フランシスとの約束
ガルシアとフランシスの出会いと別れを聞き、ユーリは何を思うのか!
【僕にもしもの事があったらこれを息子に渡してくれ。ご先祖様が代々継いできたお守りだ】
お父さん! ユーリは込み上げてくる父への思いで胸がいっぱいになった。
「フランシス、ユーリの父親は、立派な魔法使いだった。私の太陽だった。いつも私の道を明るく照らしてくれる、いなくなった今でも」
そう言ってガルシアは立ち上がり、本棚にあった一つの本を傾けた。
本を傾けた途端たちまち変形していく部屋の形。それと同時に本棚の一部が消えて金庫が出てきた。
「隠し金庫? 私初めて見ましたわ」
ヴァレリアは興奮した。
「フランシスとの約束だ! ユーリ、手を出したまえ」
「はっ、はい!」
金庫の中にあったのは、フランシスがガルシアに渡してきた、太陽の光を封じ込めたような不思議な色を放つ魔石だった。
(フランシス、いいよな? もう渡しても)
「わぁぁぁぁ!!」
ユーリが石に触れたその瞬間、眩い光が部屋を覆った! 太陽のような光だった!
ヴァレリアがオロオロしていると、ガルシアが声を上げた。
「目を閉じて! 私の後ろに」
ガルシアがヴァレリアを庇うようにして立ち、ヴァレリアは混乱しながら目を閉じた。
『いざ、我が子は来た、そして期は熟した。我が時は来たーーーーこれは我が朝、我が日は始まるーーーー来たれ、今こそ、大いなる真昼!』
ガルシアが何事か唱えている。
「わーあああああ!!」
(ユーリ!? 大丈夫なの!)
部屋が焼け付くように熱くなり、ゴウゴウと燃え盛る火がユーリを包む!
「あ、ああ。‥‥‥お父さ、ん」
ユーリは炎の中に幻を見た。
微笑んで、何も言わずに頷いている父親の姿。
その横で、同じく何も言わずに微笑む女性。
「お母さん、お父さん!!」
ドクン!
風がユーリの体を突き抜ける! 色々な魔法の呪文が、ユーリの脳を占めていく! と同時に誰かの記憶も入ってくる! お父さんの記憶?!
『ユーリ、お前と過ごした時間はあまりにも短かった。その分お前には苦労をかけただろう。でも僕とパーシーは、ずっとお前を見守っているよ、忘れないで』
「お父さん! お母さん!」
『ユーリ、私達は、いつでも貴方を見守っているわ。もしどうしても会いたくなったら目を閉じて、今覚えた呪文を唱えてね‥‥‥』
「お母さん! お父さん! 僕は、僕は‥‥‥」
『ユーリ、分かっているよ、アレクの事も。辛かっただろう、でも同時に強くなったな。これからはその石と、僕たちがユーリを守るだろう』
色々話したかった。
苦しかった事、悲しかった事。
アレクの事。
施設での悲しい出来事!
ヴァナルカンドに守られていた事!
でも、お父さんの記憶と、気持ちが頭に流れてくる。何もかも知っていると。‥‥‥あの石の効果なの?
「全部‥‥‥全部‥‥‥」
『ユーリ、大丈夫だ。全部話さなくても分かっているよ』
お父さんお母さん、こんなにこんなに僕を愛してくれていた! でもあまりに、あまりに‥‥‥
「短すぎるよ! お父さんお母さん!」
ユーリが幻に触れようとする! だが掴んだのは空気だった。炎はいつのまにか収まっており、さっきまで熱くて堪らなかった部屋も、元に戻っていた。
「うぁぁぁ!」
ユーリは跪いて泣いた。
お父さん!! もっと顔を見ていたかったよ‥‥‥
「ユーリ‥‥‥」
ガルシアがユーリに話しかけ、そっと抱きしめた。
「お父さんには会えたか?」
「‥‥‥はい」
嗚咽混じりにユーリは答える。
「フランシスは、元気そうだったか?」
ユーリはガルシアの言葉を聞いてハッとした。ああ、そうか、先王にとって僕の父は‥‥‥
「はい!元気で、幸せそうでした!お母さんもいて‥‥‥」
そこまで言って再びユーリは泣き出した。
「ーーーーフランシスは、魔法が使えないごくごく普通の娘と結婚したんだ。私はもったいないと思っていたが、私も所帯を持って、フランシスの気持ちがわかった。フランシスはきっと、平凡だが幸せな生活を、ずっと求めていたのだ」
(今まで僕に近寄ってくる人たちはみんな、僕の魔力を目当てに擦り寄ってくる人ばかりだった。僕を利用しようとする悪い人たちを沢山見てきた)
フランシスはずっと、大きすぎる自分の力に。すり寄ってくる世界にうんざりしていた。
「ありがとうございます。お陰で父に会えました。不思議です、僕は父の顔を覚えていないはずなのに‥‥‥。父だとわかりました」
「ははは、それは先程私が唱えたあの呪文のおかげだな。あの呪文とその石が合わさった時、ユーリとフランシス、お互いの記憶が交差する様になっているのだ。どういう仕組みかは分からんが、恐らく代々引き継がれていた呪文と石なのだろう。私がフランシスから石を持たされた時にあの呪文も唱えるように渡されたのだよ」
ガルシアはそう言うと椅子に座り直した。
「君はフランシスの全てを受け継いだ筈だ」
ガルシアは頭をトントンと指で叩き、ユーリに向けてウインクをした。
「ここに、な!」
ユーリは涙を拭き、顔を上げて答えた。
「はい!」
ガルシアは微笑み、ユーリの頭をぐりぐりした。
「よく頑張ったな、フランシスの子よ」
ユーリ、アレクに代わっていない?よかった‥‥‥
「ユーリ、頑張ったわね」
ガルシアの後ろにいたヴァレリアがユーリに駆け寄り、抱きしめる。
「ヴァレリアさん。はい、僕頑張りました」
「体は? なんともない?」
ヴァレリアはユーリの身体中を見る。火の中にいたというのに、火傷ひとつ負っていない。
「はい、むしろ、力が湧いてきます。こう、何と言って良いかわからないけど。お父さんと、ご先祖様の魂が常にそばにいる感じです」
お父さんが、お母さんがそばにいる。
それを感じる、それだけで安心する。
ユーリはまだ熱を持った自分の拳を握る。
「ありがとう‥‥‥」
ユーリの涙が頬を伝った。
すみません短めになってしまいました。
次回はレクターの謎が明らかになるのかもしれないしならないのかもしれないし!?
ここまでお読みくださってありがとうございます。