私にマフラーを巻いてくれて
アナスタシア(ヴァレリア)に話があるといい、ヴァレリア(アナスタシア)様たちはバルカ城を訪れるのだった。
『お前あの話をするのか?ヴァ、アナスタシアに』
「うん、ニーズとの契約は私の元にあるから大丈夫だろうけど、その前にヴァ、アナスタシア様がどうなっているか。お薬はちゃんと飲んでいるか。確かめたいわ。あと、何故それほど私の事を嫌うのかも」
もうここまで来たら、直談判しかないわ。
「ニーズヘッグ、アナスタシア様がどんな状態になっていても、必ず貴方を守るわ。私もアナスタシア様に事情を説明するわ」
『うん、ヴァレリアかっこいいな!大好きだ!』
そう言ってニーズヘッグが私の頬にキスをする。
そこに丁度顔を洗って来たレクターが戻ってきた。
「ニーズ!お前ェー!(怒)」
『チッ、見られてたか!唇じゃなかっただけありがたいと思え!バーカバーカ!!』
「よし、わかった!お前を捕まえて皮をひっぺがして靴の材料にしてやる!!」
「ヒィ、や、やめてよレクター!可哀想でしょう!?」
『ヒェ〜!お助け〜!!』
ボインと音を立ててニーズヘッグが私の胸の谷間に戻る。
「待てニーズ!!」
揉みッ!!
ニーズヘッグを追いかけることに必死になっていたレクターは、ヴァレリアの胸をガッツリと揉んでしまった!
「きゃあ!レクター!!」
「おお!でかい!」
(すまんヴァレリア!ついムキになって!)
ふにふに、なおもヴァレリアの胸を揉み続けるレクター。
「こ、この!レクター!いつまで揉み続けてるのですか!!大体、心の声が逆になっているのですわー!!」
バッチィィィン!!
ヴァレリアの怒声と張り手の音が別荘中に響き渡った!
* * *
ヴァレリアとニーズヘッグ、王子はバルカ城を訪れていた。
「ヴァレリア、俺も付いていこうか?」
ヴァレリアの手形をべったりと頬に付けた王子が聞く。
「いえ、ここからは私一人で行きますわ。レクターは先程私にした無礼をシリウスと一緒にクソほど反省すればいいのですわ!」
「すまん、お前の胸があまりに柔らかくてつい‥‥‥わぶっ」
ヴァレリアは自分のマフラーをレクターの顔に投げつけた!街でレクターが買ってくれたマフラーだった。
「言わなくていいのですわ!」
ヴァレリアはツンと顔を背けた。
「そのマフラーは返さなくていいです!」
「ヴァレリア、今日の無礼は本当にすまなかった。マフラーは返すよ。お前に風邪を引いて欲しくない」
「むー‥‥‥」
レクターがそう言いながら私にマフラーを巻いて来た。
「では私は真っ直ぐ後宮に向かいますわ。レクターはどうなされますか?」
「俺は一応執務室に行ってみるよ。シリウスの様子も見てみたいな」
本当はざまぁしたいけど‥‥‥
「ではしばしお別れですわね」
俺が不満そうに見ているとその様子を察したのか、ヴァレリアが笑いながら口を開く。
「くすくす、レクター何て顔してるんですか? 今生の別れでもないのに、私は大丈夫ですよ」
「うむ、そうだと思いたいのだが‥‥‥」
なんだろう、何故か胸騒ぎがする。
「じゃあ、しばらく‥‥‥」
「じゃあね、後でね」
レクターとヴァレリアはそう言葉を交わし、それぞれ別方向へと足を運んだ。
「王子、お帰りなさいませ」
「王子がご帰還なさったぞ!」
ああ‥‥‥そうか、ここは城だった。
「ああ、そういうのいらないから静かにしてくれ。ここへ来たのはついでだ、ついで。すぐ城は出るんだ」
(ヴァレリアと一緒に)
「王子、では‥‥‥宴の用意はしなくても良いので?」
「俺が帰る度に宴会を開いてどうするのだ!?そのお金を国庫に充てろ!詳しくはシリウスにでも聞け! まったく‥‥‥」
城の連中は相変わらず馬鹿な奴らで溢れている。どうすれば俺に気に入ってもらえるか、どうすれば上に昇れるか‥‥‥
稀に爵位があっても俺に取り入ろうとする輩もいる
怖いもの知らずなのか?そういう奴らは問答無用で辺境に飛ばしてやる。
半ば立腹しながら執務室にたどり着いた。
(ん? 中から何か声がする)
ノックをしてドアを開けると、そこにはシリウスと、意外な人物がいた。
「‥‥‥テセウスか?」
「ん?レクターか?」
テセウス=グレイブズ・ロウ・ド・ヴィンセントバッハ。
マクシミリアン公爵の息子だ。
「おお、久しぶりじゃないか!何故こんなところに?」
俺はシリウスには一瞥もくれずテセウスのところへ行って握手をした。
テセウスは、自分の城の地下室でずっと何かの作業をしていたので目立たなかったが成績は優秀。
ただあまり表に出たがらない。テセウスも褐色の肌と青い色の瞳で俺そっくり。ただ唯一違うといえば髪の色だ。俺は栗色だが、テセウスは金髪。
見た目だけならこいつの方が王子っぽいんだけどな。俺はこのテセウスが大好きだった。王位や爵位にはまるで興味がなく、ただひたすら地下室での怪しい研究に勤しむ毎日。
「研究は進んでいるか?」
「いや、全然進んでない。急にこいつらが、お前の代わりをやってくれと言ってきて無理矢理ここに連れてこられた。あの作業、ここからがいいところだったのにブツブツ」
と、テセウスはシリウスの方を指差した。
テセウスは見た目に反してものすごく根暗で、風呂に入らない事もしばしば。マクシミリアン公はまぁお前の人生だし好きにしたら?という姿勢。またテセウスは18だと言うのに城のマナーなどお構いなしで礼装に着替えたところなど見たことがない。
今は無理矢理着せられているのか、貴族らしい刺繍が施されたウエストコートを着用している。普段はだるだるな格好をしているのに‥‥‥俺はこの自由なテセウスが少し羨ましかった。
「シリウス‥‥‥」
シリウスは泣きそうになっていた。辛うじてハゲてはいない。
「こ、これはハンニバル様のご意見ですよ!見た目だけは王子にそっくりなお方を用意して王子が城にいる事を認知してもらうんです!普段から王子が遊び回っているだの噂が飛び交ったら問題ですからね!」
「だからって俺の意見も聞かずに、俺は研究がしたいのに‥‥‥」
テセウスが小声でブツクサと言う。
「おお、テセウスよ。可哀想に」
王子のその一言でシリウスが怒髪天を突いた!
「何が可哀想なんですか!! 元々は王子が勝手に城を開けるからこうやって私が四苦八苦しているの‥‥‥に?」
シリウスの口には果物ナイフが当てがわれており、背後には王子がいた。
(王子!いつの間に!?)
王子がテーブルに置かれていたナイフを素早くシリウスの口元に持って行く。
「シリウス、お前は覚えていないだろうか? あの日叔父様の晩餐会での、俺の婚約者に対する無礼を‥‥‥」
シリウスの口には果物ナイフが入っていく。その口端から血が滲む!
「あ、血が出てるよシリウス」
テセウスのその言葉にシリウスは戦慄する。
(切られる!!)
シリウスの第六感が逃げろ、謝れと言っている。
「あががががー!!!!」
「シリウス、何か言うことは?‥‥‥あるなら答えろ」
そう言ってシリウスに当てがわれたナイフをサッと引っ込める。
「申し訳ございませんでした!!」
そう言って頭を深々と下げて謝るシリウスに王子は笑顔を向ける。冷たい笑顔。その視線だけで殺せそうな‥‥‥
「それでいい、だが次は切るよ」
シリウスはだらだらと汗をかいて後悔していた。自分がやった事とはいえ、それがこんなに王子の怒りを買っているとは‥‥‥
「そうは言ってもテセウス、お前は俺にそっくりだ。お前さえ良ければ俺の代わりをしてくれないか?」
テセウスはしばらく考えたあと、口を開いた。
「うーむ、ここの地下室を俺の研究所にしてくれるならいいよ。ずーっと使ってないだろう?ここの地下室は」
「地下室?バルカ城の?」
「そうそう、ちょうど俺の地下室が手狭になって来てるんだよね。俺のゴミが散乱しちゃってさ」
「ははは、それくらいお安い御用だよ」
「じゃあ俺、王子の代役やってもいいよ、最初は嫌だったけど、なんか面白そうだしさ」
実はこのテセウスは、地下室の怪しい研究オタクと呼ばれているが、俺と同じくらい仕事ができる。家もあり、領主でもあるのに、もっぱら研究に勤しんでいる。女遊びをするかと思えば今は女には興味ないとの事。
残念なお従兄弟様と呼ばれている。
よし、偶然だがこれで当分の政務の心配は無くなったぞ。あとでハンニバルに礼を言わなければな‥‥‥
レクターはそう独り言ちて、窓の外を見る
(ヴァレリアは大丈夫だろうか‥‥‥?)
一方その頃のエリーとセトは、オシリスに頼まれて魚釣りをしていた‥‥‥
おや、また新たな登場人物が‥‥‥レクター王子の影武者的な役割ですな。エリーとセトほっこりする〜!
次回は本物のアナスタシア様登場です。
本物のアナスタシア様は今どんな状態なのでしょうか?
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