでここでは動きにくくなる。身分を隠した身で従者でもないのに敬語など使う能がある人間は少なくともここにはいない。」
「だから、彼女は姫さまに敬語を使わないのですね。」
事を理解したココナはまたスミレの方を向きます。今、スミレはセイナリに来て何をするのかわかっていません。アイラに感覚を潰された時間は長く、スミレが普通を思い出すのは難しいことでした。




