王の不正と王妃の不貞
ある年の冬のこと。和の国の王に娘が生まれました。国民は姫の誕生を喜び、貴族はこぞって王宮に祝いの品を贈りました。しかし娘は王家の印である黒い髪、目を受け継いでおらず、銀色の髪に金色の目を持っていたのです。生まれるはずのない容姿をした娘を見た王は王妃の不貞を疑いましたが、王妃はそれを認めませんでした。そして娘を指差し言ったのです。
「この子はきっとあなたの行いに神が怒り、生まれてきたこの子に災いを与えたのでしょう。」
王は王妃の言葉を恐れました。何故なら王は本来この国を治めるはずだった自分の兄を殺め、王になったからです。そして王妃は王が兄を殺そうとしている、その瞬間を見てしまいました。そして王に迫ったのです。自分を王妃にしろ。でないとお前がしたことを告発する、と。そんな王妃だったのですが、
「兄殺し。あなたの過ちのせいで神が怒り、この子は黒い髪ではないのだわ。なのに何故私を責めるの。」
目に涙をため、王を責める様子は今にも崩れそうで、弱い存在そのもの。王はそんな王妃を責めることができず、書斎に閉じこもり、一日中出てくることはありませんでした。しかし王妃は自分の部屋に戻った後、さっきまではあった儚さなどが嘘のように笑い出したのです。
「馬鹿な男。過去の過ちをちらつかせればこんなにも簡単に黙るなんて。でもこの子は何とかしないといけない。私の身は確かに潔白なのだから。」
王妃が部屋のベルを鳴らしてから少し経つと女官がやって来ました。その女官に王妃は声をかけます。
「人払いはしましたか ?」
「はい、もちろん。誰も部屋の付近には居ません。」
「そう。では下にいきましょうか。」
王妃は隠し扉を開き、そこに女官を招き入れます。
「それにしても、ベルを別々にするのは便利ね。誰にもあなたを呼んでこい、と言わなくて済む。無駄な時間を女官達に過ごさせないためには本当にいい案。」
「ありがとうございます。音で何かを伝える手段があるそうなので、それをベルに取り入れてみました。気に入っていただけたのなら良かったです。」
2人は隠し扉から続く長い通路を歩き続けました。そして、また扉の前に立ちます。
「今、あなたのお家からは何人動かせる ?」
「王妃の命令であれば何人でも。」
王妃は満足そうに笑みを浮かべました。そして、恐ろしいことを口にしたのです。
「3人の他国からの暗殺者は回せる ?」
女官の顔から血の気が引いていきます。それもそのはず。女官の家は代々続く暗殺者一族。和の国を拠点としてから長い時間が過ぎたと言っても元は世界一の大国、華の国の者達。華の国といえば世界を相手に貿易をしています。人、モノ、お金の流れが活発で世界中の人間との繋がりをつくることが出来るのです。その繋がりは様々なことに利用できます。例えば、、、。
「他国からの、、、 ?」
「ええ、どこでも良いのよ。洋でも華でも、他の小さな国でも。」
「動かせないことはありません。しかし、何をするつもりですか。」
王妃はニコリと笑いました。その笑みを見た女官は凍りつきます。
「まさか、、、、。」
自分に都合の悪い人間を消し、その消した人間を外国人ということにしてしまえば黒幕は外国人。つまり、他人に罪をなすりつけることが可能です。しかし、女官が恐れたのはそんなことではありせんでした。黒幕を別の人間にしたいだけなのならば、わざわざ外国人にする必要はありません。
ー王妃は戦争を起こそうとしているのかもしれない。
女官はそう思ったのです。
「勿論。それ以外ある?」
「戦争を起こすのは得策ではありません。他国を敵に回して勝てる保証は限りなく不可能に近いでしょう。」
女官は王妃を止めます。主に道を踏み外してもらいたくないという一心で。しかしそれが王妃には届きませんでした。
「私が愛してもないあの男を脅して王妃になったのは幸せになるためよ。でも不貞なんて疑われてちゃ、何もできない。」
「しかし、、、、。」
「いい?不貞なんてしてなくても生まれた姫があれなら私が何を言おうが言い訳にしか聞こえないでしょう。でもあの子が死んだら問題を問う意味がなくなる。」
ーそういうことではなく、戦争について、、、、。しかしここまで仰るのなら私がこれ以上諫めたところで同じこと。
女官は少し考え込みましたがやがて決めてはいけない覚悟を決めてしまいました。産まれたばかりの姫を憐れみながらも、この母親に育てられてもどうせ愛されない。それならばいっそ、と考えてのことでした。それに、ついでに戦争を起こそうとしているのも王がいくつかの利権を巡って洋の国と対立しており、その口実を探していたからのことだろうと考えました。
「、、、、仰せのままに。洋のものを3人動かします。それであなたが満足するのなら。」
「よろしくね。あなたに期待しているのよ。アイラ。」
女官のアイラは戸惑いの表情を浮かべていましたが、王妃について行き、通路から出ました。そして、その3日後に、王妃の部屋で眠っていた姫は3人の暗殺者によって殺されるーーはずでした。