サイドストーリー 陽蘭の決意
城に知らせが入ったと知った陽蘭はすぐに離宮を出ようとしました。しかし、離宮の前には何人もの騎士がおり、陽蘭は離宮から出ることを阻まれたのです。
「道を開けなさい。城に行かねば。」
突然の出来事にも陽蘭は毅然としていました。しかし、堂々たる妃を目にしても眉一つ動かすことなく、騎士のうちの1人が一歩前に進みます。
「陽蘭様、貴方は側妃であり、しかもまだ陽家の名を名乗っています。和の国としては、国の存続がかかった知らせ。私達には今の貴方を同胞として見ることができません。ご遠慮下さい。」
騎士たちにとって妃といえどもよそ者同然。未だに華の国の姓名を名乗っていて、和の国の人間になりきれていない状態。彼らの言うことは理不尽でも何でもありません。しかし、陽蘭は少しの間を開けることなく驚きの提案をしたのです。
「ならば私は陽蘭と言う名前を捨て、ラン イマガミとなりましょう。」
ーー陽家の名を捨てるなど、誇りを捨てることと同じ。お父様にも何と言われるか。しかし、形だけの陽蘭など何の役にも立たない。私はこの国に骨を埋める覚悟でいるのだから。
陽蘭、いえ、ランは名を捨てる決心をしたのです。すぐにでも情報を正規の手段で手に入れること。それは自分がその出来事に関して公に動くことができる資格があるということです。それは和に来てから自らの手腕を碌に振るったことのない陽蘭からすれば喉から手が出るほど欲しい機会。
「貴方の覚悟はわかりました。しかし、、、、。」
騎士たちは言葉を濁します。それもその筈。何故なら彼らは華の国の人間にとって苗字がどれだけ大事かを知っていたから、あんな言い方をしたのです。元から他所者に知らせを教える気などさらさらなかったのでした。
「王にまずは貴方の決意を伝えます。それまでお待ちください。」
ここはランも引き下がるしかありませんでした。正規の手段で情報を得ずともランにはセーラという駒がいます。大事を引き起こしてまで正規の手段で情報を手に入れても、それに見合う利益は見込めません。
「わかりました。」
ーー今は覚悟があると知らしめられただけ良しとしよう。
ここまで騒ぎになる知らせは戦争になるかもしれない出来事が起こったときしかありえません。ランはある程度の目星を立てました。洋の国が印を不当に統治し、それを救うという名目で華の国が本格的に軍事作戦に出たのかもしれない。それとも教皇が他国に殺害されたか。ランの頭には世界最強とも謳われていた華の国皇族の陽煌が、スミレによって殺されたとはまったく考え付きませんでした。




