セトとエリーの事情
ヴァレリア様たちがお城で何やかやしている一方で
エリーとセトは何をしているのでしょうか?
緊張感のある回が続いたので、今回は個人的な癒し回です。
※ゲロ甘なので砂吐き注意
ヴァレリア達がお城であれやこれやしている間、セトとエリーはすっかり夫婦をしていた。
「セト〜? いつまで寝てるんですの?」
私はセトがなかなか起きてこないので呼びに行った。そこには上半身裸でパンツだけの半裸のセトがいた!
「わぁ! エリー! ノックも無しに勝手に開けるな!」
「わぁ! すごい筋肉ですわ!」
私は無遠慮にズカズカと部屋に入っていく。
「何ですか? またショース(靴下)がうまく履けなかったんですか?」
「う、うむ。何しろ不器用でな」
そう照れたように言うセトの後ろには大量のショースの残骸があった。
私ははぁ、とため息をついた。
「無理しないでくださいよ。ただでさえセトは体も手のひらも指も大きいんですから、おまけに力も強いし」
そう言いながら私はセトの新しいショースを用意して履かせる。
「いや! いやいやいや! 大の男がそんなガキみたいな事させられるかよ!」
そう言ってセトはばっと私からショースを奪う。
「いいんですよ。私がやりたいだけなんですから。それにいくら小銭を稼げたとしてもいちいちショースが破れるたびに新調するのは勿体無いでしょ?」
「うーむ。でも、男として情け無い、こんな簡単な事もできないなんて」
ハァ、と落ち込むセト。
「はい、出来ましたよ。セト」
「うわぁぁぁ!!」
ショースはなかなか長いので太ももくらいまである。いつのまにかセトはエリーに押し倒される形になっていた!
「エリー! どけよ! そこまでする必要はない!」
「うん? そこまでってどこまでですの?」
「途中まで履かせてくれたら、あとは俺がやるから!」
エリーはセトの言葉を無視し、その逞しい胸板に手を伸ばした。
「‥‥‥。エリー‥‥‥いい加減にしろよ」
「うんー? 私はただすごい筋肉だなーと思って感心してるだけですわ。ほらこことか、こことか」
やりたい放題のエリーについにセトがブチ切れた!
「お前! 俺だって男なんだぞ!」
エリーの細い腕を握り締める。
「痛い!」
「ああ、ああ! ごめ、つい!」
セトは慌てて握っていた腕を離す。
「大丈夫か?」
エリーはため息をついた。
「これだからダメなのですわ。セトは力加減ができないの! だからいつまで経ってもショースの一つも履けないのですわ。まぁそれがセトのいいところなのですけどね」
言いながらエリーはセトの頬を摩る。
「エリー‥‥‥」
セトがエリーにキスをしようと顔を近づける。
「あっ、そうだわ! オシリスさんに頼まれごとがあったのですわ! 失礼セト、あとはご自分でお願いしますね」
「‥‥‥」
バタンッと音を立ててエリーは部屋を出て行った。
「うおおおお〜!!!!」
セトの絶叫が聞こえたが、エリーは知らんぷりでその場を後にした。
* * *
「この洗濯物を干せばいいのですわね? お城の洗濯物とは違ってこの量なら楽ちんですわ」
「あら、貴女? セトの新しいお妾って」
「えっ?」
声のする方を見ると、そこには胸の谷間を強調し、踊り子のような衣装を纏った下品な女がいた。
何この女‥‥‥。踊り子??
「ふふっ、誰この女? て顔ね、私はネフティスよ」
「はぁ、私はエリー。エリーザベトですわ。それでネフティス?さん、私に何か用ですか?」
「ふーん‥‥‥」
ネフティスはまるで品定めをする様にエリーの周りを観察し始めた。
何? 何なの? この女‥‥‥
「ぷっ、貧相な体ねぇ! そんなのでセトが満足するかしら! アハハハハハハ!」
なっ! たっ、確かに私はヴァレリア様たちに比べたら貧相と言えば貧相かもしれないけど! でも知り合いでもなんでもない方にいきなり貧相って、馬鹿にされる事って無くない? 何この女!
「失礼な人ね! 私は今仕事中なの! 邪魔しないでいただけますか?」
「あははは! 仕事? それが? そんな下女がやるような事が仕事ですって!?」
「このッ! なんですのいきなり現れてッーーーー」
どんな仕事でもお金をもらっている限り仕事は仕事ですわ!そう私が言おうとした時。
ドォン!!
と音を立てて私の前に立ちはだかる大男。二階から直接降りてきたらしい。
「セト‥‥‥!」
「ネフティス、お前今更何しに来やがった?」
セトは私をその大きな背中で隠すように前に立ちはだかった。まるでネフティスを私の視界に入れないように。
「あら〜、セト久しぶり、あんた自分の愛妾にこんな下働きみたいな事させてるの?可哀想じゃないクスクス」
「‥‥‥エリーはそんなのじゃねえ! お前らと一緒にすんな!」
私は二人を見比べながら言った。どうやら初めての知り合いでもないらしい。
「あの、お二人はどういった関係で?」
「あらセト、教えてあげてなかったの? 初めましてエリー。私はセトの妻よ」
そう言いながらネフティスはセトの腕に自分の腕を絡ませた。
「えっ‥‥‥」
「勘違いさせるような事を言うんじゃねぇよ! エリー、こいつは「元」妻だ!」
心底嫌そうにネフティスの腕を振り払い、セトはエリーを更に自分の背中に隠す。
「エリー行くぞ、ネフティス何しに来たのか知らんが俺たちの邪魔はしないでくれ!」
「俺たち?」
「こいつと俺の二人の事だよ‥‥‥」
セトはそう言って私の肩を抱いた。
「こいつは、エリーは‥‥‥。お前とは違うんだ、純粋で、穢れを知らないんだ」
セトのその言葉を聞いてかぁーッと顔が熱くなるのを感じた。
なんか、恥ずかしいですわ!
「ふーん?」
ネフティスが立ち尽くしてこちらをずっと見ていた。
* * *
「よかったんですの? あの方」
「いいんだ、それより視界に入れるんじゃない。目が穢れる」
「元妻っておっしゃってましたけど? あの方、セトの妻だったのですか?」
セトの妻‥‥‥なんでだろう。胸がチクチクしますわ。
「ああ、まあ。一時期そういう事もあったかな、あの頃はまだ若くて、まあ若気の至りってやつだ」
若気の至り‥‥‥そういえば、よくよく考えたら私セトの若い時の事何も知りませんわ。セトは、若い頃はどんな感じの人だったんだろう? 今みたいに雇われの騎士をやってたの?
「セトは昔、どんな感じだったんですか?」
「えっ? うーむ、どんな感じと言われても。うーむ」
セトはうーんうーんと頭を抱えて唸っている。そんなに話しにくい事かしら?
そこへオシリスさんが戻ってきた。
「エリーありがとな、頼まれごとをしてくれて。エリーが来てくれてから店の細々したことがスムーズに出来て助かるよ」
エリーはなんとあの短時間にネフティスの邪魔が入りながらもちゃんと仕事を成し遂げていた。さすが元お城の女中。
「これくらい何でもないですわ。それよりもセトの様子がさっきからおかしいの」
言われてオシリスは突っ伏しているセトを見る。
「うん? たしかにおかしいな、酒も飲んでないのに」
「さっきセトの若い頃を聞いただけなんですけどね」
そう言いながらエリーはメモを広げて何事か書き込んでいる。どうやら酒場の新しいメニューを考えているようだった。
「ああ、こいつは若い頃、ちょっとした国の王だったんだよ。兄弟が多くてたまたまセトが長男だったんで王になったんだけど、何せ兄弟が多かったもんで、セトに反発する兄弟も多くてさ。そんなに王位が欲しいならやるよって王位をほっ散らかして逃げて来たのさ、ハハハ」
「おい! オシリス! 余計な事を言うな!」
「なんだよもう昔の事だしいいじゃないか、俺たちにはもう関係ない事だし」
「俺たち?」
エリーが顔を上げて聞く。
「言ってなかったっけ? セトは俺の兄なんだよ。俺もセトと同じで王位を争っている兄弟に嫌気が差してイチヌケした一人だ、幸いというか何というか。兄弟が多かったからそこまで深追いされなかったのはそこは助かったよなーセト?」
「お前、すげぇ喋るじゃん‥‥‥」
セトはまた頭を抱えた。
ああ、それで‥‥‥
「オシリスさん、ネフティスってご存知ですか?」
「ああ、セトの元妻か? あいつは気性が荒くて金遣いも荒くて、セトと強引に結婚もして。嵐のような女だったな! なぁセト!」
セトはもう机に突っ伏したまま何とでも言ってくれという様子だった。
そう‥‥‥
なんか、嫌な気持ちだな。この場に居たくない。
「って噂をしてたらネフティスじゃねーか!」
「あら、オシリスもいたの? 久しぶりね」
(一時期そういう事もあったかな。あの頃はまだ若くて、まあ若気の至りってやつだ)
あの方の声を聞きたくない。いくら元とはいえ、この方は私の知らないセトを知っている。
「私、少し席を外しますわ」
あの下品な女が近づいてくる。一度でも、セトがあの人に触ったかと思うと胸がズキズキする。
胸がズキズキして。心臓が飛び出そう!
セトが何か叫んでいたような気がするけど、一秒でもあの場に居たくない! セトと兄弟だったオシリスさん。セトの元妻だったネフティス‥‥‥
あの場には私の知らない事が沢山ある!それがすごく嫌だ!
「ハァ、ハァ、はあ〜! 何やってるんだろう私は!」
いつのまにか私は街の外れに来ていた。表向きの華やかな場所とは違い、寂れたところ。道ゆく人たちもみんな目つきが悪いし痩せている‥‥‥
「いつのまにこんな所に‥‥‥は、早く戻らなきゃ」
私の勘が言っている。ここは良くない所だと。
急いで立ち去ろうとして後ろを振り返ったその時、街のゴロツキのような男にぶつかってしまった。
周りのガリガリな人間たちに比べて体格の良いゴロツキは、ぶつかった私に下卑た笑いを浮かべる。
「お前ら見ろよ! どうやら子鹿ちゃんが紛れ込んだみたいだぜ?」
「本当だ! 明らかにここには似合わねぇ格好だ! なんで紛れちゃったんだ? ひょっとして群れから逸れちゃった?」
ゴロツキとその取り巻きがゲラゲラ笑う。こんな笑い、久しく聞いた事がない。まだ私が幼い頃‥‥‥。両親もこんな笑いをあげて私を叩いた。こんなに下品なものだったなんて‥‥‥
「俺たちがいい所に連れて行ってやるよぉ!」
考え事をしているとゴロツキの一人が私の腕を取った!痛い!!
「や、やめて! 離しなさい! 無礼者!」
「ブハハハハ!! 聞いたかお前ら無礼者だってぇー!! いいねえいいねえ! 俺たちを前に怯まないなんて、気が強い女ってそそるねぇ!」
ゴロツキの一人が黄ばんだ歯を見せて笑う!
「この可愛い顔が歪んで、無様に助けを呼ぶ様子が見たいなあ!」
ゴロツキの表情が変わった! 肉食獣のような、容赦のない顔! 私は初めて恐怖を覚えた。
「や、やめて‥‥‥」
うまく声が出ない。
喉がひりついてる?
「ブハハハハ! 何をやめろって言うんだよ!! これからする事に対してかぁ!? 少し遅すぎたなぁ!」
誰か。
誰か助けて
助けて‥‥‥
セト‥‥‥
「セト! 助けてーーーー!!」
「ギャハハハ! 誰も助けにこねーよ! ここら辺は俺たちのナワバ‥‥‥リ‥‥‥」
ゴロツキの一人の顔が歪んだかと思うと、そのままスパーッと切れて頭と胴体が真っ二つになった! 切れた胴からピューピューと噴水みたいに血が出ている!
「あ、ああ‥‥‥」
そこに、ゴロツキの背後にいたのは‥‥‥
「ーーーーセト‥‥‥」
「は? 何? お前、どうしーーーー」
私は足がすくんで立てない。ゴロツキの取り巻きは何がどうなっているのかわからないまま、バターのようにスライスされて行った!
私は思わず顔を覆った! いくら私でもあんなに人間の血が噴き出る様を見たことがない!
やがてゴロツキの声はやみ、耳が痛くなるほどの静寂が訪れた。
私は顔を手で覆ったまま、その手を放す事もできないでただ震えていた。
「ふぅ、口だけの雑魚め!」
(セト?)
「全く、ここらは治安が悪いって言うのに。なんでよりによってここに来ちまうかね?」
セト‥‥‥ああ、セトの声だ。安心する。
抱きつきたいのに、体が地面に縫い付けられたように動けない。
「エリー、大丈夫か? 怪我とかしてないか? 酷いことされてないか?」
「‥‥‥」
セトは何も言わずに私を抱き上げた。私は安心してセトの体に身を預けた。
セト‥‥‥私を追いかけて、助けに来てくれたの?
* * *
私たちはオシリスさんたちがいる酒場は避けて、静かな宿にいた。
「セト、私を助けに来てくれたの?」
「ああ、、お前が出て行ってから心配で探しまくった。俺には王子のような特殊能力もないし、もしもお前に何かあったらと思うとゾッとしたよ。お前が叫んでくれたから救えた」
そう言いながらセトは私の頭をぽんぽんと撫でる。
「セト、私のことが心配ですか?」
「?うん、もちろんだが‥‥‥」
「セト、私のことが‥‥‥。好き、ですか?」
「‥‥‥ッ! お、お前ッ、なんだいきなり‥‥‥」
「答えてください! 私のことが好きですか? その、ネフティスさんより‥‥‥」
言った瞬間ポロポロと涙が出てきた。
「‥‥‥なんだ、ネフティスの事、気にしてたのか。あいつの事はもう何とも思ってねーよ、寧ろ黒歴史だ。大体、あいつとは何もなかったんだ。あいつが俺が王になるって噂を聞き付けて早とちりしただけで‥‥‥」
セトに頭をぽんぽんと撫でられるたび、涙がポロポロと溢れて止まらない。
「ーーーー不安にさせちまって悪かったな、俺がすすす、好きなのはエリー。お前だけだよ」
ゴロツキに何かされたと思ったら血の気が引いた、そんな事は後にも先にもお前だけだ。エリー、お前だったからだよ。
「ごめんなさい。私、あの人、ネフティスさんがいると嫌な気持ちになっちゃって‥‥‥セトが遠くに行っちゃうんじゃないかと思って、それ考えたらすごく嫌で」
涙が止まらない。
「セト‥‥‥私も、セトが好き! どこにも行かないで‥‥‥。私の側にいて‥‥‥!」
「エリー」
馬鹿だな、そんな事心配してたのか?
セトは初めて自分からエリーを抱きしめた。
もう何も怖くないよと言うように。
安心させるように。
背中をぽんぽんと叩いて。
「エリー、俺はどこにも行かないよ。エリーを置いてどこへ行こうと言うんだよ。俺たちはいつも一緒だ」
「うん、うん‥‥‥」
セトとエリーはしばらく抱き合っていた。
(セト、私、幸せだよ)
貴方に会えて‥‥‥
あまーーーーい!!!!
この二人鬼可愛い!
私は気持ち悪いですか?逃げて?(´・ω・`)
ここまでお読みくださってありがとうございます。
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ご拝読ありがとうございました。また読んでくださいね。