呪いの代償
見渡す限り赤い炎が広がっていますが、そこにふさわしくない鋭く尖った氷がいくつも地面から飛び出しています。あたり一面に咲いていた薔薇たちは見る影もなく、皇太子だった筈のモノは長時間高温の炎で焼かれ、消し炭と、歪んだ金属の塊に変化していました。
「おい!どうなっている!陽煌様は!」
その声がスミレの耳に聞こえた瞬間、
「痛い。」
と一言呟きました。誰かの怒鳴り声に痛いと感じたのか、胸に響いた痛みなのか。今のスミレにそれを知ることはできません。彼女はあまりにも知らなさすぎました。そして、火は一層燃えさかります。
「姫さま!!」
「下がれ!アレはバケモノだ!」
「一国の姫に向かってバケモノとは何ですか!貴方こそ下がりなさい。」
何も知らないココナは兵士につかみかかります。フタバだけがココナを止めていました。惨劇の中、アイラの姿が見えません。
「フタバ、ココナ?」
スゥッとスミレの体から霧が出てきます。心なしか火の勢いも無くなりました。2人を見て安心したのでしょう。しかし、もう遅すぎました。陽煌によって解放させられた異能は暴走し、華の国のバラ園は全焼。陽煌は人の姿さえ保たずに死にました。そんなことには気にも留めずにココナは兵士の1人を蹴り上げ、スミレに駆け寄ります。
「姫さま、大丈夫ですか。」
「私が、殺した。」
え、と声にならない声を発するココナ。
ーー異能は封印されていた筈だ。
フタバとココナはその場で理解しました。陽煌が勝手に一国の姫の髪に触れ、スミレにかかった異能を解いたことを。そして、それがどんなに危険なことなのかを。




