馬車の中にて
スミレの言葉に一同は凍りつきました。一つは自分のために働いてくれているもの達の前で生まれてこなければよかったと言った王族としての恥知らずな言動に。もう一つはスミレが王族としての自分を忘れてしまうほど限界なことに。しかしココナはすみれを諌めます。
「姫さま、滅多なことを言うものではありません。少なくともここの皆は姫さまのために動いているのです。王族に生まれた。これが理由では納得いかないでしょうが、では他の誰が姫さまの代わりになるのですか?」
「、、、、誰でもいいのでしょう?手駒になれれば。そして銀の髪の異能使いは華にとっても和にとっても使いようによっては毒にも薬にもなる。」
一同はまた凍りつきました。ランもさっきまで動かしていた手を止めます。そして痛烈な一言を放ちました。
「なぜそんな当たり前のことをあたかも自分が不幸かのようにいうの?」
王族や皇族のように国のトップの一族にしかわからない悩みがある。それはココナや風華もわかっていたし、シルフィも知っていました。ランがため息をつくところも風華は何度も見てきたし、縁談の話を蹴ってまでランについてきたのはそんなランを支えたいと思っていたからです。
「王族も皇族もただの駒よ。私とスミレさんの違いは自分で動くか、他人が動かすかの違い。国を動かすには上を動かせ。当たり前のことよ。あなただけじゃないわ。」
「あの、ラン様。そろそろセイナリに着きます。」
ランが話している中、遠慮がちにシルフィが言います。目的地のセイナリは和の国で最も治安の悪いところといわれています。それを聞いたランは話を中断しました。
「今ここであなたに使える時間はないの。あなたが今すべきことは何があっても私たちのそばを離れないこと。それから、華の追手があなたを見つけた時、指輪を外しなさい。」
「指輪を外してしまったら、周りの方々を消し炭にしてしまいます。それだけは避けたいのです。」
「まだそんなことを言ってるの?あなたの希望は関係ないの。それからあなたの命の価値はこの場の誰よりも高いわ。周りの人間消し炭にしたってお釣りがくるくらいよ。」
ランはそう言って足元を探り出しました。
「あなたも荷物を持ちなさい。深窓の令嬢が出来ることはたかが知れてるけどこれぐらいは持てるでしょう。」
そう言って彼女は肩にかけるタイプのカバンをスミレに投げ渡しました。
「まったく、手のかかる令嬢だ。」
いつのまにか豪奢な赤い髪を纏めていたランの口調は町人の言葉に変わっていました。




