サイドストーリー 苗字の秘密
「アイラ コウについての報告、ご苦労さま。大変だったでしょう。彼女の異能は面倒だものね。」
陽蘭は窓の前に立つセーラを労います。しかし彼女は反応しません。
「全く。話してはどうなの?一流の暗殺者は声を使い分けるのよ。貴方はまだ半人前なのかしら。」
陽蘭がセーラを挑発してみますが彼女は表情を変えることすらしません。
「面白くないわね。まあ、いいわ。下がってもいいわよ。」
セーラを下がらせた後、陽蘭は考え込みます。
ーーアイラ コウ。華にルーツがあるのは掴んでいた。コウと聞いて思い浮かべるのは黄家、光家、紅家かしら。でも彼女の髪は黒色。いや、待って。黒色、そして言霊。言葉の神に色なんて存在しない。それに何よりも気になるのはーー。
陽蘭はふっと脳裏にある人物が浮かび上がります。
「ルイリー コウ。彼女の能力は自らの感覚を操ること。」
ーールイリー。彼女は十数年前に退職した女官。嗅覚を強化して、毒を嗅ぎ分けていた者ね。アイラとは親族だったはず。でも、能力は言葉と関係ない上に、彼女の髪は金髪だと聞いている。洋と華の混血かしら。そういえば、コウという苗字はどこから、、、、?そもそもコウ家じたいルーツが華にあるからといって異能など使えるはずがない。
陽蘭は手を止めました。皇族であるが故の縛られた生活。彼女に幼少期などなく、物心がついた時から小さな大人であり続けました。武道、学問、詩、全て一流の者を指導者とし、一流の物に触れ、自分自身一流になろうとしたあの日々。陽煌が生まれるまで、過剰な努力は続きました。しかしその時に重ねた努力は無駄ではなく、今陽蘭の脳に一つの記憶が蘇ります。
ーー華の国の歴史書。あそこに臣下の一覧もあった筈。コウ家が何かわかるかもしれない。
華の国では皇族の臣下のみ苗字が与えられます。苗字は代々大切にされ、絶やすことなく受け継がれていくのです。苗字を捨てるなど、死ぬことと同じ。だから、アイラが華の国にルーツがある上に、コウ姓を名乗っている以上は皇族の臣下であった一族の人間ということになります。
「手紙を書かなくては。レイラ様暗殺の真相を解き明かせばコージ様からの株も上がるかしらね。」




