セーラの正体
陽煌が死んだことは掴んでも、何故死んだのかという情報は手に入りません。それは風華の異能をもってしてもでした。彼女の一族が情報統制をしているのでは、とランは推測しました。珍しいことではありません。
ーー陽家の男子である以上は覚悟しなくてはいけない未来だった。陽家の神話性さえなくなればどの一族でも国を手に入れることができる。それこそ、華の国の領土だけじゃなくて他の大国も従えさせることができるだろう。今は洋と印の争いがいつ激化するかわからないとき。洋をとるなら今だ。和はいつでもとれるのだから気にしなくていい。でも、皇帝はそれを許さない。世界の均衡を保つことが異能を与えられた陽家の役割だからだ。
陽煌の死で華は揺らぎません。まだ皇帝の陽怜が存命なのですから。しかし、華の皇族は殺害することができる。そう知られては先の戦争で敗北した洋に戦意を与えてしまうかもしれません。そんな考えを巡らせるランの背後に立つものがいました。
「セーラ、調べはついたの?」
振り向くことなく声を掛けます。いつもセーラは体形を隠すように大きなマントを身にまとっているため、転移した時に風が起こるのです。そして、ありえないことが起こりました。普段は話さないはずのセーラが話したのです。
「録音の道具が使えないように妨害の電波が張ってありました。仕方がないので口頭で話します。」
何かにピンときたランは待って、と遮りますが、それをほってセーラは話し始めました。陽煌を殺したのはスミレであること。スミレは月家の異能が使えるかもしれないと言う陽煌によってアイラの言霊を解いた後、痛みと恐怖を感じ、炎と氷の柱を出した。彼女の出した氷の柱によって、陽煌は亡くなり、死体さえも灰となってしまったであろうこと。
「以上です。失礼します。」
早口で捲し立てた後、セーラは立ち去ろうとします。しかし、ランは立ち去ろうとするセーラを止めます。
「あなた、涼ね。」
「どなたですか。その涼という人間は。」
とぼけるセーラ。ランは笑みを浮かべ、彼女に近付きます。
「なぜ知っているかって?私が陽蘭であった時は牢にいる人まで把握していたからよ。貴方は陽家の神話性をなくすであろう異能を持っていたことが原因で、死ぬまであの牢にいなくてはいけなかったはず。なのに、何故あなたはここにいるの?」
セーラは異能を使ってその場から離れようとします。しかし、ランはセーラの動きを止めたのです。目の前にいるのは陽家の神話性を壊しかねない存在。
「私が焔家の異能しか使えないとでも思ったのかしら。残念だったわね。けど話せるようにはしてあげる。」
涼は少しの時間、咳き込み続けたあと、ランに向かって凄い勢いで捲し立てます。
「何で私は捕まえられなければいけない?私が陽家に何をするんだ?!」
ランは冷たい瞳で涼を見つめます。
「陽家の男性は人では無いの。陽家の男性のみが与えられた、異能を無効化させる力は神の領域。それを使うのは陽家でしか許されない。なのに、あなたにはその力が効かなかった。あなたの異能は、無条件であなたにかかる異能を無効化する。だから、あなたは私たちにとって邪魔だという事。」
「じゃあ、何で私の体は動かない?!異能が無効化されるんじゃなかったのか?!」
確かに今、涼は手足を動かすことができません。ランはその質問には答えず、微笑みました。
「私、ずっと欲しいものがあったの。何だと思う?」
「国、なのか?」
涼は恐怖で声が掠れます。しかし、ランは首を振りました。
「国なんてもらっても嬉しくないわ。私が欲しいのは絶対的な力、かしら。それこそ、国なんていつでも手に入るような。」




