君は太陽、僕は月
ヴァナルカンドにせっつかれた先王ガルシアは、自分とユーリのお父さんの出会いを語り始めるのだった。
※漢字が多くて読みにくいかもしれません。
ガルシアは椅子に座り直して語り始めた。
「君の父親、フランシス・ジャンカエフと知り合ったのは、貴族も平民も関係なく入学できる魔法学校だった。まだ残っているかな? 決して止むことのない雪が降る、高い山にある建物なのだが。今はもう規模がだいぶ小さくなって、メインの部分は図書館になっていて、一部の選ばれた者のみ入学が可能となっている場所だ」
雪が降る山の図書館?
ひょっとしてレクターが迎えに来てくれた場所かしら?
「まだ私が幼い頃、父に私の魔力を認められて、入学したのがそこだった。私はそこで魔法学を学び、基本的な魔法から、薬による魔術。変身術など、ありとあらゆる魔法を習った」
* * *
‥‥‥その魔法学校で、ひときわ抜きん出た才能を持つ男がいた。君の父親フランシスだ。フランシスは謙虚な性格なのか、学校でトップクラスの成績を残しても。クラス全員の賞賛の声を集めても、大した事のないように、表情一つ変えず、口角の一つも上げなかった。
私はその澄ました態度が気に食わなかったので、しょっちゅう勝負を挑んでは負けていた。
だがある日、何回目かの勝負の時に、私のミスで詠唱を間違えてしまった事があってな。それで魔法が自分に返ってきたのだ。
危うく命を落としかけるような、致命的なダメージを負った私は気絶してしまったのだが、フランシスの回復魔法と、懸命な治療により息を吹き返したのだ。
私はフランシスに負けを認めざるを得なかった。
フランシスは凄いやつだった。
誰もフランシスには敵わないと思っていた。
* * *
「僕の魔力が膨大なのは、血が原因なんだ」
ある日フランシスが話してくれた事がある
「血? 血って怪我した時とかに出るあれか?」
「ははは、違うよ! 血っていうのは、血族のこと。僕はどうやらご先祖様がすごい魔法使いだったらしくて、その血が、僕の膨大な魔力の正体なんだ。だから。僕が凄いんじゃなくて、僕のご先祖様がすごいってだけなんだ。詳しくは知らないんだけど、神さまみたいな存在だったんだって」
その時フランシスは周りに誰もいないか気にしているようだった。今にして思えば、あまり聞かれたくない事だったのだろう。
「神さまァ?」
「冗談みたいな話だけどね、実際冗談だったと思うよ。昔の人は、大袈裟に話を盛るから」
「うーむ、でもフランシスならご先祖さまが神さまみたいな存在だったと言われたら俺は信じる! だって実際お前はすごいじゃないか! 一方的に喧嘩を売った俺の事を誰にも頼らず医者にも頼らず俺を治してくれたし」
「そ、それは僕が治した方が早いと思ったから」
「そのなんでもできちゃうところが神さまって言われてても違和感ないんだよな〜」
少しの沈黙の後、フランシスは口を開いた。
「ガルシア」
「んー?」
「僕は、君と、友達になりたい。僕は幼少期から魔法が使えたせいで、今まで僕に近寄ってくる人たちはみんな、僕の魔力を目当てに擦り寄ってくる人ばかりだった。僕を利用しようとする悪い人たちを沢山見てきた」
でもガルシアは、そうでもないみたいだ。
「君だけだ、僕に真っ向から。純粋に、魔法で勝ちたいという思いから勝負を仕掛けてきた人間は。僕はそれがすごく不思議で、すごく嬉しかった。だから、君が怪我をした時は焦った! 絶対に僕が治してみせるって! 君がいなくなったら‥‥‥。君がいない世界を想像するとゾッとした」
「なんだなんだ? 急に告白か?? モテる男は辛い」
フランシスは珍しく顔を赤くしていた。
普段は全くと言っていいほど表情を変えないのに。
「茶化さないでくれ! 君みたいな存在に会ったのが初めてで、どう言っていいのかわからなくて」
「ははは、今更何を言ってるんだ! お前はもう俺の友達だろう!」
そう言って俺はフランシスと肩を組んだ。フランシスは微笑んでいた気がする。普段から無表情な男が、この時ばかりは安心していたのだと思う。
「ガルシア、僕と君はまるで太陽と月みたいだ」
「ん? どういう意味だ?」
「君が眩しすぎる太陽、僕はそれを見守る月」
「何を言ってるんだ? 俺にとってはお前が太陽なんだが! おお目が眩む! お前の光が眩しすぎて」
「かっ、揶揄うなよ! 僕は真剣なんだ!」
ガルシア、君は気付いていないけど、僕は君に救われた。
いつも特別扱いされてきた僕を、君は対等に見てくれた。
それから俺とフランシスの仲は続き、俺の王位継承が決まっても、学校へ通った。フランシスに会いたかったし、魔法も覚えたかったからな。
国王とかだるいなって思っていた時。急にフランシスから連絡があった。
(だるい? 今先王様だるいって言った?)
フランシスは魔法学校を卒業後、何故か辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。フランシスくらい魔法が使えるなら、そのまま魔法学校の教師にでもなればいいのに。
「なんだここ、お前はこんな田舎に住んでたのか? てっきり魔法学校の教師にでもなるものだと思っていたのに」
「はは、期待を裏切ってすまない。ちょっと事情があって‥‥‥」
フランシスは首を掻きながら申し訳無さそうに迎えてくれた。
「これは君にしか言えないことなんだが、聞いてくれるか? 僕にもしもの事があったら、僕の子にこれを与えて欲しい」
そう言ってフランシスが見せてきたのは、太陽の光を封じ込めたような不思議な色を放つ魔石だった。
ていうかお前子供いたのかよ!
的外れな俺の言葉を無視して、フランシスは魔石を俺に押しつけてきた。
「どうか頼む、僕にもしもの事があったらこれを息子に渡してくれ。ご先祖様が代々継いできたお守りだ」
「?おう、でも縁起でもない事言うなよフランシス。お前は俺の友達、親友なんだからな! たとえ俺が王になってもそれは変わらない。フランシス、困った時はいつでも俺を頼れよ! お前ほどじゃないが、俺も回復魔法を覚えたし」
「ははは、ガルシアはそのままでいいよ! ガルシアは、王になってもガルシアだ」
それがフランシスの最後の言葉だったーーーー
次にフランシスに会った時には、もうフランシスは息をしていなかった。
そこまで言ってガルシアは目をユーリに向けた。
「私はどうやって柱時計の中にいる君を見つけ、君の手を引いて、逃げたのかわからない。ただ、目には見えない邪悪の塊から、恐怖から逃げる事で頭がいっぱいだった」
なんだこの邪悪の塊は! まるで世界中の悪意を凝縮したような‥‥‥。怖い、怖い!
その得体の知れない何かが追ってくるのではないかと、私はただただ怖くて仕方なかった!!
私は君の手を引いて、お城の地下室に入り、しばらくガタガタ震えていたと思う。
「あの時の事は、覚えていないだろうな。なんせ君はまだ赤子だったからな」
そう言ってユーリに微笑むガルシア。
ユーリは何と答えてよいかわからない様子だった。
「あの時フランシスが私に言った言葉‥‥‥」
フランシス、今になってわかる。お前の言葉の意味が! 俺たちは月と太陽!お前は俺を太陽と言ったが。
俺にとってお前は紛れもなく太陽だった!
何故か涙が...( ;∀;)
男の人の友情っていいですよね。
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