サイドストーリー 陽蘭
「アイラ コウを調べておいて。」
その女の声は低く、周りを警戒していました。そして彼女の前に立つ、黒いマントを身に付けた人間。フードを深く被っており、顔はわかりません。
「彼女を殺すのはだめよ。貴方がどんなに恨んでいようとね、セーラ。」
腰まである豪奢な髪は鮮やかな赤。そして瞳は宝石のような赤紫色。洋の国のアンティークのイスに深く座るその女は、華の国の皇帝、陽怜の娘、陽蘭。
「コージ様からのお願いなの。レイラ様が何故死んだのかを調べてくれって。」
レイラとは王妃のこと。そして陽蘭はまだ側妃に過ぎないのです。
「酷いと思わない ?私に前妻のことを調べてくれ、なんて。というか今更よね。仕事をくれと言ったらこれよ。信用されてないのかしらね。」
陽蘭はセーラに話しかけますが、彼女は一言も話しません。少しの沈黙の後、陽蘭の口が開きました。
「アイラはもともと王妃の女官だったの。そして、頻繁にレイラ様に呼び出されていたそうね。でも、事件当日のアイラは休暇をとっていた。そして、アイラはその日に実家に帰っていた。そのことは家族も使用人達も証言している。城にも彼女は居なかったと聞いてる。」
でもーー、と陽蘭は口にします。その時にドアをコツコツと叩く音がしました。
「母上、今大丈夫ですか。」
アオイが部屋に来たようです。陽蘭が住むのは春の離宮。アオイは宮殿で暮らしており、彼が宮殿から離れた離宮までくるのは余程のことがない限りあり得ません。
「セーラ、ごめんなさい。とにかくアイラを調べて欲しいの。どんな些細なことだっていい。レイラ様が殺された真実を教えて。」
セーラは頷いた後、何かを呟こうとします。その時に陽蘭は彼女の背中に向かって言いました。
「私ね、アオイの前ではいい母親でいたいの。どれだけ私が暗殺者を使う人殺しとそう違わない人間だとしてもね。」
次は頷くこともせず、今度こそセーラは姿を消しました。




