迷い
突然目の前に現れた涼に驚くココナとスミレ。しかし、涼はそんな2人の様子を気にもせずに話し始めます。
「ああ、そうそう。そこの泥棒女官の言う通りだ。ちんちくりんだけど頭はいいんだな。確かに陽怜は危険だ。そこにいる姫様、危ないぞ。婚姻を結ばせておいて自分の手駒にする。それから、そこの姫さんは危険な異能持ちときた。洋への進行、印の制圧、和への報復、、、、。姫さんを引き金にすることもあれば、姫さんを戦場へ行かせるだろうな。逃げるのは賢明な判断だ。これ以上人を殺したくなければな。」
ちんちくりんと言われてもココナは突如現れたこの少女に何もいえませんでした。みすぼらしいマントを被った彼女にはあまりにも相応しくない情報。
「あなたは、何者なの?あと泥棒って何よ。商家の娘ならかくし芸のいくつかはあるわ。」
「この人は涼。無実の罪でここにいれられているのですって。」
涼ではなくスミレが応えますが、ココナは涼の方を向いたまま。
「私はシルフィ・クイン。洋の者であり、ラン様に忠誠を誓う女官でございます。」
着ていたマントを脱ぎ、艶やかな栗色の髪と大きな青い瞳を2人に見せます。緩くウェーブした焦茶色の髪に、黒っぽい目をした以前の涼とは別人の姿をした彼女。さらに涼ではない名を名乗ったことにより、スミレは戸惑いを見せます。
「どう言うこと?涼の正体はどこかの貴族のシルフィなの?なら、なぜ今まで捕まったりして、、、、。」
ココナもコクコクと首を動かしました。
「いい。話は後だ。私の正体を何処かのお貴族様だと思っているのならそれでいい。今は逃げるぞ。ラン様に姫様を連れてこいと言われたからな。その上、ここは危険だ。」
「待って!」
シルフィが異能を使い、ランの住む離宮に転移しようとする。しかし、それをスミレが呼び止めました。
「ここは危険だぞ。お前は祖国でもなんでもない華の傀儡にでもなりたいのか?」
ふるふると首を振るスミレ。
「ごめんなさい。でも、私、痛みとか恐怖とかを感じたら火が飛び出したり、氷の柱が飛び出したりするの。だから、涼やココナ、まで殺してしまうかもしれない。」
シルフィだ、と名前を訂正するシルフィですが、スミレはそれを聞きませんでした。彼女はさらに話し続けます。
「華の傀儡になるのはもちろん嫌。でも、それ以上にココナとフタバも傷つけたくない。だから涼、あなたの誘いには乗れない、とラン様に伝えておいて。」
その時、シルフィがスミレのいる牢の中に入ったのです。牢にはあらゆる異能を無効化する力があります。抜け出すことなどできるはずがないし、入ることもできません。しかし、シルフィにはそれができました。異能を無条件で無効化することができるから。それは自分を制御する道具も同じでした。
「姫様、私は異能を使ってこの牢の中に転移した。それがどう言うことかわかるか。お前がここにいても誰も守れない、ということだ。あたしと来い。異能を無効化できる道具は用意してある。ただ、この牢のように効果がなくなる場合もあるが。姫様はどっちを選ぶ。傀儡となり、結局人を殺すのか、自分らしく生きて他の道を探すのか。」
「、、、、でも、傀儡になれば少なくともココナとフタバは殺さなくて済む。」
シルフィの説得も虚しく、スミレは強情を張り続けます。そこにココナが割り込みました。
「姫さまが私たちの心配をするにはまだ若すぎますよ。今はここを離れ、ラン様を頼りましょう。」
スミレは考え込みますが、頷きました。信頼している女官からの提案を疑うことをスミレはできませんでした。
「決まったようだな。そろそろいくか。」
「待って。フタバは?」
フタバはずっとこの異国で自分のために味方がいない場所で動いています。今すぐ解放してやりたい。スミレはそう思っていました。
「フタバは華に何人かの知り合いがいます。情報統制が明けるまでは数少ない和との連絡係になる、と。後ろ盾がいる分身の安全は保障されています。」
だから大丈夫です、というココナ。スミレはシルフィの方を向きます。
「ならいい。少ないなら手間が省けた。」
ココナの手を握り、一度スミレのいる牢に転移します。そのあと、3人でランの待つ城へ向かいました。




