消えた女官
「姫さま、待っていてください。今すぐにアイラ様を読んできます。」
フタバはアイラを呼びにいきました。しかし、この状況はどうもおかしいのです。何故、今この場にスミレの一番の側近である彼女がいないのか。こんな惨劇が起きた時に、何故彼女は姿を消しているのか。ただでさえ、スミレの異能が暴走して普通ではない状態になっているのです。こんなことも思い当たらないなど、当然のことと言えました。そして、数刻の時が経つとフタバは青い顔で戻ってきたのです。
「アイラ様がいた部屋に見知らぬ女性がいました。彼女は息をしていない!」
陽煌の死、そしてアイラの失踪。突然事件が2つも起こっていたことに戸惑う兵士とココナ、フタバ。
「姫は我が国の牢に入れておく。異論はないな?」
2人はおとなしく下がりました。スミレは戸惑い、怖がり、混乱して、辺りはどんどん寒くなっていきます。
「おい、誰か彼女を落ち着かせられる人間はいないか。」
屈強な兵士たちの異能は全て、戦闘や防衛の役に立つもの。スミレを落ち着かせることができる異能を持つものはこの場にはいませんでした。
「姫。我々は貴方を傷つけることはしない。それだけはわかっていて欲しい。」
穏やかな顔でそう語りかける兵士。しかし、彼らの心中はそんな物ではありませんでした。
ーー本当は、こんな女殺してやりたい。だが、国はそれを望まないだろう。
忠誠を誓っていた陽煌を殺めた人間には、本来なら死んだ方がマシだと言わんばかりの復讐をしてやりたいと思う彼ら。しかし、この国は姫を喉から手が出るほど欲しがっている、月家の異能を持つものかもしれないのです。今残されている月家の異能を持つものはスミレしかわかっていません。だから彼らはその感情を隠し、穏やかな表情でスミレを落ち着かせようとしたのでした。しかし感情を奪われ、人の気持ちなど考えたこともないスミレがそんなことを考えつくはずもありませんでした。
ーー華の国の方々は心が広いのね。
彼女は嘘をつくということを、つかれることを知らないわけではありません。ただ、人付き合いを今までまともにしてこなかっただけ。しかし、それが今はスミレや彼女の周りの人を守っているのです。




