急報、再び
伽耶の古城に想いを馳せるランにスミレは質問します。
「伽耶はどのような場所なのですか?」
ランはそうね、と考え込みます。そしてランはスミレに一つ問いかけました。
「伽耶は今でも華のものだと思う?」
急に問いかけられ、スミレは困惑しました。伽耶王国は植民地ではなく、完全に華に吸収され、伽耶は一つの街でしかないというのが和の認識です。スミレはそのことをランにそのまま伝えました。
「そう。それが正しい認識。でも、今問題が起きたらしいのよ。」
いつのまにかランの手に矢と手紙が握られていました。
「本当は伽耶がどれだけ穏やかで、古風な場所か知って欲しかったのだけれど。でも、そうは言ってられなくなった。風華の一族が飛ばしてくれた矢文にはこう書かれているの。」
ランが手紙をスミレに見せます。しかし手紙に書かれていたのは見たこともない記号。
「王家のものじゃない暗号文。これが、どれだけ重要なことかはスミレさんもわかっておいて。」
スミレは何が何だかわかっていません。しかしランはそんなスミレをおいて、暗号の説明を始めました。
「、、、、伽耶が独立する。そして、スミレさん。貴方は廉と婚約することが決定した。」
「婚約するも何も、、、、!そうさせないために逃げ出したのですよ?!」
ランに反論したのはココナでした。婚約して、婚姻にまで至ったとして、妻としてのスミレの扱いは酷いものになる。そう踏んで、ココナはスミレを逃がすために動きました。決定したもなにも、相手のスミレがいない状態で婚約なんてできるはずもないのです。
「、、、、大方、廉が特殊な異能持ちのスミレさんを欲しがったのでしょうね。伽耶の独立は華をいつ裏切るかわからない存在を産むことになるから、婚約で繋ぎ止めることにしたけど、廉が欲しがったのは皇族の血筋ではなく、力だったのよ。」
「あの、さっきから仰る廉様とは一体、、、、。」
スミレは何が何だかわからないという顔をします。しかし、ランは気にしません。ココナの話も聞かず、ぶつぶつと呟いています。風華はこそっとスミレに耳打ちしました。
「廉様は伽耶王国の領主です。」
しかし、端から聞いていたココナが急にランを睨みます。
「ただの領主ではありませんよね。苗字がないのですから。苗字がないのなら陽家に向かって婚約者にスミレさんを、と言うのは信じられません。廉様は何者なのですか?!」
ココナはさらにランに詰め寄りました。しかしランはそれに動じることなくゆっくりと微笑みました。急にココナの動きが止まります。ココナは激痛を感じましたが、叫び声を上げることすらできませんでした。ランが、異能を使ったのです。
「主のために動くとは立派だこと。けれど根回しすらせず、私に反抗するなど馬鹿もいいところ。、、、、慎みなさい。」
顔は笑っているのに、ランの声は恐ろしく冷たいものでした。
スミレは今の一瞬の出来事に何もできません。ただ、目の前でココナが締め上げられているのをみていることしかできませんでした。シルフィも風華もランを止めることはできません。少したったあと、ランはココナを解放しました。ココナに駆け寄るスミレ。
「ココナ、動ける?!何か危ないところは?!」
「姫さま、私は大丈夫です。少したてばまた動けます。それに、ラン様の異能です。和の医師たちが直すのは不可能な上、姫さまは追放されています。今はご自分のことを。」
体の痛みから解放されたココナは駆け寄ってくるスミレを心配させまいと宥めます。しかし、スミレはキッとランを睨みました。
「ココナがあなたに何をしたのですか?!」
「スミレさん、身分はもちろんだけれどそうも言ってられない事態なの。悪いけどココナには黙ってもらう。風華、紙とペンを。紹介状を書くわ。」




