忍び寄る影
ついに自ら魔剣の正体を明かした王子。
ヴァレリアは特に驚く事もなくあっさりと受け入れるのだった。
セトとエリーの砂吐き劇場を挟み、ヴァレリア達はそろそろ戻ろうかという話になる。
「さて、用事も済んだしそろそろ戻るか! テセウスにも地下室を渡したしな」
「ユーリはどうしましょう? 魔法に興味津々の先王様に連れて行かれてそのままなんですが?」
それを聞いてレクターは困ったように首の後ろを掻く。
「あーそっか。親父の魔法好きにも困ったな」
「ヴァナルカンド。ユーリを任せていいか? 親父の気が済んだら吠えて知らせてくれ」
『ハハハ! お安い御用だ。俺も石を継いだユーリの魔力を見てみたいしな』
こうして私たちは、ヴァナルカンドと先王にユーリを任せてセトとエリーの元に戻る事にした。
「そういえば、レクターは一応王子ですけど大丈夫なんですか?」
いとも簡単に城を出たレクターだが、一応この城の跡取りである。
「ああ、心配いらないよ。テセウスがしばらく代わりに政務をしてくれる事になったからな。あいつは普段は地下室から滅多に出ないが、仕事は俺くらいにできる」
そう? ならしばらくは安心? なのかな‥‥‥
「レクター。レクターの中に入っている魔剣っていうのは
どのような時に力を発揮するのですか?」
私は馬に乗りながら聞く。
「んー? 基本的には、俺が力を発揮したいと強く願った時に魔剣の力は発動してるなぁ。魔剣に選ばれた者は、同時に魔剣を支配しているからな。まあごくたまに、魔剣の力が暴走する時があるけど」
「暴走? 暴走ってどんな事があった時ですか?」
「ーーーー俺もよくわからないんだ。今のところ、そういう事が起きた時がないから。ただそういう事が起こる時は、よっぽど俺と魔剣の感情が昂った時だろうな」
感情が昂った時‥‥‥
そういえばレクターは、いつも冷静で、これと言った激情を見せた事がないな。
「ふーん? ちょっと見てみたいかも、レクターが感情を剥き出しにするところ」
「それは難しいな、仮にも一国の王子だからなぁ。簡単に感情を剥き出しにするのは‥‥‥」
いや、難しいというより、忘れてしまった?
でもーーーー
「ヴァレリアの事になると、感情と激情が戻ってくるような気がする。ユーリがまだアレクと混乱状態にあった時、ヴァレリアの上に乗っていた事があっただろう? あの時は頭に血が昇ってどうにかなりそうだった」
(本当は、両腕を燃やしたいところだが‥‥‥今日は勘弁してやるよ)
ヴァレリアの事となると、我を忘れてしまう。仲間であっても、何をするかわからない。
でもあの後ヴァレリアに説教されて目が覚めた。
「ヴァレリア、俺は怖いんだ。この俺の体にある大いなる力が」
絶大な力は、それを持っている者にしかわからない孤独が常に付き纏う。それは逃れられない宿命だ。擦り寄る者はこの力が目的の奴らばかり。そしていつか大切な誰かを傷付けてしまう恐怖がつきまとう。
「俺は王子にならなければ良かったと思うよ。魔剣が暴走した時を考えると怖くて仕方がない」
「あははっ、珍しいですね。レクターが弱気になるなんて! 大丈夫ですよ、魔剣は生きているのでしょう? いつかレクターの気持ちをわかってくれる日が来ますよ」
俺の気持ち?
魔剣が分かってくれる?
そんな事考えた事もないーーーー
「ハハッ、そんな日が来るのかな」
でも確かに悪魔との対話をヴァレリアは可能にしてみせた。それにあのニーズヘッグに涙を流させた。
(王子‥‥‥。ヴァレリアを救ってくれよ、グスン。普通の人間なら何もできないだろうけど、でも王子なら、王子だったらできるだろ!! うぅ。可哀想な、ヴァレリア‥‥‥)
あのようにお互いを思い合える関係になれる日が来るのだろうか? 俺にも、レーヴァテインと‥‥‥
「それに今は私たちの仲間だし、私たちは、こ、こここ」
「?なんだ?」
「とっ、とにかく今はそんな事考えたって仕方ないですよ! それに、レクターは自分の意思で私たちとの冒険を選んだんですよ! 私も今はーーーー」
「今は?」
「レ、レクターにいつも側にいて欲しいです」
だって私は、いつもレクターに助けられてばかりだった。私が一番側にいて欲しい時に側にいてくれた。
「えっ!? ヴァレリア今のよく聞こえなかった! もう一回言って!!」
「わーッ! そんなの嘘です聞こえてたはずですわ! もう二度と言いませんよ!」
そう言って私はレクターから逃げるように馬の腹を軽く蹴って走らせた! それを見てレクターも後に続く。
「あははは! 楽しいですね! レクター!」
「俺はお前の笑顔を見ているだけで楽しいよ」
「はぁ?? 何かっこつけた事言ってるんですか! やめてくださいよ!」
二人は馬を並走させながらイチャイチャしている。
その様子を見ている怪しい影に気付きもしないままーーーー
そこのバカップル後ろになんかいるぞー!
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