王族の秘密
ユーリは束の間の父親との再会に涙した。
もう一人じゃない、仲間も、両親も一緒にいる。
その思いがユーリをまた一つ成長させるのだった。
「ああ君、大丈夫だったか?」
「あ、先王様。先程は庇っていただいてありがとうございました」
『ぶへーっ! 全然大丈夫じゃねぇよ!! 危うく丸焼きになるところだったぜ!』
それまでずっと大人しかったニーズヘッグがヴァレリアの胸からボヨンと飛び出して先王に文句を言った!
「おやニーズヘッグじゃないか、久しぶり」
そう言うと先王はニーズヘッグとハイタッチを交わす。この先王、かなりノリがいい。
「先王様はニーズヘッグとお知り合いなのですか?」
ヴァレリアの言葉を聞いてガルシアは目を丸くした。
「ははは! 知り合いというより、ニーズヘッグやヴァナルカンドは私の中にある魔剣の監視を受けているんだよ。レクターから聞いてなかったか? ついでに言うとレクターも私の上をいく魔剣の加護を受けている、大抵の悪魔はこの魔剣に恐れをなして王族に逆らえないのさ」
・
・
・
・
・
・
は??
魔剣? 加護? ニーズヘッグどころか大抵の悪魔が逆らえない?は?は?
『ありゃ言っちゃったよこの人。王子はひたすら隠してたのに、意味ねー、王子ざまぁ』
「まぁ悪魔でも、従えないやつはいるがな、厄介な。一番厄介なやつが‥‥‥あいつのせいでフランシスがどんなに辛かったか、ブツブツ」
「‥‥‥先王様、そのお話。もう少しお詳しく聞かせてもらえませんか?」
「うん? 魔剣の事か?」
そう言って振り返るガルシアは初めてヴァレリアの紫の双眸を捉えた。
「あれ? そういえば君の名前をまだ聞いていなかったな。名前を聞いてもよろしいか?」
ヴァレリアはクスクスと笑った。先王様はさっきからどこまでもマイペースでいらっしゃる、でもそれがいいわ!
「私はヴァレリアです。ガルシア様」
そう言って優雅に挨拶をするヴァレリア。
ガルシアは少し面食らった。
「ははは! 君がヴァレリアだったのか! 面白いお嬢様が城から出ていったと聞いたが、まさかこんな形で出会えるなんて。君の事はレクターから聞いて知っているよ! ヴァレリアかぁ。冒険者のような格好をしているから気付かなかったよ。美しいな、何よりその夢見るようなキラキラした瞳。レクターが夢中になるわけも分かる!」
レクターが‥‥‥? 一体どんな話をしているのかしら? 聞きたいわ。
「まぁこの城は噂話が好きなやつが多いからな。レクター直通じゃなくても、自然と耳に入ってくるのだよ。ニーズヘッグを従えさせ、悪魔化でき、優れた気性と知性を兼ね備え、自分より弱い者を守る女傑で、今一番レクターがご執心な女性だと」
ええ〜? お城の方達はどんな風に私の話をしてるのよ! 盛りすぎですわ!
「私、そんなに大した人間ではありませんわ」
「ははは、そんなに謙遜するな」
本を戻しながらガルシアは笑う。たちまち部屋が元の形に戻っていく。
「さて、魔石も渡したし。私はユーリにまだ話があるが、ヴァレリアはどうする?」
『もちろん王子に魔剣の事を聞きに行くぜー! なぁヴァレリア?』
「う、うん」
「そうかそうか! まぁ魔剣といっても魔剣は魔剣だ! 少し怖いが身構えることはない!」
『何言ってんだコイツ』
わけのわからない事を言い放つガルシアに、ニーズヘッグは割とマジで心配した。
ガルシアは急に真面目な顔をしてヴァレリアに話す。
「ヴァレリア、レクターを支えてやってくれ。レクターは幼い時から自分の地位、力、権力に擦り寄る城の連中に嫌気を覚えて、すっかり心を閉ざして生きてきた。フランシスのようにな。きっと君なら、レクターの頑なに閉ざした心を開いてくれるだろう」
「私がレクターの心を‥‥‥」
そういえばレクターはまだ私が城にいた頃、いつも何故かムスっとして機嫌が悪かった気がする。心底うんざりといった感じで。
私はそれが何故か怖かったけど‥‥‥。今のレクターは全然怖くないわ。
「そうだヴァレリア、君にはそういう力がある、私の目は確かだよ」
ガルシアはそう言うとユーリに目を向ける。
「さあユーリ〜! あちらで話そう、石の効果が見たい! フランシスと君の魔力を見せてくれ!」
そう言うとガルシアはウッキウキでユーリの肩を抱いた。
「あ、あ、ヴァレリアさん。僕はしばらくここにいますね」
ガルシアに肩を抱かれ、連れていかれながらユーリは慌ててヴァレリアに話しかける。
「ふふ、いってらっしゃい。ユーリ」
ヴァレリアとニーズヘッグは手を振ってユーリを見送った。
『ヴァナルカンド、さっきみたいに城へひとっとびしてくれよ』
ニーズヘッグは先程から石のようになって動かないヴァナルカンドに話しかけた。
『ヴァナルカンド! 何固まってるんだよ』
ニーズヘッグが尻尾でペシペシとその鼻先を叩く。
『ブェクショ!!』
ヴァナルカンドがくしゃみをし、その衝撃でニーズヘッグは飛ばされてボヨンッとヴァレリアの胸に当たった。
『ズズッ、ああすまん。部屋が急に熱くなったので防衛本能が働いて一時的に身体を氷の膜で覆っていたのだ、熱いのは苦手だからな。で、何だ? 城に行けと?』
ヴァレリアは気絶してポロリと落ちてきたニーズヘッグを持ちながら口を開いた。
「お願いしてもいいかしら?」
『いいよ、お安い御用だ。ヴァレリアはユーリの成長には欠かせない存在だったからな。そのお礼だ』
わーい、と言ってもふもふに縋るヴァレリア。
『しかし不思議な女だなヴァレリアは。ユーリも悪魔も人間も、レクターでさえ魅了してしまう何かがある、元々は普通の人間だったはずなのに』
「そうかしら? 私、自分じゃわからないわ」
『ははは! そうだろうな!』
(そうだヴァレリア、君にはそういう力がある。私の目は確かだよ)
先王様も仰ていた。私には、レクターの閉ざしている心を開く事ができると。ひょっとして先王様はわざと、魔剣の事を話してくれたのかしら?
私が、レクターの心を開く事ができると信じてーーーー?
おやおやおやおや?
魔剣?聞いてないんですが?
次回、王子はついに魔剣について話すのか!
ここまでお読みくださってありがとうございます。
この話が良いと思ったら広告の下にある☆に点を付けて行ってくださいね!良くないと思ったら☆にZEROを付けてくださいね。
ご拝読ありがとうございました。また読んでください。