サイドストーリー 交渉
国なんてちっぽけだ、つまらない。もっと大きな力が欲しいというランに思わず涼は叫びます。
「どういうことだ。あんたは十分力があるじゃないか!」
ランはクスリと笑います。
「私はね、自分の身が大切なの。自分の大切なものを守るのもね、自分ごと守りたいのよ。」
ランの不気味さに涼はゾッとします。感情がリンクしていなさそうな皇族は得体が知れません。しかし涼のことは気にせずに、不思議に思わない?とランは言いました。
「私はね、この目も陽家の印であると知るまでは自分がお父様の子供だと知ることができなかったの。この目はね、銀の髪を持たない、月家の男性が受け継いだ目の色なんですって。今の月家は存在しない。けれど月家と陽家は一つになり、相手の異能を無効化する陽家の男性の力と、月家の男性に受け継がれた、誰にでも異能をかけることのできる能力がこの紫の目にはあるの。まあ、紫の目は今では陽家の女性しか受け継がないのだけれどね。」
「でも、あんたの母親は焔家だろ?!火の異能しか使えないんじゃないのか!何で私の体は動かない?!」
涼は納得がいかないようでした。訳もわからず閉じ込められた上に、閉じ込められた理由の自分の異能さえ否定されるように、今、動きを封じられているのですから。
「焔家は火の魔法だけを使うのではないの。紅いもの全てに関わる異能を使えるから焔の苗字をいただいたの。でなければ火はただの火。四家としての苗字なんて与えられないわ。それに、私が貴方の動きを止められたのは、貴方の体の中に紅い部分があるから。私の目はどんな異能を持っていたとしても異能を相手にかけることができるの。」
「じゃあ、私を解放してくれたって良いだろ!隠れながら生きるのは、もう嫌なんだ。」
「私達が何故貴方を拘束しているのか。それは簡単なこと。紫の目の意味を陽家以外は誰も知らないからよ。そして、貴方が自分に向けられた異能を無効化することができるという、何らかの力を持っている以上、野放しには出来ない。貴方は国民には無害だけれど、皇家の神話性、血統の意味がなくなってしまうもの。それに、お父様にも貴方の異能は消せないのですって。だから華の国は貴方を拘束し続けなければいけない。皇家の神話性があるからこそ、皇家を神格化しているからこその今の統治よ。今の状態を続けるためには小さな不安要素でさえも排除しなくてはならない。なに、殺しはしないわ。だから、わかってくれるかしら。」
涼は首を横に振りました。そして、目をカッと開きます。
「嫌だ。それにもう私は牢を出ている。どうしても殺したい奴がいるんだ。兄さんを殺したあいつを私は絶対に殺さなければいけない。他のやつはいい。でも、兄さんだけは。兄さんを殺したことだけは許さない。」
涼からは静かな静かな怒りが見て取れました。ランはその怒りを目の当たりにし、一瞬たじろぎますがすぐに冷静になります。
「あんたは王妃殺害事件について調べているんだったな。こうなったら仕方ない。交換条件だ。私が牢から出ていることを黙認しろ。そうすればあんたには、あたしが知ってること全部吐いてやる。」




