サイドストーリー 届いた知らせ
「セーラ、城に忍び込めるかしら。」
ランは部屋に戻った途端に言いました。セーラはどこからか現れましたが、ランの命令を聞いてから即座に姿を消しました。
ーー知らせが来たのは華の方向みたい。そういえばスミレさんは今、華にいる。アイラも一緒に。スミレさんの身に何かあったのかしら。
今のランには城に入ることを断られたため、待つことしかできません。それでも彼女は考え続けていました。
ーー私としては華と和が争う未来は避けたい。今、コウ家のことについては保留にしておこう。ただコージ様に知らされてもいない情報について、変に嗅ぎまわっていると思われても面倒ね。
「戦争だけは避けなければ。」
「そうですね。」
ランの独り言に答えた人物がいました。
「あら、風華。もう帰ってきていたの?」
華の国の四家の一つ、風家の三女がこの風華です。同じ四家の土家から縁談が来ていましたがそれを断り、ランについてくる選択をしました。自分の情報が漏れることを嫌うランには、専属の女官は風華しかいません。
「はい。先程戻りました。国境が封鎖されると情報が聞こえたので。完全に華の国と和の国を行き来することはできなくなるようです。」
風華はコウ家の記録を探しに華へ渡っていました。しかし、風の異能で噂を聞きつけ即座に帰ってきたのでした。
「そう。やはり、ただ事ではないのね。」
「陽蘭様、これは人伝に聞いたものですが、、、、。」
「風華、ごめんなさい。今の私はランなの。」
「苗字を捨ててしまったのですか?!」
ラン様らしい、と思わず呟いてしまう風華。
「城に入るためには仕方がないと思って。入れてもらえなかったけれど、コージ様への忠誠が誓えるのならそれで良いわ。」
ランは悲しそうに呟きます。ここでの彼女は他所者でしかないことを風華も否定することができません。ランが「それで?」と続きを促すと神妙な顔のまま、風華は話し始めます。
「本題ですが、陽煌様が亡くなったそうです。」
「煌が?!」
ランは驚き、しゃがみ込みます。
「洋の工作員が会議に紛れ込んでいました。そいつを捕まえたついでに情報を吐かせましたが、陽煌様が亡くなったという情報しかつかめていなかったそうです。会議はまだ続いています。詳細はまだ、、、、。」
風華はランを1人にさせようと席を立ちました。
ーーこうなることは覚悟していた。陽家に近づく者はあやかしの類いから犯罪者までいると言われているのだから。しかし、だからこその陽家の能力だったのに、煌は死んだ。
ランの脳裏には自分を疎ましく思っている煌の顔が、剣の試合で自分に敗北し絶望する顔が、自分が和への輿入れが決定した時のほくそ笑んだような、安堵したような顔が浮かんでは消えていきました。ランは窓を開け、棚から取り出した小瓶の蓋をとり、放り投げました。手から小瓶が離れる直前、ランは唱える必要もない文言を唱えます。
「昇竜」
小瓶から赤い液体が飛び出したと思うとそれは大きな竜に姿を変え、空に飛んでいき、やがて空気に混ざっていきました。
「私もあなたが嫌いだった。私よりも無能だったくせに男というだけで皇位を継げるんだから。」
姉らしいことをしたのは、皇位など意識していない時、一度だけ異能で出してやった赤竜のみ。




