サイドストーリー 皇位継承者 陽令視点
私には息子がいる。煌と雅。
大切な皇位継承者であり、我が息子だ。
特に煌は特別だ。女の受け継ぐ紫の目と陽家の金の髪。
柔らかな容姿で城の人間を惹きつける彼が私には羨ましくて仕方がなかった。
ただ、煌にも弱点はあった。
それは対象者に触れないと異能を無効化することができないのだ。
私は相手の目さえ見ることができれば後は簡単だ。
雅も手を伸ばせば異能を無効化できる。
それでも、煌が皇位継承者に選ばれた。
確実に異能を無効化させることだけではない。
私には劣るものの、成績優秀で武術にも秀でている。
選ばれないわけがない。
雅も同じだ。しかし皇位継承権を得たのは煌だった。
雅が皇位を次ぐのは煌になにか、万が一のことがあった時。
そんな雅は陽家の金の髪を受け継ぎ、緑の目を持った。
あの緑の目は土家のもので、雅は私の正妃、土朱夏の子だ。
蘭と煌の2人とは血の繋がりがない。
そして朱夏は雅を産んだ後、天に旅立った。
土家の人間は丈夫な者が多い。
けれど朱夏は翠家の血が濃いらしく体が弱かった。
翠家は名門貴族の称号四家に次ぐ位である五大華龍の一つだ。
五大華龍は四家と同じぐらいの異能の強さを持ちながら、四家とは違い、代償がある家系たちだ。
流家との繋がりが深く、海の恵みを受け取り、広範囲の火傷で異能を失う蒼家。
風家との繋がりが深く、天の恵みを受け取り、異能の過度な使用で視力を失う董家。
月家の元家臣であり、神事を司り、異能の祝福を与えることができるが、眠ることができない霞家。
著名な芸術家を何人も輩出し、学にも秀でた家系である、光を操るが、老化が速い宵家。
そして土家との繋がりが深く、大地の恵みを受け取り、短命の翠家。
翠家の寿命が短いのは植物との因縁があるからだ。
植物を大地の恵みと呼び、植物の成長を早めたり、食用の部分を肥大化させたり、と植物の命を縮めたことが天の怒りに触れ、翠家は寿命が短くなってしまったと言われている。
しかし、飢饉には役に立たない異能を持つ者たちにとって翠家の異能は奇跡であり、希望だったのだ。
ようやく天からの許しを受け、翠家は徐々に寿命を伸ばしはじめたらしい。
今では翠家の平均寿命は50歳まで伸びているそうだ。
この話はほとんどの文献に載っているもので、翠家が華の国でどれほどの存在か知ることができる。
いくら陽家の者でも食料を作り出すことはできない。
華にとって必要な一族なのだ。
そんな翠家だが、代償があるほかに五大華龍に選ばれた理由があると思っている。。
私が雅を選ばなかったのは翠家が裏についていると踏んでいるからだ。
翠家は大地の恵みである植物や虫を操る異能の家系だ。
そんな翠家には黒い噂がある。
それは毒に精通しているという話だ。
植物の毒を自由に操ることもできる。
銀食器に反応しない毒を作ることだってできるのだ。
残念ながら今の華には特殊な異能持ち以外に毒を見抜くことはできない。
それは翠家の者も同じだ。
毒を作り出すときに少しずつ毒の影響を受けていてもおかしくない。
もしも噂が本当なら陽家にとっての重臣たちが次々と殺されるだろう。
だから、翠家が後ろ盾にあるであろう雅は皇太子になることができなかったのだ。
けれど煌が死んだ今、皇位継承権は雅にある。
雅の手腕はどれほどのものか。
土家の女性が正妃になるのは皇子が皇位につけないからだ。
雅には皇帝になるための教育はほとんど施されていない。
皇位継承権を得たとしても、国としては雅に皇位にはついて欲しくないのだ。
今考えている方法は雅が印の統治をすること。
そして、月家の姫君と雅の婚姻で産まれた子を皇太子にする。
洋から次々と独立し、一つの国にまとまる印は華にとっても厄介だ。これからは対等な国交を望んでくるだろう。
理想的な思想を振りかざし、今までの三大国が積み上げてきた歴史を全て否定されるのは困る。
華はなによりも歴史と格というものを大切にする。
そんな私達にとって歴史を否定されるのはたまったものではない。
、、、、廉を呼ばねば。伽耶王国を印に吸収させる。




