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ヴァレリアとアナスタシア  作者: 杉野仁美
第一章 ヴァレリアとアナスタシア
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今日から私はヴァレリア様!

オシリスのお店に到着した面々は、嫌な顔に遭遇した。

 酒場にはオシリス、セトと、ネフティスがいた。


「セト‥‥‥」


 エリーは小声で呟く。ネフティスはセトの隣りに居て、エリーの気持ちを知りながらセトの隣りに当然のように座り、エリーを煽っているようだった。


「あら? そのお方は誰ですの? 踊り子のお方を雇ったのですか?」


 ヴァレリアはネフティスを見てはしゃぐ。


「まぁ私踊り子さん初めて見ますわ! でもオシリスさん。ダンスホールもないのに先走りすぎですわ」


 空気を読まないヴァレリアが割って入った事で、たちまち不機嫌になるネフティス。


「あっ? いきなり現れてなんだよお前は。私はネフティス! セトの元妻だよ」


 セトは朝から酔い潰れて机に突っ伏していた。こういう時に役に立たない男セト。


「まぁそれは失礼しました。私はヴァレリアです、よろしくお願いしますわ」


 そう言ってヴァレリアは深々とネフティスにお辞儀をした。


 それをレクターが慌てて制する。


「ヴァレリアお前は仮にも侯爵家の令嬢だろう?」


「あら、確かに肩書きはそうですけど今はただのヴァレリアですわ」


 何をどうするかは私が決めると言わんばかりにヴァレリアはレクターを見る。


「おお、それいい案かもしれないな! 酒場にダンスホール! このチンケな酒場が盛り上がるかもしれないな! ちょうどネフティスをどうしようかと三人で相談していたんだ。一人は潰れっちまったが」


 ヴァレリアは目を輝かせた。


「でしょでしょ! 我ながらいい案ですわ! 早速工事に取り掛かりましょう! お金には糸目は付けないわ! 私も踊り子さんと一緒に踊ってみたかったんです!」


 そこまで聞いてレクターが声を荒げた!


「なんだそれは!? 初めて聞いたぞ! やめてくれ。ヴァレリアの品位が下がる!」


 こんな見るからに下品な踊り子ネフティスと、同じ舞台に上がる事がレクターには我慢できなかったのだ。


「聞かれなかったから答えなかっただけですわ。それにお城のダンスは作法がいちいちめんどくさくて今イチ楽しめなかったのです!」


『わーヴァレリアはいよいよヴァレリアになってるな! 自分から踊りを披露したいと言い出すなんて。もしかして髪を切ったからか? 解き放たれた? カタストロフィーか??』


 ニーズヘッグがパタパタと羽根をはためかせて目を丸くしている。


「自分でも何故かわからないのですが、血が騒ぐというか、ハメを外してみたいのです! せっかくお城の面倒ごとをしなくていいのですから」


「おい! 城の面倒ごとは別にしても俺との婚約は」


 レクターが慌てて言葉を続けようとすると、ヴァレリアはレクターの唇に自分の指を当てた。


「わかってますよ、レクター」


 もう心配症なんですから、とヴァレリアはレクターの膝に乗る。


 えっ? えっ? えっ? ヴァレリアってこんなに積極的だったっけ??


 もしかして髪を切ったのが原因か?解き放たれたのか? カタストロフィーか? なんかのスイッチが入ったのか? レクターがニーズヘッグのように混乱している。


 その様子を見てクスクスと笑うヴァレリア。


「そうですね、ある意味解き放たれたかもしれません。今まではまだヴァレリア様の影に遠慮していた部分がありましたけど。髪を切って私は生まれ変わったような、新しい自分になれた気がするのです」


 そう言ってヴァレリアは椅子からガタンと立ち上がって高々と宣言した!


「今日から私はヴァレリア様ですわ!」


「わぁ素敵お嬢様! 髪も切って心機一転、新しいヴァレリア様ですわね!」


 エリーだけがわー!と拍手をして喜んでいた。


 レクターは複雑だった。髪を失った事を喜んでいるのはいい事だが、あまりにも自由すぎて、ヴァレリアがこのまま街の住人になってしまいそうで。


(「レ、レクター‥‥‥。無事でよかったです‥‥‥。私の、愛、レクター‥‥‥」)


 ‥‥‥。そんな事はないか。心配しすぎだな俺は。


 レクターは膝に乗ったヴァレリアをぎゅっと抱きしめた。ヴァレリアはそのレクターの様子を見て不思議に思った。


 (レクター? 何か心配なのかな? 何も心配する事はないのに‥‥‥)


  まぁいっか、と思いながらヴァレリアはレクターの腕をぎゅっと握る。


「幸い自由に使っていいお金が何故か毎日お父様から運ばれてくるのでオシリスさんはお店の改装をお願いしますわ。オシリスさんのお店を見る限り、そこかしこにセンスの良さが感じられるので、内装はオシリスさんにお任せしますわ。セトは力仕事で、私とレクターはお金を出す。これでどうでしょう?」


 一同ポカン。


 (たま)らずレクターが呆れたような声を上げる。


 (前言撤回だ!ヴァレリアにはそこまでする必要はない!)


「いやいやヴァレリア、いきなり現れてダンスホールの話をされてもここにいる面々もどうしていいか分からんだろう。それに何故俺が金を出す事になっている? 物事にはもう少し順序というものがあってだな」


 そう言うとたちまち機嫌が悪くなるヴァレリア。


「レクターは、私のダンスを見たくないのですか? 私がまだアナスタシア様だった時、ヴァレリア様の踊りは女の私でも引き込まれるような美しさでしたよ?」


 レクターの膝の上に乗りながら上目遣いで聞く。それはそれは可愛い角度で。首をコテンッと傾げながら。


 クソッ、こいつわざとやってんのか??


「それに、オシリスさんやセトには恩がありますし、女性の仕事をもっと増やしてもいいと思うんです!」


 どうですかこの案!? と言って瞳を輝かせてヴァレリアはレクターに聞いた!


 レクターは静かに首を横に振る。


「ーーーー確かにヴァレリアの言う事も一理ある、だが俺は嫌だ。俺の婚約者が、大衆の目に晒されてしまうなんて。民衆はヴァレリアのような高貴なお嬢様を見たことがないので全員が惚れてしまう可能性だってある」


 大真面目な顔をして言うと、レクターはぎゅっとヴァレリアの腕を握る。


「ヴァレリア。金は出す、だからお前は俺の前でだけ踊ってくれ。俺は、俺でさえお前の舞いをまともに見た事がないから‥‥‥」


 この俺でさえまともに見た事のないヴァレリアの舞を、民衆の面前で見せたくない。


「レクター?」


 呼ばれて静かにヴァレリアの瞳を見る。キラキラして吸い込まれそうだ。


 もう俺はヴァレリアに振り回されてばっかりだな。だが、俺はそれでもヴァレリアが好きだ‥‥‥


 俺の顔を見て何かを察したのか、ヴァレリアは微笑む。


「ふふッ、了解です。私は王子の前でしか踊りは見せませんよ」


 ニッコリと微笑むヴァレリア。


 とそこへ、ネフティスが割って入る。


「ーーーーちょっとお嬢さん、こっちへ来て!」


 そう言ってネフティスはチラチラとレクターを見る。レクターは気を()かせてヴァレリアを下ろし、席を移動した。


「あ、あのさ‥‥‥。私がここに来たのは、職を探すためだったんだ‥‥‥。だから、ごめん。あんな風に乱暴な言葉投げつけちゃって」


 乱暴な言葉? そんな事言われたかしら? ヴァレリアは考えを巡らせた。


【あっ? いきなり現れてなんだよお前は、私はネフティス! セトの元妻だよ】


「あんたが普通の町娘みたいな格好をしてるからわからなかった。あんた、侯爵家? か何かのお嬢様なんだよね? 先程まで知らなかったんだ。知らなかったとはいえご無礼な事を言っちゃった。ごめんなさい! そ、それと。あ、ありがとう。偶然とはいえ、あんたの一言で私の仕事、決まりそう‥‥‥オシリスにも、OKもらえたし」


「まぁそうでしたのね! よかったわ! 言ってみるものですわね!」


 散々悪態ついて来たけど、エリーもごめん!


「職が決まらなくて大きな街に出てきたけど、ここでも中々決まらなくてイライラしてたのを、つい‥‥‥。セトに守られて、オシリスに仕事もさせてもらって、幸せそうなエリーにぶつけてしまった」


 エリーはそう言って頭を下げるネフティスの様子に呆気に取られていた。


「それから、セトのことはもう何とも思ってないから! あ、(あたし)が好きなのは、オシリスだから!」


 自然とヴァレリアとエリーの目が合った。


「「ええええええ!?!?」」


 二人の声が店中に響き渡ったーーーー



わー短くてすみません! 


とりあえずネフティスがセトに未練がなくてよかった〜(よかったのか?)


※当時の踊り子は身分が低かったのです。身分が高い者がわざわざ身分の低い者にお辞儀をしたのでレクターはヴァレリアを制したのですね。(急に歴史の話Part.2)


ここまでお読みくださってありがとうございます。




この話が良いと思ったら広告の下にある☆に点を付けて行ってくださいね!良くないと思ったら☆にZEROを付けて行ってくださいね。


ご拝読ありがとうございました。また読んでください。

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