傷付け合う二人
いよいよ本物のアナスタシアと対面することになったヴァレリア。
何故入れ替わったのかを問いただすが‥‥‥
ヴァレリアはアナスタシアの部屋の前で佇んでいた。
アナスタシア様、いえ、ヴァレリア様には入れ替わった時から会ってはいない。
「アナスタシア様、ヴァレリアですわ」
「‥‥‥何しに来たのよ」
アナスタシアは人払いをし、ヴァレリアを自室に招き入れた。
「私と入れ替わったのはアナスタシア様ですわね?」
「‥‥‥」
「何故答えないのですか?お顔を見てもよろしいですか?」
「嫌よ!ハンニバル様以外には見せたくない!」
御簾の奥からアナスタシアのヒステリックな声が聞こえる。
「‥‥‥」
私はこんなに、キンキンと喚いていたかしら?こんな、お行儀の悪い。しかも後宮といえど城内で‥‥‥
「アナスタシア様、大声をだして喚かないでください。みっともない。作法はきちんと守るべきです」
「‥‥‥ッ!何よ、何よ何よ何よ!貴女のせいでこうなったのよ!ちょっとの事ですぐに高熱が出る体!眩しくてまともに太陽も浴びられない!お陰で私は散々な目に遭ったわ!」
「‥‥‥そう、それはさぞ、ご不便をおかけしましたよね。でも、元々ご自分のせいでは?」
入れ替わりの儀式?を行ったのは貴女様だとニーズヘッグから聞いて知っている。
私は努めて冷静に答える。
「ははは、ハァハァ! 貴女が、その図太い精神力だけで‥‥‥。涼しい顔をしているから騙されたのよ!」
「‥‥‥何故、私に入れ替わったのですか?何故?」
「貴女の、この黒髪、そして黒い瞳が欲しかったのよ!私、貴女がずっと羨ましかった!妬ましかった!女中や侯爵家の奥様から慕われて、輝いている貴女が!」
「私が?羨ましい?」
貴女は私にないものを沢山持っているというのに?私が羨ましいですって?
「ヴァ、アナスタシア様は何か大きな勘違いをされているわ、貴女こそ! 私にないものを沢山持っているというのに」
「私は自分が嫌いだったわ。貴女になれるのだったら、自分なんかどうなってもよかったわ!」
こ、このお嬢様は、何故そこまで自分をお嫌いになるの?私はギリギリと歯軋りをする!もう我慢ができない!
「私は貴女の体で、不自由を感じた事などありませんでしたわ! 貴女は貴女に、もっと自信を持つべきよ!」
アナスタシア様の御簾を開けて言い放つ!
「「ッ!?」」
アナスタシア様と私がお互いを見て目を見開く!
「あ、貴女。何よ、何なのよ。‥‥‥その変わりようは‥‥‥」
これが、私?アナスタシア様?髪には艶がなく、肌にはまばらにできものができて‥‥‥。黒い瞳だけが血走ってギラギラして‥‥‥前はそんなに酷くなかったはずなのに!
「アナスタシア様、お薬は飲んでいますか?」
「そ、それより何なの?貴女本当に私なの?」
私、こんなに美しかったの?あんなに疎ましかった緋色の髪も、艶があって。みずみずしくて。肌もツヤツヤして。あんなに嫌だった紫の瞳もキラキラしてる‥‥‥
「なっ、何なのよ!どんな術を使ったのよ!!」
アナスタシアはヴァレリアに食ってかかる。
「術!?なんの事ですか?術なんか使っていませんわ!それよりアナスタシア様、お薬は飲んでいるんですの?」
アナスタシアはヴァレリアを掴んでいた手を緩め、ドサッとベッドにへたり込んでしまう。少し動いただけで血圧が上がって動悸がする。
「‥‥‥ハンニバル様に、勧められてしぶしぶ飲んでいるわ。苦いけども、お城で私の事を気にかけてくれる方なんてもうハンニバル様しかいないし‥‥‥。それよりどうして!どうして貴女はそんなに美しいのよ!入れ替わっても、入れ替わる前も!」
どうして貴女は私のないものを全て持っているのよ!!
「‥‥‥」
よかった、ひとまずお薬は飲んでいるのね。私の命はひとまず繋がったわ。
でもヴァレリア様、私がその体で生きていくのに、どれほどの努力をして。どれほどの我慢をしてきたか。ずっと健康だった貴女には一生わからないのね‥‥‥
私の頬にはいつのまにか涙が伝っていた。
「何よ、何故泣いているの!?泣きたいのは私よ!こんな虚弱で最悪な体になってしまって‥‥‥」
「‥‥‥ッ!!」
虚弱で最悪な体‥‥‥
そう、そんなに私の体がお嫌なら。
私はキッとアナスタシア様を睨み付ける!
「アナスタシア様、私ともう一度入れ替わってください!入れ替わりの儀式とやらで貴女の体を私に返して!!」
その時私の胸からニーズヘッグがボヨンと出てきた。
『お、俺様は嫌だ!今のヴァレリアの中が心地いいんだ!お前がアナスタシアになってしまったら、俺様は‥‥‥』
「大丈夫よ、ニーズヘッグ。何があっても守ると言ったでしょ?貴方はもう私の一部なのだから!」
それを聞いてアナスタシアが首を傾げる。
「貴女、もしかしてニーズヘッグを支配したの!?アッハッハ!傑作だわ!元は私の中で暴れていた悪魔が今度は私に支配されているなんて!」
ますます気に入らない!この女!!美しくなって私の前に現れたと思ったら、私を守ってくれていた悪魔まで従えているなんて!!
貴女は全てを持ち、私には何もない!!
いつのまにか私の瞳から大粒の涙が出ていた。
悔しい!悔しい!悔しい!
そうだ、この女の願望を、希望を消してしまえばいい!そうすれば私の溜飲が多少なりとも下がるはず‥‥‥
「‥‥‥いい事を教えてあげるわ。貴女は儀式が完成した時に、すでに私の全てを受け継いだの。もう貴女は私として生きていくしかないんだわ! 元に戻りたかったら、貴女が死ぬ以外方法はないわ!」
でもたとえそのまま私として生きたとして。この国のどこに、貴女みたいな悪魔憑きを好いてくれる物好きがいるかしらね!?
「これが私にできる、貴女への最後の贈り物よ! ざまぁみろだわ」
アナスタシア様、何故?
「何故、そこまで私をお嫌いに?私が貴女に何かしましたか?」
「貴女が幸せそうにしているからよ! 入れ替わってもケロっとして、悪魔も手懐けて、受け入れて。何なのよ!貴女は何なのよ!消えてよ!」
私の視界から消えてよ!
これ以上私を惨めにさせないで!
入れ替わっても意味がなかったと。私に現実を叩きつけないで!
「誰か!誰か来てちょうだい!」
「アナスタシア様‥‥‥私たち」
理解し合えないの?永遠に?こんなに近くにいるのに、アナスタシア様が、こんなに遠い‥‥‥
「アナスタシア様!私たち、私の話を聞いて! お願いです。これは私たちの問題でしょう? アナ‥‥‥」
あ‥‥‥
「さようなら、ヴァレリア‥‥‥」
アナスタシア様が、泣きながら見送っているのが見えた。
私は女中に両脇を持たれて引かれながら、その姿を見ながら何も言えなかった。
だって、今のアナスタシア様は、昔の私にそっくり。自ら周りを遠ざけて、全てを諦めて。
「アナスタシア様‥‥‥」
本当はこんな事、したくなかったはずなのに。
私は、ヴァレリア様の健康な体が羨ましかった!アナスタシア様、貴女は私の何を見ていたの??
私の何が羨ましかったの?!
* * *
私の部屋から去っていく私を見ながら私は泣いていた。
半ば追い出す形で、追いやってしまった‥‥‥
(貴女は貴女に、もっと自信を持つべきよ!)
わからない、私は何故。あんなに私が疎ましいの?!
「ああ、ごめんなさい‥‥‥アナスタシア‥‥‥」
私、本当は貴女に謝りたかった!
本当はこんな事、したくなかった。
本当はこんな事、言いたくなかったのに!
(ごめんなさい‥‥‥)
アナスタシアはもう一度呟いて、ゆっくりと自室に戻って行った。
ヴァレリア様もアナスタシア様も根底では分かり合っているはずなんですが、なかなかうまくいかないですね( ;∀;)
二人はこれからどうなるのでしょうか!?
ハンニバル様がアナスタシアの頑なな心を開いてくれること
願います。(他力本願)
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